たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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2章

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「じーじ、ばーば!」

「あらあら。さくらは元気ねぇ」

 夜叉が本当に幼い頃────母方の祖父母と老犬のロンと暮らしていた。

 祖父が手入れしている庭でロンと駆けるのは日課で、その頃から運動神経は抜群だった。木登りして遊び疲れ、ロンと木の根元でぐっすりお昼寝するのもまた日課。
 
 おまけに祖母の趣味である書道を真似て字を覚えており、小学校に上がってから苦労することはなかった。簡単な計算も教えてもらっていた。

 時々遊びにくる和馬と一緒に遊び、同じ歳だが夜叉が姉ということに自然になっていた。

 その祖父母もロンも、さくらを育てて3年も経たないうちに亡くなった。2人ともほぼ同時期に。のちにふたりはそれぞれ持病があったと両親に聞いた。そして彼らに引き取られた。

 祖父母とロンのお墓参りをしたのは騒動のあった週末。夜叉と和馬の住むアパートに両親が遊びに来たのだ。

 実は高城市は母方────愛瑠あいるの実家。父────奈津なつは富橋出身だ。

 やはりこの日は夜叉のそっくりさんの騒動が話題になったが、マイペースな両親は大して気に留めていない。それは相変わらずと言えば相変わらずで。

「でもやっぱりさくらちゃんの方が可愛いわよね~」

「ウチの娘は世界一! いや、宇宙一?」

「リ○ちゃんよりもバー○ーちゃんよりもね~」

「例え微妙じゃない? 芸能人の方が分かりやすくない?」

「いやいや…親バカも大概にしなさいよ…」

 夜叉が暮らしていた愛瑠の実家は、今は彼女の弟が1人で住んでいる。彼は駆けだしの絵描きで、実家をちょっとしたアトリエにしつつお墓の管理をしている。



「あなたはどうしてさくらと同じ服じゃないの?」

「わっちはこの時代の人ではありんせんから」

「この時代って?」

「主を生かしてくれた今のことにありんす」

「ふーん…」

 あの時”協力者”と名乗った少女は、産みの母親が見えることは誰にも話してはいけないと言った。彼女と話す時は人に見られないように、とも。

 舞花に質問攻めするようになったのは、出会って3ヶ月経つ頃からだった。

「じゃあ舞花はどの時代の人なの? 戦国時代?」

「違いんす…」

 知ってる時代名を適当に言ったら、滅多に笑わない彼女がほほえんだ。

「わっちが生きたのは江戸時代と言いんす。江戸という町で華やかな場所で生まれんしたが、閉鎖された場所でありんした。不夜城…とも呼ばれておりんした」

「へ~…」

「主にはまだ難しい話…。でも主も少しだけ江戸時代を生きたのでござんすよ」

「え!? あ…江戸時代っていつ?」

「長い時代にありんすが…主が生まれたのは今から大体200年前」

 まだ歳が一桁の彼女にとって、百の位は未知で。夜叉は目を輝かせて舞花のことを見つめた。

 舞花の話を聞いている限り、自分は時代を飛び越えたようだ。まるでドラ○もんのタイムスリップを使ったような。

 逆に今、江戸時代に行くことはできるのかと聞いたら、彼女は小さくうなずいて夜叉の右目のアイパッチにふれた。もちろん霊体なのでさわられた感触はないが。

「…この瞳が開かれた時にはきっと。正直、わっちは行ってほしくありんせん」

 舞花があまりにも悲しそうな表情で、それ以上話さなくなったので夜叉は自然と出生時のことや舞花が生きた時代のことは聞かなくなった。

 だが、幼い頃に聞いた彼女の話は断片的に今でも覚えており。インターネットというものを使えるようになってから調べた。

 彼女の着物の帯が前にある違和感と話し方、髪の結い方で花魁おいらんであることが分かり、一口に吉原と言っても有名な火事があった後の”新・吉原”で生きたことも知った。

 では自分の本当の父親は────。

 もしかして彼女の遊女時代の客とか?

 そして彼女が幽霊としてこうして一緒にいる理由は。

 聞きたい。

 だが、産みの親の悲しそうな顔はもう見たくない。

(いつか舞花から話してくれるかな…。こっちから聞くべきじゃないよな…)

 ある程度成長した今、それが野暮なことは分かってる。

 …思えば”野暮”というのは舞花からうつされたものだ。中学時代に同級生カップルの噂を舞花に話していたら、”この野暮天”と煙管でコツンと額をつつかれた。

(う、うん…。変に思い出すのはやめようか…。無駄に好奇心が高まるだけ…)

 夜叉は今の父親の運転する車の中、かすかに頭を振った。
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