たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
7 / 43
1章

しおりを挟む
 よくよく考えたら、和馬や同じクラスメイトとは一緒に帰ることはあったが、別のクラスの人と帰るのは初めてだった。

「三大美人ってどうやって選ばれるの?」

「私も知らん。入学式で突然言われたんだ。逆にこっちが聞きたいよ」

「へ~…」

 高校近くの公園に入った。ここは近道だ。ランニングしている人や、はきはきと歩くお年寄りがいる。

 冬で寒いというのに元気なことで。夜叉はコートの襟もとを寄せ、マフラーを巻き直した。だが、防御できない顔面への北風が冷たい。

 隣の結城を見ると、彼女は特に防寒はしていない。むしろ足は短いスパッツだ。靴下が特別長いということもない。

「織原さん…それ寒くないの?」

「あぁ、全く」

「確か夏もそのお召し物だったのでは…」

「もちろん。あ、くたびれることはないぞ。ちゃんと洗い替えもある。むしろ、生地が夏用になっているんだ」

「すごいなそれ用意した手芸部…」

 制服のことや三大美人の謎。知りたいことは話し始めると尽きなかった。

「ていうか喧嘩屋? なんでなの? 今日○ら俺はリスペクト?」

「…いやそういうワケでは」

「あ…そう? てっきり相方組んでそんじゃそこらの不良をぶっ飛ばすのかと」

「桜木さんドラマの影響受けてるな…」

 結城はあきれ顔で金髪をさわった。

 そもそも相方なんて組む気ないし、と彼女はつぶやいた。

 夜叉は公園の一番開けた所で立ち止まり、木々を見上げた。確かあの動画でそっくりさんが現れたのはこの辺りだったな…と、葉が全て落ちた木を枝から根本まで見下ろした。

「なっ…! チッ」

 隣で結城が舌打ちして構えた。本業モードに突然入った彼女に、夜叉はあたふたと戸惑った。

「お…織原さん?」

「桜木さん…今日はここまでだ、早く帰れ」

 命令口調になった彼女と同じ方向を見ると、明らかに全うな生徒ではない連中が6人、連れ立っていた。まるでドラマのようにガラの悪い歩き方だ…と、おふざけ気味な感想を抱いた。

「この前はどうも、結城さんよ」

「何しに来た」

 リーダー格の茶髪で派手な髪型をした男は、自分だけ一歩踏み出した。守られるように後ろに控えるタイプではないらしい。

「そりゃ決まってんだろ、この前のお礼参りだ。楽しい俺らの喧嘩に野暮が入ったのも惜しくてよォ…。ていうか今日はいるじゃねぇか。普通の格好をしてっけど」

 他校の不良たちが一斉に夜叉のことをにらんだ。そんなにあごを上げんでも…と、また場違いな感想を抱く。

「…彼女は関係ない。あの時と別人だ」

「ふーん…。でもいいや、美人だし連れてくかな…。てめーんとこの三大美人か」

「あ、それなら違いますよ。私はカスリもしてないんで」

「桜木さん!?」

 多くの不良を前にしながら、夜叉は恐れることなく頭をかいてヘラヘラしていた。それには不良たちも呆気にとられたようで。リーダーの男は首の骨をバキッと鳴らし、肩を回し始めた。

「…ますます気に入った。これくらい度胸のある女じゃねーと見合わないからな」

「てめぇ…」

「織原さん」

 夜叉は結城の肩に手を置き、にっこりと笑った。

「大丈夫、私もいるし。簡単にやられないよ」

「それは私だけだ! あんたは喧嘩なんてしたことないだろう!」

「甘いね、バカデカい弟がいんのよ? 小さい頃、生意気言った時はシメていたんだから。保育園でもいじめっ子を撃退していたし。親には怒られたけどね」

 語りながら夜叉は制服の袖ボタンをはずし、寒さに構わず腕まくりをした。コートもマフラーも取って。さっきまで寒がっていたとは思えない姿に、結城は何も言えなくなった。

「いいねぇ…。強い女は好きだ」

「…まずはあんたからだ」

 夜叉は軽い助走をつけてリーダーに突っ込み、腹部にパンチをくらわせた。その勢いにしては見合わない飛距離で彼は後方へ吹っ飛び、仲間を何人か巻き込んで倒れた。うめき声をあげる彼は、ガードする余裕がなかった。

 彼女はその様子に表情を変えることなく、手をクイクイッと動かした。

「さぁ、頭はやった。次は誰だ?」

 その様子に仲間は互いに目を合わせ、一斉に夜叉に飛び交った。

「一応女相手だって言うのに…」

 ボソッとつぶやいた彼女は手首をコキッと鳴らし、今度は助走なしで後方へはねて男たちをよけた。その距離は、結城からさらに3mほど後ろで。

「なんだこの人は…」

 結城は思わず構えをとき、夜叉の戦う様子に目を見開いて硬直した。

 正直、こんな強いというか人間離れした喧嘩は見たことがない。まさに圧倒的で。

(この前助けてくれた人と動きが似ている…)

 あの時の彼女も、跳躍力を活かして不良たちをたった1人で翻弄していた。

 夜叉はそれほどではないが、あっという間に男たちをのしてしまった。結城ですらこんなに短時間でカタはつかない。

「織原さん、大丈夫?」

 手をはたきながら振り返った夜叉は、かすり傷はおろか制服を乱すことなく戦い終えたらしい。

 結城はしばらく、まともに返事ができなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...