たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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2章

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 今日は珍しく寝坊した和馬に”今日のお昼は自分で調達して~…”なんて朝から泣かれ、こんな日もあるとなだめながら一緒に登校した。その姿を見た2人の関係を知らない者は、朝から彼氏が泣いてるのを彼女が慰めてるんだ大変そう…と夜叉に同情した。

 そして昼休み。夜叉は瑞恵と彦瀬と購買部へ昼ごはんの調達へ来た。

「お昼何にするー?」

「えーとね、ビーグルサンドか…。おうどぅん…。違う、デザートだけ…」

「みーちゃん、うどんのことをオフトゥンみたいに言わない」

「ていうか瑞恵、ビーグルじゃなくてベーグルだよ!」

「え? あ…あはっ」

 珍しく瑞恵が彦瀬に突っ込まれた。やはりここは犬を飼っている彦瀬が勝った。彼女は自宅で茶色の大きな・・・ミニチュアダックスフンドを飼っている。

「彦瀬、りゅうちゃんをブクブク太らせてるんでしょ?」

「だってりゅうちゃんなんでも食べてくれるんだもん。彦瀬の嫌いなものも…。しいたけとか」

「しいたけ!? しいたけ食わせてんの? てか犬的にそれは大丈夫なのか…」

「うん、今までお腹壊したことないよ。獣医の先生も、しょっちゅうとか生じゃなきゃ大丈夫って」

「お、おぅ…。耳初だわ…」

 そんな会話を交わしつつ、3人は購買部の列にそれぞれ並んだ。まだ昼休みになったばかりなので人は少ない。

 彦瀬も瑞恵も普段はお弁当派だが、今日は夜叉が昼ごはんを買うということで、デザートを買いに一緒に来た。

 藍栄高校では購買部も食堂もある。購買部は普通のカフェのようにドリンクとサラダがセットになった総菜パンや、和食派のためにおにぎりセットもある。もちろん価格は生徒のために優しく設定されている。もちろん栄養面も。食堂では定食や麺類を食べることができる。

 夜叉はピザパンセット、プリンを購入した彦瀬と瑞恵と教室へ戻ろうとした。

「あーでもな…。私もそのプリン食べたいかも…」

「やーちゃんも女の子だね! でもあげないぞ~」

「別に彦瀬のほしいな~とか思ってないし! だー!! 後悔する前に買ってくる!」

「「行ってらっしゃ~い」」

 ピザパンを瑞恵に預け、夜叉は再び列に並んだ。気持ち、さっきよりも列が長くなっている気がする。

 先はまだ遠いかな…と、背伸びしていたら久しぶりの視線を感じた。

(…!)

 バッと顔を廊下に向けると、瑞恵と彦瀬が教室に戻る後ろ姿。────の、手前に、例の男女の2人組が。確か結城のクラスの。

(またいた…!)

 女子の方はまた目を輝かせ、夜叉と目が合うと逃げ出した。男子の方と目が合うと、彼は走っていく女子を振り返って夜叉に苦笑いを見せた。

 夜叉はしばらく無言で見ていたが、壁の時計をチラッと見やった。まだ昼休みが終わるまで余裕がある。

 彼女はプリンをあっさりと諦め、廊下の男子目がけて走り出した。

「え…。おぅっ!?」

 彼は目を丸くし、”え、あ、う…”と、声にならない声を上げ、迫ってくる夜叉に背を向けて一目散に走り出した。あまりの速さに、購買部の視線が夜叉に集まる。お腹を空かせている生徒も、食事の用意をするおばちゃんたちでさえ。

「な…。な!? 速いわぁ!」

 男子が驚きの声を上げながらダッシュしている。夜叉は表情をピクリとも動かさずに素早く手足を動かしている。

 廊下を走るなーというベタな注意が飛んできたが、スルーした。今まで謎の視線を向けられたのだ。追い回していい謎の権利があるハズだ。

(追いつけるな2人とも…。それにしても)

 風が体をかすめる。その感覚が爽快で気持ち良かった。

 今までも足は速かったが、もっと走ってみたいと思い始めていた。

(アスリート希望? 謎だわ…)

 夜叉は腕をのばしきって男子のブレザーの襟首をつかんだ。

「へ…? おわぁぁぁ!?」

「追い…ついたっ!」

 彼女を口の端を上げ、後ろ手で男子を引っ張りながら尚も走り続けた。首を絞められた状態で宙に浮いたままの男子は目を回している。

「あとはあのコ…!」

「ひぃっ…」

 先を走っていた女子は振り返って顔を青ざめさせ、悲鳴だか恐怖の声を上げた。殺気を帯びて走り迫ってくる夜叉の勢いは鬼ごっこの鬼とは比べ物にならない。

 お昼ご飯を調達したらしい、途中で歩いている女子が振り向きぎょっとした。

神七かんな?」

「ごめんあとでー!!」

 ランナーのクラスメイトらしい。名前は”かんな”、ね…。走りながら脳にインプットし、こちらはあっさりと確保に成功した。




「あんたらね…。最近よく目が合うね? 何か用かな?」

 2人は自ら廊下に正座し、ヘタしたら今にも夜叉に土下座しそうな勢いがある。廊下を行きかう生徒たちにチラチラと視線を向けられ、夜叉はなんとなく罪悪感を抱いた。というか正座しろとは思ってないし…と、せめて心の中だけで言い訳する。

「ご、ごめんなさい…」

「やましいことは考えてないです…」

「じゃあなんで」

「かっこよかったから…」

「え?」

 一切予想していなかった────否、理由を全く考えたことはなかったが、”かんな”の答えにポカンとした。

「君は一体何を言っているんだい?」

 素に戻って頬をかくと、彼女は顔をあげて夜叉にとびついた。男子の方は”あらあら…”と言いたげに立ち上がった。

「だってあたしが自転車で走っていた前を飛んでいったんだもん。しかもコスプレしてたし、めちゃくちゃキマってたんだけど!」

「待って…。それ私じゃないって全校集会で説明されたの知らない? しかもコスプレとは…」

「知ってるよ?」

「じゃあなんで」

「似た人でも、近くに不思議な存在がいたら楽しいじゃん…! だから勝手にあたしは桜木さんがあの時の人だって信じてるよ」

 目を輝かせている”かんな”にあまり厳しいことは言えなくなった。勝手に、か…。それだったらいいかななんて開き直りそうだが、それを聞いた他人からまた新たに噂がたったら困る。

「ん~…。ちょっと困るな…」

「う…。そだよね…」

「香取。桜木さん困ってるから…。こういうのはやめよう?」

「うん。分かった…」

 男子の方が彼女をなだめた。聞き分けがいい人でよかった。それにしてもあっさりすぎやしないかと思ったが。それだけ2人は仲がいいとか? よく一緒にいるところを見てきた。

「もしかして2人は付き合っているの?」

「「それはない。ただのオタ仲間」」

 否定は嘘じゃないかと疑うくらいのそろった答えが返ってきた。夜叉はまた頬をかき、2人の顔を見比べた。
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