たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
6 / 43
1章

しおりを挟む
 やはりと言うべきか動画は学校中で話題になっており、教室に行くまでも入ってからも夜叉は注目されていた。

(あれは誰? ド…ドッペルゲンガー!?)

 彦瀬と瑞恵に席の周りをガードしてもらい、夜叉は1人、はわわわ…と青ざめて机の上でうなだれていた。

「大事ありんせんか?」

「全然大丈夫じゃない…」

 舞花は心配になって姿を現した。夜叉の後方で、曇った表情で煙管をふかしている。

 あれから自分でTw○tterで動画を見ると、リプライの数が異常だった。自分も見たことあるとか、この人だったんだ…とか。同じような内容が多いが。宇宙人!? 未来人!? はたまた超能力者のしわざ!? だとか、マニアたちはオカルトな見解を披露しあって盛り上がっている。

「ただの人間には興味ありませんってか…」

「何か言いんしたか?」

「…いや」

 スマホの画面をけだるげにスクロールし、これはこの学校の人なのでは…制服で撮ったプリクラをアイコンにするなんて、学校がバレるのとか学校側にアカウントバレるの怖くないのかな…。しかもJK2、17歳、トプ右まで書いてあるし。なんて現実逃避し始めた。

「桜木さんはもう登校してるかな?」

 男性教師の声が響いた。一部の女子たちが色めきたつ。

「やーちゃん、小野寺おのでら先生だよ」

「うん…」

 夜叉はスマホをスクールバッグにすべり入れて立ち上がった。

 小野寺はこの学校の理数を担当しており、そこそこ長く勤務している。甘くさわやかなルックスに加え、身長も高く人あたりがいいので生徒に人気だ。特に女子生徒に。

 ちょっといいかな、と連れてこられたのは化学室。昨日今日とよく呼ばれるな…と、道中でぼんやり考えた。その時、遠目で結城と目が合った。もしかして彼女が言っていたのはあの動画だろうかと、ピンときた。

 いつもの和馬みたいににへら、と笑ってみせると、ぎこちなくだがほほえみ返して手を振ってくれた。今回の騒動(?)抜きで、結城とはもっと話してみたいと思った。

 暖房が効いた化学室は心地よかった。この際、座った椅子が冷たいなんて文句はつけない。

「朝からごめんね」

「いえ…」

 そういった気遣いをしてくれるあたり、呼び出す前に暖房を効かせておいてくれたんだろう。そりゃ生徒にモテる。その証拠に彼は、夜叉たちの何代か上の生徒と結婚している。

 向いあって座った小野寺は、机に組んだ手を置いて体を夜叉に向けた。

「もう予想はしているかもしれないけど…昨日の夜にツイートされた動画に、桜木さんによく似た人が出ていてね」

「先生、それだったら私じゃないです」

 だってその人は胸ないし…という証拠は言えるわけなく。夜叉はシンプルに言い切った。

 意外、というか小野寺だからこそか。彼はうなずいてほほえんだ。

「大丈夫。先生たちは皆、あの真面目な桜木さんなワケないって信じてるよ。今回は形として聞きたかったんだ。生徒の中には信じてる人もいるようだし…」

「それ、なんとかしてもらえませんか? 私だけじゃどうにもならないです。友達と弟は分かってくれたけど。他の学年の人なんて接点ないし…」

「それはもちろん。今日にも集会を行うからね」

「よかった…」

 夜叉は安堵の表情になり、胸をなでおろした。今はこの豊かな胸に感謝するばかり。

 小野寺の宣言通りその日のうちに全校集会が開かれ、説明が行われた。その甲斐あって夜叉が注目されることは瞬時になくなった。

 驚くことに次の日にはそれらに類する動画も画像もツイートも全て削除され、新たに投稿してもすぐに削除されるという不思議な現象が起きるようになった。

 本当にあっという間だった騒動。気持ちが落ち着かなかったのはたったの3日で済んだ。

 それはなぜか夜叉よりも舞花が安心しているようで。

「なんだか最近、楽しそうだね」

「そうでありんすか?」

「うん」

 帰り道。夜叉は1人でいた。彦瀬も瑞恵も今日は早くバスに乗った。和馬は同級生と寄り道していくとか。

 藍栄高校は広い範囲から生徒が集まっているため、電車で1時間以上かけて登校する生徒もいる。

 そのため少しでも負担が減るようにと、高校の最寄りの高城駅を行き来するのにスクールバスが出ている。彦瀬と瑞恵は富川とみかわ市から通っているので、スクールバスを使用している。

 今日は1人だからと、小声で舞花と話しながら校庭を歩いていた。

「あ…。織原さん」

 先に歩く見慣れない制服が視界に入り、夜叉は駆けた。舞花も後ろからスススとついていく。

 呼ばれて振り向いた結城は、”おっ”という顔をして立ち止まった。

「桜木さん…。先日はすまなかった」

「いいのよ、もう。騒動が収まってよかったよ」

 しばらく話していると帰る方向がほぼ同じと分かり、2人は連れ立って歩き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

処理中です...