たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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3章

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 鹿島神児しんじ。香取神七。それが謎だった男女の名前。あまりに神々しい名前に慄いたら、2人は遠い親戚同士だと教えてくれた。

「織原さんもよく話しかけられるの?」

「あぁ…。神七が私の服にやたら興味を持っていてな…。”コスプレみたい”ってよくくっつくんだ」

「やっぱり? 私もそんなようなこと言われたよ」

 結城とは時々一緒に帰る仲になっていた。話題はあの神コンビ。2人はアニメが好きで、よく一緒にいるそうだ。誰もが2人は付き合っていると思っていたが、真顔で真っ向から否定される。

「桜木さんのそっくりさんのことか。確かにアイツが好きそうな服だったな…」

「うん…。おかげでずっと”じーっ…”て見られてたよ…」

「でも鹿島が止めてくれるだろ。アイツは暴走した神七のいい制御装置だよ」

「それは言えてる」

 それにしても神七は彦瀬に少し似ているかもしれないと、夜叉はうっすらと思った。

 結城の金髪がゆらゆらと動く。思わずそれに手を伸ばしてふれてみた。

「…?」

 結城が怪訝な顔をして夜叉の手を見つめる。振り払わないから嫌がっているワケじゃないらしい。

「この金髪…切れないんだよね」

「あぁ。おかげでコイツだけ永遠に伸ばすハメになっているんだ」

「16年生きてこの長さってのも不思議だけど…」

「よく分からんが、コイツだけ伸びる速度が遅いんだ」

 彼女は夜叉に金髪をもてあそばせて腕を組んだ。

「他校の不良にもこれがトレードマークだって覚えられていてな…。全く知らない相手から喧嘩をふっかけられることもあるよ」

「それはとても厄介…」



 自宅に戻ってきたが和馬はまだいない。今日は通学路の途中にあるスーパーで買い物してから帰ると言っていた。この曜日は安いから! と、朝から張り切っていた。

 夜叉は自室で部屋着に着替え、宿題を片付け始めた。

 実はバリバリバイトをしている彦瀬や、家で楽したい瑞恵は放課中に終わらせていることが多い。ただ彦瀬の場合、放課中に終わらせることができずさらにバイトにいそしんだ結果、提出時間ギリギリまで取り組んでいることがある。その時は迷わず夜叉や瑞恵のノートを写したり手伝ってもらっている。

 自慢ではないが、夜叉は成績も優秀だ。テストなんかでは学年のトップ10に入ってるのが常だ。

「これもこの前の戯人族ってヤツの血のおかげ?」

「あい。とと様も大変教養深いお方でありんしたから」

「ふーん…。もの覚えが速いとか?」

 舞花はうなずいた。夜叉はシャーペンを置き、後頭部で手を組んで天井を見上げた。

「なんかいいとこどりな人たちだよね…。私、その人たちと親戚? 仲間ってことだよね。いつか会うことはあるかな」

「それはなんとも」

 彼女は肩をすくめて煙管をくわえた。夜叉も姿勢を直し、また宿題に向き合った。

 今日は彦瀬はバイトの日で、店長に頼まれたから遅くまで働くんだと言っていた。クリスマスも入ってくれと、すでに言われているらしい。

 彼女はコンビニがバイト先で、そこでは悲願の”凛子ちゃん”と呼ばれている。

 瑞恵は両親からバイト禁止と言い渡されている。

 夜叉はこれと言ってバイトする気はなく、部活も入りたいと思ったことがないので毎日自宅へ直行だ。寄り道のお誘いがなければ。

「今日の晩御飯何かなー」

「これ、集中しなんし。たまには主も手伝えばよいのに…」

「私が手伝ったら逆に邪魔だよ。私は食べる専門でいいの」

 そう言って胸を張ると、舞花はため息のように煙を長く吐き出した。

 その時。夜叉の部屋の窓がカタカタと音を立てた。地震かと思いきや、窓の外に久しぶりに会う人物がいた。

 夜叉は再びシャーペンを置いて窓に近寄り、開け放った。

「久しぶりだね────運命ちゃん」

「久しぶり。その呼び方相変わらずね…。あんたくらいよ」

 時の女神、運命。彼女は時々こうして夜叉と舞花に会いに来る。

「やった」

「喜ぶポイントが分からない」

 金髪に碧眼、白いコートに白いマフラーという、全身真っ白な少女がフワリと飛んで部屋に入った。

 舞花は煙管を持ち直して頭を下げた。

「お久しゅうございんす。運命様」

「舞花さん…。そこまでかしこまらなくてもいいのよ」

「恩人にございんすから…。死神様はやはりお忙しゅうござんすか。長らくお会いしておりんせん」

「えぇ。別件で飛びまわっているらしくて。舞花さんにも、そろそろ夜叉にも会いたいと言っていたわ」

「ひぃっ…。死神…!」

 夜叉が息を過度に吸い込んで苦しそうな声でおののいた。舞花から彼は好青年で恩人だと説明されているが、やはり簡単には受け入れられない。

「何をそんなに怖がっているのよ…」

「わっちが説明してもダメでありんす…。やはり一度あった方が早うと思いんす」

「ふー…。あのねぇ夜叉。死神と言えどアイツは本当に美形で、会った瞬間に気絶する女がいるくらいなのよ。…まぁ、ヘタしたらあんただったら”へーふーん”くらいで済みそうだけど」

「お、おぅ…」

 外は寒いから、と夜叉は紅茶のセットを用意して運命にふるまった。

 運命はしばらくそれの香りを楽しみ、一口含んだ。

「今日来たのは…。夜叉、一族があなたに会いたがっているのを伝えに来たの。人間と戯人族のハーフであるあなたがどれだけの力を持っているか知りたいんですって」

「はぁ…。というかゴチャゴチャ言ってないで普通に会いにくればいいのでは」

「彼らも暇じゃないわ。私みたいに時を越えて活動しているから」

「そうなの!? スポーツ万能とかめっちゃ頭いいとかだけじゃないのね」

「えぇ…。あ、それでね。最近は一族から監視役を送りこんだらしいけど、あなた知ってた?」

「いいえ全く」

 夜叉が首をふると、舞花は煙管を持ってガクッとうなだれた。 

「え!? もしかして舞花は知ってたの!?」

「知ってるも何も…。最近おかしなことが続きんした。そこから考えれば────」

 おかしなこと。思いついたのは、夜叉のそっくりが夜な夜な高城を飛び回っていたこと────。

「例のアイツか」

「あい。主に姿が似ていることから薄々感づいておりんした。あれは朱雀様の一族の者のはず」

「え? 戯人族じゃなく?」

「あぁ…。それはね夜叉。戯人族と一口に言っても実は彼ら、派閥ではないけどくくりがあるのよ。あなたの父の朱雀族という風に頭領が他に3人いてね。あとは青龍せいりゅう白虎びゃっこ玄武げんぶって。いつか彼らに会う時に改めて教えてもらいなさい」

 まだ知らなかった戯人族の一面。きっと他にもまだまだあるんだろうが、今は彼らが夜叉に会いたがっているというのが気になった。
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