たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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1章

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 しばらく騒いだ分、弁当を食べ進めた3人は、校内の自販機で買ってきたジュースを片手に午後からの授業嫌だなーと、無気力な会話をしていた。

「次は三木みき先生の数学じゃん。数字眠くなる…」

「彦瀬は理数好きだから余裕~。ドヤ!」

「効果音つけんなし」

 腰に手を当てて無い胸をそらした彦瀬は、また瑞恵に額をはたかれる。そばで見てきた夜叉にとって、2人のやり取りは時々新〇劇を見ている気分になる。

(三木先生…三木先生…あ)

 夜叉は大事なことを思い出し、こっそりと空気中に向かって話しかけた。

「…舞花。長いチョーク、今のうちにしまっておいてもらっていい?」

 瞬間、花の香りと共に真紅の髪を結い上げた、着物姿の女が現れる。

 彼女は夜叉の産みの親。幽霊である彼女は夜叉にしか見えず、常にそばにいる。

 舞花が煙管を軽く振ると、長いチョークが浮き上がってケースに入っていく。どう見ても超常現象だが、昼休み中に黒板を見る者はいないから問題ない。

「三木先生は筆圧強いから長いチョークがボキボキ折れるんだよね…」

 校内で有名な話だ。ちなみにこれは担任からの指示。チョークがいくつあっても足りないから。

「ありがと、舞花」

「どういたしまして」

 優雅に腰を折ってみせた彼女は、煙管を持ち直してまた消えた。

「ん? やーちゃん何か言った?」

「ううん」

 昼休み、もう終わるな…とぼんやり考えていた。

「桜木夜叉はいるか?」

 スっと通る、どこか鋭い女の声が教室内に響いた。なんだなんだと全員が教室の入り口を見ると、誰もが気を張りつめた。

織原結城おりはらゆうきだ…」

 さっきまで騒がしかった彦瀬ですらおとなしくなって縮こまる。瑞恵も冷や汗をかき始めたようだ。

「私だけど…」

 呼ばれた夜叉は、手を上げて立ち上がった。2人に止められかけたが。

 突然やってきた彼女────織原結城は、2組の喧嘩屋として有名だ。というかこの学校に喧嘩屋なんて彼女しかいない。

 藍色のショートヘアに、横にひと房の金髪。それだけ長いのは、生まれてからその部分だけ切ることができないとか、夜叉も風の噂で聞いたことがある。

 立ち上がった夜叉のことに一瞬驚いたような結城は、ツカツカと歩み寄った。

 彼女は見た目だけでなく服装も突飛しており。(主に教師陣が)80年代かと突っ込みたくなる長ランは腰から切り返しで大まかなプリーツがあり、太ももの半分ほどの長さのスパッツ。手には黒い革でできたフィンガーカットのグローブ。上靴ではなく、白と黒のハイカットスニーカーを履いている。

 明らかに制服が違うのだが、お咎めを受けることはない。

(確かこの人って1年の…)

 結城は夜叉の目の前で立ち止まり、勢いよく頭を下げた。その様子にクラスメイトは驚きでざわめき始めた。あの喧嘩屋が…感が否めない。

 彼女を間近で見るのは初めてで、意外と身長が低いんだ…と、夜叉は場違いな感想を抱いた。

「いつしかの夜はありがとう。おかげで命拾いした…。礼を言うのが遅くなってすまない」

「…はい?」

 夜叉は目を点にして固まった。クラスメイトのざわめきも増してくる。

「やーちゃん、やーちゃん? どういうこと?」

「私が聞きたいよ」

 彦瀬がコソコソと話しかけてきたのを、夜叉は地声で返して訝し気な顔をした。

「あのー…織原さん? どういうことかな? 私の記憶の限り、今日が初対面だと思うんだけど…。織原さんを私が助けた? とか全く…」

「何言っているんだ、颯爽と現れて助けてくれたじゃないか。なんだかよく分からない…ド派手な服を着ていたが」

「いやいや…あなたも十分派手なカッコしてるよ…」

 夜叉はあまりにも話がかみ合わないことに頭が痛くなり、そろそろチャイムも鳴るしお帰り頂きたいな…と思い始め、授業後にまた会おう、と教室からつまみだした。

「あわわわわやーちゃん! 一体織原さんと何があったの!? ていうか今、首根っこつかんで放り出したよね!? なんと末恐ろしいことを…」

「あー…明日も生きていますように…」

 彦瀬と瑞恵はそれぞれ、おろおろと落ち着きなく頭を手で押さえたりうなったりしている。

 クラスメイトたちもざわめき続けており、夜叉に向ける視線はどれも”なんてことしているんだ…”と言いたげなもの。

 夜叉はあっけらかんと笑って手を振った。

「大丈夫だって。もしもの時は私が盾になるよ…ってか、織原さんってこの高校の人には誰にも手を出さないでしょ? 今まで聞いたことないよ」

「それもそうだけど…怖いじゃん。気が変わるかもしれないしさ。最凶って他校の不良から言われてるんでしょ? そう簡単に心許せないよね…」

 そんなに怖がらなくてもいいのに、と夜叉は心の中だけでつぶやいた。クラスメイトたちの様子はどう見てもただの考え過ぎだ。

 なんてったって彼女は1年生の三大美人。それは学校側からある程度の自由が3年間許されている特別な存在。各学年で3人選ばれるもので、入学式で発表される。

 なんでもこの学校の伝説で、三大美人に祝福を受けた男子生徒は奇跡が起きるとかなんとか。詳しい歴史は残っておらず、実際に祝福を受けた男子生徒というのは近年いないらしい。

(織原結城さんね…)

 昼休みに移動させていた机を戻している間に数学担当の三木が教科書を小脇に抱えて教室に入り、同時にチャイムが鳴り響いた。結城は時間通りに教室に戻れただろうか、と少し心配になった。
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