たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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2章

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 両親とは夜に外食し、彼らは帰った。

 アパートに帰ってからすぐにシャワーを浴びて、自室でスマホをいじってダラダラしていたら舞花がベッドの端に現れた。いつもの定位置だ。

「…他校の不良に目をつけられた話はしなくてもよかったのかえ?」

「だーそれ! 内緒でいいって言ったじゃん!!」

 …そう。あの日、結城と一緒に下校して例のそっくりさんがぶちのめした連中を、今度は夜叉が呆気なく倒してしまったという話。結城にはまた疑われたのだが、すぐに誤解が解けたのでよかったのだが。

 ただ、不良連中には目をつけられる羽目になった。結城の言う通り、早くさっさと帰るべきだった。

 舞花は煙管をふかし、半分見えない足を組んだ。あまりきっちりと来ていない着物だからこそできる姿勢だ。

「ていうかさ、ホントにあの時舞花は何もしなかったの? その魔法の煙管で操り人形みたく私を操作していたとか────」

「そんな恐ろしいことはできんせん」

 彼女は首を振った。夜叉はスマホの画面を落とした。

「じゃあなんであんな動きができたんだろう。今まで自分の体を特別重く感じたことはなかったけど、あの日は特に軽かったんだよね」

「…」

 舞花が気まずそうに顔をそらした。うまくごまかそうとしているつもりだろうが、煙管を持った手の人差し指で煙管の下をトントンと不自然に叩いている。明らかに何か考えている。

「どうしたの?」

「いえ…」

「…心あたりあるんだね?」

「主は聡い子に育ちんしたね…」

「あっさり教えてくれた」

 夜叉は両手をベッドの端について彼女の顔をのぞきこんだ。

「主のとと様のことにございんす。とと様は────人間ではございんせん」

「えっ!?」

 聞きたいと最近思っていたことをこんな形で、しかもあっさりと教えてもらえるとは。それに────変化球で来た。

 父親が人間ではない────。この流れでとうとう教えてもらえたのは、自分の不思議な身のこなし方が関係しているのだろうか。

「今まで言わなかったのは、ここで生きるのに必要でないと考えていたから。でも…こうなってしまった以上は話さなければなりんせん」

「ここで生きるのに? じゃあどこだったら」

「────一族の元」

「一族…?」

「主のとと様の一族で、彼らは人間の姿をしている存在。”戯人族ぎじんぞく”と言いんす。神の戯れによって生まれた存在で人並み外れた身体能力と記憶力を持っておりんす。全て主のとと様────朱雀すざく様から聞きんした」

 舞花はこれまでだまっていたことを一気に吐き出すように話した。

 朱雀は初めて会った時から舞花のことしか見ておらず、舞花の客は朱雀しかいなかったことや、朱雀もまた他の遊女を抱くことはなかったと。遊郭だとか遊女の意味はすぐに分かった。1人で調べていたから。

「ねぇ…運命さだめちゃんって関係ある?」

「もちろん。わっちらの恩人でありんす。主はやっぱり覚えておりんしたか」

「そりゃ…舞花と初めて会ったのと同じ日に知り合ったから」

 舞花はかすかにほほえんだ。煙管を下ろして天井を見上げた。

「わっちらがこの時代へ来たのは、わっちがいた吉原が火事に襲われたから。江戸では今よりずっと火事が多い時代でありんした。わっちがいたくるわも元の場所から移転しておりんす。主が生まれてしばらくたった頃の火事は今までよりひどく、わっちはせめて主だけはと禿かむろ────わっちの妹のような存在に託して逃がしんした。浅葱あさぎは預けるあてがあると言っておりんして」

 浅葱というのが彼女の禿という存在だろう。花魁の身の回りの世話をしながら吉原で生きていく術を勉強する、未来の遊女だと夜叉は知っている。

「ここからは運命さんの話にございんす。運命さんは時代を自由に行き来できる時の女神で、様々な時代や場所にほこらをお持ちにございんす。浅葱の生まれた場所には偶然その祠があり、浅葱は覚えておりんした。そしてまた偶然江戸時代に来ていた運命さんは浅葱から幼い主を預かり、この時代へ連れて来んした。火事で焼け死んだわっちを主の元へ送って下さったのは死神様のおかげ」

「しっ…死神…」

 夜叉は少しだけ身を引いた。顔は思い切り引きつらせていたが。

 なぜ恐ろしい存在に"様"なんてつけるのか…。

 夜叉の中では大鎌を持ち、フードのついた黒いローブを羽織った顔がドクロの人物が高笑いをあげている。

「おそらくでありんすが…主の想像している死神とは違いんす。とてもお顔の整った美青年にございんす」

「え…そなの?」

 拍子抜けした夜叉は目を点にし、パチクリとさせた。
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