13 / 43
3章
2
しおりを挟む
中華様式の壁に調度品。ここは彼の自室。絢爛豪華な椅子に座るのは水色の長髪の男。目を伏せて肘をついた様子は、憂い気な美女にも見える。彼は青地に金や銀の糸で刺繍をほどこされたロングの中華服を着ており、黒いカンフーパンツを履いている。足元は黒いカンフーシューズ。
その彼の元に小走りでやってきたのは、同じ水色の髪の少女。ただし彼女は短髪で、中華服の丈も短い。
「青龍様!」
「なんだい?」
「人間界で公安とFBIにいる仲間から連絡が」
「ほぅ…。鬼子母神に毘沙門天…。2人はなんて」
青龍と呼ばれた男は肘をつていたのをやめ、膝の上で手を組んだ。少女は曇った表情でうなずき、一歩進み出た。
「────の行方が分かったとのことです」
青龍は目を見開いて腰を浮かしかけた。禍々しい名前。ずっと一族総動員で探し続けていた男。明治に入る頃から行方が分からなくなっていた。
一族にとって忌々しい存在。自分たちと同じく不老不死で普通の人間とは違う。ただ厄介なことに彼は自由に外見を変えることができる。生まれたての赤子、無垢な幼子、美しい中性的な青年、腰の曲がった老人。そのレパートリーの数は怪人二○面相以上だ。
「やっと見つかったか…。あらゆる機関に仲間を送り込んで長く経つけど…。これでようやく終着点を迎えられそうか」
「えぇ。そうなってほしいものです」
「君も長いこと人間界とここの往復をしてもらったね。ご苦労様」
「青龍様…」
青龍は立ち上がり、少女のことを抱き寄せた。少女は顔を赤らめ、彼に身を寄せた。
美しい彼は年若い見た目の一族の女を好んでおり、人目につかない自室ではこうして抱き寄せることも度々。人目についたら怒られる。
「今日は仕事も終わっただろう? ゆっくりしていくかい?」
「あ…。ダメです…」
青龍が頬をなでると、少女はさらに顔を赤らめて恥ずかし気に視線をそらした。体は青龍にホールドされたまま。彼はほほえみ、頬から首筋に指をすべらせて唇を寄せた────。
「────こンの色魔野郎がッ!!」
「あだっ」
「鬼子母神さん…」
部屋の入口に立っている水色の髪の美女。青龍の腕の中の少女よりもずっと年長だが、顔つきは幼い。
そんな彼女────鬼子母神はパンツスタイルのスーツ姿。ワイシャツの上の方のボタンはラフに開けられている。片手にバカデカいキャリーケースを引き、さらに反対側にはブランドもののバッグを肩にかけていた。よく見るとルイ○ィトンだ。首にはカル○ィエのシンプルなネックレス。見るからにOLの彼女は、前髪をかき上げて頭が痛そうな顔をしていた。
「あんたねぇ…何十年たってもロリコンなワケ? こちとらアメリカで奮闘してたってのに…。頭は子どもと乳繰り合っていたのかよ!?」
「鬼子母神…。落ち着け、乳繰り合ってはいないさ。一線を越えたことはない」
「そういう問題じゃねーわよ末期のロリコン野郎。ていうかあんたもあんた! 拒否りなさいよ、こんな末期患者より他にいいヤツいるんだからそっちにいきなさいな」
「はい…」
少女は恥ずかしそうにそそくさと退室した。その足元には拳大の氷塊。さっき、鬼子母神が生み出して青龍目がけて投げつけたものだ。
鬼子母神は黒いパンプスとキャリーケースの音を鳴らしながら部屋に入り、青龍のことを見上げた。
「ただいま戻って参りました、青龍様」
「長いことご苦労様。…様呼びしているわりには態度が不遜だが」
「当たり前じゃない、末期のロリコンの頭なんて誰が尊敬するか。あたしが尊敬するのは朱雀様よ」
「朱雀か…。懐かしい名だね」
青龍は優しく目を細め、椅子に浅く座った。
「…ま、今はあの方よりも、よ。これでしばらくあたしは日本にいていいわね? 本場の和食が食べたい切実に」
「君は日本が好きだね。もちろんだよ、恋人と会えるのはまだ先かもしれないけど」
「ま、まぁそれはしょうがないわよ。彼だって仕事してんだから…。特に公に出られないんだし。ここにも滅多に来ないでしょう」
「あぁ。15年くらいは帰ってきていない」
「やっぱりね…」
鬼子母神は目を伏せた。笑ってはいるが寂しそうで、バッグを肩にかけなおした。だがそれも一瞬で、彼女は真面目な顔で声をひそめた。
「例のヤツだけど…。あのコから聞いたでしょうけど行方が分かったわ。ヤツはアメリカのスラム街で少年として過ごし、しばらくしてからカナダに出張帰りのサラリーマンとして渡り、また余生を過ごしにきた老人としてアメリカに戻ってきた。これは今まで報告してきたから分かっているでしょうけど。そんでもって今回、日本にいることが分かったわ。学生として。ただ…申し訳ないけどどこの学校かまでは」
「それなら君の恋人がつかんだよ。愛の力だね」
「ちょっとやめなさいよ…。バカね」
鬼子母神は怒ったフリで照れを隠した。目には涙がうっすらと浮かんでいた。そんな彼女を見て青龍は立ち上がり、腕を広げて彼女に近づいたが問答無用で蹴り飛ばされた。
その彼の元に小走りでやってきたのは、同じ水色の髪の少女。ただし彼女は短髪で、中華服の丈も短い。
「青龍様!」
「なんだい?」
「人間界で公安とFBIにいる仲間から連絡が」
「ほぅ…。鬼子母神に毘沙門天…。2人はなんて」
青龍と呼ばれた男は肘をつていたのをやめ、膝の上で手を組んだ。少女は曇った表情でうなずき、一歩進み出た。
「────の行方が分かったとのことです」
青龍は目を見開いて腰を浮かしかけた。禍々しい名前。ずっと一族総動員で探し続けていた男。明治に入る頃から行方が分からなくなっていた。
一族にとって忌々しい存在。自分たちと同じく不老不死で普通の人間とは違う。ただ厄介なことに彼は自由に外見を変えることができる。生まれたての赤子、無垢な幼子、美しい中性的な青年、腰の曲がった老人。そのレパートリーの数は怪人二○面相以上だ。
「やっと見つかったか…。あらゆる機関に仲間を送り込んで長く経つけど…。これでようやく終着点を迎えられそうか」
「えぇ。そうなってほしいものです」
「君も長いこと人間界とここの往復をしてもらったね。ご苦労様」
「青龍様…」
青龍は立ち上がり、少女のことを抱き寄せた。少女は顔を赤らめ、彼に身を寄せた。
美しい彼は年若い見た目の一族の女を好んでおり、人目につかない自室ではこうして抱き寄せることも度々。人目についたら怒られる。
「今日は仕事も終わっただろう? ゆっくりしていくかい?」
「あ…。ダメです…」
青龍が頬をなでると、少女はさらに顔を赤らめて恥ずかし気に視線をそらした。体は青龍にホールドされたまま。彼はほほえみ、頬から首筋に指をすべらせて唇を寄せた────。
「────こンの色魔野郎がッ!!」
「あだっ」
「鬼子母神さん…」
部屋の入口に立っている水色の髪の美女。青龍の腕の中の少女よりもずっと年長だが、顔つきは幼い。
そんな彼女────鬼子母神はパンツスタイルのスーツ姿。ワイシャツの上の方のボタンはラフに開けられている。片手にバカデカいキャリーケースを引き、さらに反対側にはブランドもののバッグを肩にかけていた。よく見るとルイ○ィトンだ。首にはカル○ィエのシンプルなネックレス。見るからにOLの彼女は、前髪をかき上げて頭が痛そうな顔をしていた。
「あんたねぇ…何十年たってもロリコンなワケ? こちとらアメリカで奮闘してたってのに…。頭は子どもと乳繰り合っていたのかよ!?」
「鬼子母神…。落ち着け、乳繰り合ってはいないさ。一線を越えたことはない」
「そういう問題じゃねーわよ末期のロリコン野郎。ていうかあんたもあんた! 拒否りなさいよ、こんな末期患者より他にいいヤツいるんだからそっちにいきなさいな」
「はい…」
少女は恥ずかしそうにそそくさと退室した。その足元には拳大の氷塊。さっき、鬼子母神が生み出して青龍目がけて投げつけたものだ。
鬼子母神は黒いパンプスとキャリーケースの音を鳴らしながら部屋に入り、青龍のことを見上げた。
「ただいま戻って参りました、青龍様」
「長いことご苦労様。…様呼びしているわりには態度が不遜だが」
「当たり前じゃない、末期のロリコンの頭なんて誰が尊敬するか。あたしが尊敬するのは朱雀様よ」
「朱雀か…。懐かしい名だね」
青龍は優しく目を細め、椅子に浅く座った。
「…ま、今はあの方よりも、よ。これでしばらくあたしは日本にいていいわね? 本場の和食が食べたい切実に」
「君は日本が好きだね。もちろんだよ、恋人と会えるのはまだ先かもしれないけど」
「ま、まぁそれはしょうがないわよ。彼だって仕事してんだから…。特に公に出られないんだし。ここにも滅多に来ないでしょう」
「あぁ。15年くらいは帰ってきていない」
「やっぱりね…」
鬼子母神は目を伏せた。笑ってはいるが寂しそうで、バッグを肩にかけなおした。だがそれも一瞬で、彼女は真面目な顔で声をひそめた。
「例のヤツだけど…。あのコから聞いたでしょうけど行方が分かったわ。ヤツはアメリカのスラム街で少年として過ごし、しばらくしてからカナダに出張帰りのサラリーマンとして渡り、また余生を過ごしにきた老人としてアメリカに戻ってきた。これは今まで報告してきたから分かっているでしょうけど。そんでもって今回、日本にいることが分かったわ。学生として。ただ…申し訳ないけどどこの学校かまでは」
「それなら君の恋人がつかんだよ。愛の力だね」
「ちょっとやめなさいよ…。バカね」
鬼子母神は怒ったフリで照れを隠した。目には涙がうっすらと浮かんでいた。そんな彼女を見て青龍は立ち上がり、腕を広げて彼女に近づいたが問答無用で蹴り飛ばされた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる