たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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2章

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 影内朝来かげうちあさきひびき高校の総長だ。

 特別荒れている学校ではないが、一部の生徒は不真面目というか他校の生徒にちょっかいをかけることを好んでいた。

 同じ高城市にあるので結城が特に気をつけており、先日襲われた学校でもある。

 だが彼女も知らない本当の響高校のリーダーは、外部の者に自ら手を下すことはしない。

 ストレートで少し長めの黒髪に、整った容姿と170㎝ちょうどの身長で、彼はしばしばスタイル抜群な男装女子生徒に間違われることもある。

 来るべき時には自分が出る────と宣言している男だ。彼は入学した時、バラバラだったこの学校の不良たちをまとめ上げて頂点に登り詰めた。それ以来、3年生の彼がこの学校の総長だ。

「影内さん、例の女は藍栄高校の生徒でした」

「あぁ…あの織原さんがいるところか」

「はい。どうも2人はつるんでいるようで」

「ふーん…」

 彼らが占拠した、今は使われていない部室棟。そこの3階で朝来はボロボロの1人掛けソファの上で、肘をついて足を組んだ。これは昔、校長室で使っていたが、廃棄になる所をここへ運び出したものだ。

 あごを持ち上げて話す様子は高慢だ。

「あの大きい私立ねぇ…」

「気になるんですか」

「ちょっとね。彼女に用事があるかもしれない」

 彼がとうとう動くのか。朝来以外でリーダー格を放つ2年生の男が冷や汗をかいた。彼はこの前、一発目に夜叉に打ちのめされた。本来、腕っぷしは1年生や同級生、朝来以外の3年生も抜かして強い。

「ただ者ではありませんでした…。あれは人間の動きじゃありません」

「1番最初に君らがでくわした時のこと? それだったら織原さんといた時の彼女じゃないよ、樫原かしはら君」

「はぁ…?」

 サブリーダーの男────樫原が抜けた声で朝来を見上げた。彼は一体何を言いたいのか。

 だが朝来にはただならぬ威圧感が漂い、それには誰もが戦慄した。中には朝来に首をつかまれ、射抜くように瞳をのぞきこまれ、その後の記憶がないというものもいる。よほど恐ろしい目に遭わされたのだろうと思われている。

「影内さんは例の女を知っているんですか」

「まぁね…。直接会ったことはまだないけど」

「まだない…?」

「あぁ。彼らのことを知ってるだけ」

「仲間がいるんですか…。あんな人間じゃないようなヤツらが」

「いるよ。いろんな所に。僕らに直接関わってこないと思うけどね」

 朝来は横の髪をクルクルと回し、口の端をあげた。樫原にはおよそ理解できない話だった。

「このことは深く考えなくていいよ。関係ないから…。目をつけるのは織原さんだけね。一緒にいた彼女には手を出さない。いいね?」

「は…はい」

 自分のことを深い色の瞳で見つめる彼に少しぎょっとした。例の女に似た女に手を出したら殺す────とでも言いたげで。残りの者たちにもよく言い聞かせなければ。朝来を怒らせるのは得策ではない。

 明日の昼休みに全員呼び出すか。樫原が視線をそらすと、朝来が手を振って姿勢を崩した。

「そろそろ帰りなよ。もう暗くなってきてるよ」

「はい…。お先に失礼します」



 後輩を帰し、朝来は立ち上がって窓を開けて窓枠に腰掛けた。片足を曲げ、藍栄高校がある方角を見て目を細めた。朱色の夕陽がまぶしい。

「逢魔が時、か…。魔物じゃない君らには関係ないと思うけど。ようやく君に会う時が来たのかな…」

 彼は1人ほほえみ、肘で頬杖をつく。

 枯れ葉が北風に乗って朝来の目の前に飛んできた。彼はそれをつかみ、握り締めて手をゆるめた。そこには炭化して粉々になった葉だったものの残骸。手からこぼれた灰は風に乗って外へ出て行った。

 彼は自分の手を軽く息を吹き、叩いて払った。

 一族で特に人望が厚く、人間が好きでよく個人的に人間界に遊びに行っていたという男。

「僕らには他人を尊敬するなんて感情はないからね…。そういう感情は立派だと思うよ」

 朱色の着物を粋に着こなした、襟足が長い濃い桜色の髪に瞳は深い瑠璃色。

 最近、高城市に現れていた謎の女も同じ髪色。彼女にそっくりな結城の連れも。瞳の色までは知らないが。

(さて…僕も帰ろう…。こんな考え事なんて家でもできる)

 朝来は部屋の隅に放っておいた自分のバッグを掴み、開け放たれた窓から飛び降りた。
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