たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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1章

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 やはりと言うべきか動画は学校中で話題になっており、教室に行くまでも入ってからも夜叉は注目されていた。

(あれは誰? ド…ドッペルゲンガー!?)

 彦瀬と瑞恵に席の周りをガードしてもらい、夜叉は1人、はわわわ…と青ざめて机の上でうなだれていた。

「大事ありんせんか?」

「全然大丈夫じゃない…」

 舞花は心配になって姿を現した。夜叉の後方で、曇った表情で煙管をふかしている。

 あれから自分でTw○tterで動画を見ると、リプライの数が異常だった。自分も見たことあるとか、この人だったんだ…とか。同じような内容が多いが。宇宙人!? 未来人!? はたまた超能力者のしわざ!? だとか、マニアたちはオカルトな見解を披露しあって盛り上がっている。

「ただの人間には興味ありませんってか…」

「何か言いんしたか?」

「…いや」

 スマホの画面をけだるげにスクロールし、これはこの学校の人なのでは…制服で撮ったプリクラをアイコンにするなんて、学校がバレるのとか学校側にアカウントバレるの怖くないのかな…。しかもJK2、17歳、トプ右まで書いてあるし。なんて現実逃避し始めた。

「桜木さんはもう登校してるかな?」

 男性教師の声が響いた。一部の女子たちが色めきたつ。

「やーちゃん、小野寺おのでら先生だよ」

「うん…」

 夜叉はスマホをスクールバッグにすべり入れて立ち上がった。

 小野寺はこの学校の理数を担当しており、そこそこ長く勤務している。甘くさわやかなルックスに加え、身長も高く人あたりがいいので生徒に人気だ。特に女子生徒に。

 ちょっといいかな、と連れてこられたのは化学室。昨日今日とよく呼ばれるな…と、道中でぼんやり考えた。その時、遠目で結城と目が合った。もしかして彼女が言っていたのはあの動画だろうかと、ピンときた。

 いつもの和馬みたいににへら、と笑ってみせると、ぎこちなくだがほほえみ返して手を振ってくれた。今回の騒動(?)抜きで、結城とはもっと話してみたいと思った。

 暖房が効いた化学室は心地よかった。この際、座った椅子が冷たいなんて文句はつけない。

「朝からごめんね」

「いえ…」

 そういった気遣いをしてくれるあたり、呼び出す前に暖房を効かせておいてくれたんだろう。そりゃ生徒にモテる。その証拠に彼は、夜叉たちの何代か上の生徒と結婚している。

 向いあって座った小野寺は、机に組んだ手を置いて体を夜叉に向けた。

「もう予想はしているかもしれないけど…昨日の夜にツイートされた動画に、桜木さんによく似た人が出ていてね」

「先生、それだったら私じゃないです」

 だってその人は胸ないし…という証拠は言えるわけなく。夜叉はシンプルに言い切った。

 意外、というか小野寺だからこそか。彼はうなずいてほほえんだ。

「大丈夫。先生たちは皆、あの真面目な桜木さんなワケないって信じてるよ。今回は形として聞きたかったんだ。生徒の中には信じてる人もいるようだし…」

「それ、なんとかしてもらえませんか? 私だけじゃどうにもならないです。友達と弟は分かってくれたけど。他の学年の人なんて接点ないし…」

「それはもちろん。今日にも集会を行うからね」

「よかった…」

 夜叉は安堵の表情になり、胸をなでおろした。今はこの豊かな胸に感謝するばかり。

 小野寺の宣言通りその日のうちに全校集会が開かれ、説明が行われた。その甲斐あって夜叉が注目されることは瞬時になくなった。

 驚くことに次の日にはそれらに類する動画も画像もツイートも全て削除され、新たに投稿してもすぐに削除されるという不思議な現象が起きるようになった。

 本当にあっという間だった騒動。気持ちが落ち着かなかったのはたったの3日で済んだ。

 それはなぜか夜叉よりも舞花が安心しているようで。

「なんだか最近、楽しそうだね」

「そうでありんすか?」

「うん」

 帰り道。夜叉は1人でいた。彦瀬も瑞恵も今日は早くバスに乗った。和馬は同級生と寄り道していくとか。

 藍栄高校は広い範囲から生徒が集まっているため、電車で1時間以上かけて登校する生徒もいる。

 そのため少しでも負担が減るようにと、高校の最寄りの高城駅を行き来するのにスクールバスが出ている。彦瀬と瑞恵は富川とみかわ市から通っているので、スクールバスを使用している。

 今日は1人だからと、小声で舞花と話しながら校庭を歩いていた。

「あ…。織原さん」

 先に歩く見慣れない制服が視界に入り、夜叉は駆けた。舞花も後ろからスススとついていく。

 呼ばれて振り向いた結城は、”おっ”という顔をして立ち止まった。

「桜木さん…。先日はすまなかった」

「いいのよ、もう。騒動が収まってよかったよ」

 しばらく話していると帰る方向がほぼ同じと分かり、2人は連れ立って歩き始めた。
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