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3章
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中華様式の壁に調度品。ここは彼の自室。絢爛豪華な椅子に座るのは水色の長髪の男。目を伏せて肘をついた様子は、憂い気な美女にも見える。彼は青地に金や銀の糸で刺繍をほどこされたロングの中華服を着ており、黒いカンフーパンツを履いている。足元は黒いカンフーシューズ。
その彼の元に小走りでやってきたのは、同じ水色の髪の少女。ただし彼女は短髪で、中華服の丈も短い。
「青龍様!」
「なんだい?」
「人間界で公安とFBIにいる仲間から連絡が」
「ほぅ…。鬼子母神に毘沙門天…。2人はなんて」
青龍と呼ばれた男は肘をつていたのをやめ、膝の上で手を組んだ。少女は曇った表情でうなずき、一歩進み出た。
「────の行方が分かったとのことです」
青龍は目を見開いて腰を浮かしかけた。禍々しい名前。ずっと一族総動員で探し続けていた男。明治に入る頃から行方が分からなくなっていた。
一族にとって忌々しい存在。自分たちと同じく不老不死で普通の人間とは違う。ただ厄介なことに彼は自由に外見を変えることができる。生まれたての赤子、無垢な幼子、美しい中性的な青年、腰の曲がった老人。そのレパートリーの数は怪人二○面相以上だ。
「やっと見つかったか…。あらゆる機関に仲間を送り込んで長く経つけど…。これでようやく終着点を迎えられそうか」
「えぇ。そうなってほしいものです」
「君も長いこと人間界とここの往復をしてもらったね。ご苦労様」
「青龍様…」
青龍は立ち上がり、少女のことを抱き寄せた。少女は顔を赤らめ、彼に身を寄せた。
美しい彼は年若い見た目の一族の女を好んでおり、人目につかない自室ではこうして抱き寄せることも度々。人目についたら怒られる。
「今日は仕事も終わっただろう? ゆっくりしていくかい?」
「あ…。ダメです…」
青龍が頬をなでると、少女はさらに顔を赤らめて恥ずかし気に視線をそらした。体は青龍にホールドされたまま。彼はほほえみ、頬から首筋に指をすべらせて唇を寄せた────。
「────こンの色魔野郎がッ!!」
「あだっ」
「鬼子母神さん…」
部屋の入口に立っている水色の髪の美女。青龍の腕の中の少女よりもずっと年長だが、顔つきは幼い。
そんな彼女────鬼子母神はパンツスタイルのスーツ姿。ワイシャツの上の方のボタンはラフに開けられている。片手にバカデカいキャリーケースを引き、さらに反対側にはブランドもののバッグを肩にかけていた。よく見るとルイ○ィトンだ。首にはカル○ィエのシンプルなネックレス。見るからにOLの彼女は、前髪をかき上げて頭が痛そうな顔をしていた。
「あんたねぇ…何十年たってもロリコンなワケ? こちとらアメリカで奮闘してたってのに…。頭は子どもと乳繰り合っていたのかよ!?」
「鬼子母神…。落ち着け、乳繰り合ってはいないさ。一線を越えたことはない」
「そういう問題じゃねーわよ末期のロリコン野郎。ていうかあんたもあんた! 拒否りなさいよ、こんな末期患者より他にいいヤツいるんだからそっちにいきなさいな」
「はい…」
少女は恥ずかしそうにそそくさと退室した。その足元には拳大の氷塊。さっき、鬼子母神が生み出して青龍目がけて投げつけたものだ。
鬼子母神は黒いパンプスとキャリーケースの音を鳴らしながら部屋に入り、青龍のことを見上げた。
「ただいま戻って参りました、青龍様」
「長いことご苦労様。…様呼びしているわりには態度が不遜だが」
「当たり前じゃない、末期のロリコンの頭なんて誰が尊敬するか。あたしが尊敬するのは朱雀様よ」
「朱雀か…。懐かしい名だね」
青龍は優しく目を細め、椅子に浅く座った。
「…ま、今はあの方よりも、よ。これでしばらくあたしは日本にいていいわね? 本場の和食が食べたい切実に」
「君は日本が好きだね。もちろんだよ、恋人と会えるのはまだ先かもしれないけど」
「ま、まぁそれはしょうがないわよ。彼だって仕事してんだから…。特に公に出られないんだし。ここにも滅多に来ないでしょう」
「あぁ。15年くらいは帰ってきていない」
「やっぱりね…」
鬼子母神は目を伏せた。笑ってはいるが寂しそうで、バッグを肩にかけなおした。だがそれも一瞬で、彼女は真面目な顔で声をひそめた。
「例のヤツだけど…。あのコから聞いたでしょうけど行方が分かったわ。ヤツはアメリカのスラム街で少年として過ごし、しばらくしてからカナダに出張帰りのサラリーマンとして渡り、また余生を過ごしにきた老人としてアメリカに戻ってきた。これは今まで報告してきたから分かっているでしょうけど。そんでもって今回、日本にいることが分かったわ。学生として。ただ…申し訳ないけどどこの学校かまでは」
「それなら君の恋人がつかんだよ。愛の力だね」
「ちょっとやめなさいよ…。バカね」
鬼子母神は怒ったフリで照れを隠した。目には涙がうっすらと浮かんでいた。そんな彼女を見て青龍は立ち上がり、腕を広げて彼女に近づいたが問答無用で蹴り飛ばされた。
その彼の元に小走りでやってきたのは、同じ水色の髪の少女。ただし彼女は短髪で、中華服の丈も短い。
「青龍様!」
「なんだい?」
「人間界で公安とFBIにいる仲間から連絡が」
「ほぅ…。鬼子母神に毘沙門天…。2人はなんて」
青龍と呼ばれた男は肘をつていたのをやめ、膝の上で手を組んだ。少女は曇った表情でうなずき、一歩進み出た。
「────の行方が分かったとのことです」
青龍は目を見開いて腰を浮かしかけた。禍々しい名前。ずっと一族総動員で探し続けていた男。明治に入る頃から行方が分からなくなっていた。
一族にとって忌々しい存在。自分たちと同じく不老不死で普通の人間とは違う。ただ厄介なことに彼は自由に外見を変えることができる。生まれたての赤子、無垢な幼子、美しい中性的な青年、腰の曲がった老人。そのレパートリーの数は怪人二○面相以上だ。
「やっと見つかったか…。あらゆる機関に仲間を送り込んで長く経つけど…。これでようやく終着点を迎えられそうか」
「えぇ。そうなってほしいものです」
「君も長いこと人間界とここの往復をしてもらったね。ご苦労様」
「青龍様…」
青龍は立ち上がり、少女のことを抱き寄せた。少女は顔を赤らめ、彼に身を寄せた。
美しい彼は年若い見た目の一族の女を好んでおり、人目につかない自室ではこうして抱き寄せることも度々。人目についたら怒られる。
「今日は仕事も終わっただろう? ゆっくりしていくかい?」
「あ…。ダメです…」
青龍が頬をなでると、少女はさらに顔を赤らめて恥ずかし気に視線をそらした。体は青龍にホールドされたまま。彼はほほえみ、頬から首筋に指をすべらせて唇を寄せた────。
「────こンの色魔野郎がッ!!」
「あだっ」
「鬼子母神さん…」
部屋の入口に立っている水色の髪の美女。青龍の腕の中の少女よりもずっと年長だが、顔つきは幼い。
そんな彼女────鬼子母神はパンツスタイルのスーツ姿。ワイシャツの上の方のボタンはラフに開けられている。片手にバカデカいキャリーケースを引き、さらに反対側にはブランドもののバッグを肩にかけていた。よく見るとルイ○ィトンだ。首にはカル○ィエのシンプルなネックレス。見るからにOLの彼女は、前髪をかき上げて頭が痛そうな顔をしていた。
「あんたねぇ…何十年たってもロリコンなワケ? こちとらアメリカで奮闘してたってのに…。頭は子どもと乳繰り合っていたのかよ!?」
「鬼子母神…。落ち着け、乳繰り合ってはいないさ。一線を越えたことはない」
「そういう問題じゃねーわよ末期のロリコン野郎。ていうかあんたもあんた! 拒否りなさいよ、こんな末期患者より他にいいヤツいるんだからそっちにいきなさいな」
「はい…」
少女は恥ずかしそうにそそくさと退室した。その足元には拳大の氷塊。さっき、鬼子母神が生み出して青龍目がけて投げつけたものだ。
鬼子母神は黒いパンプスとキャリーケースの音を鳴らしながら部屋に入り、青龍のことを見上げた。
「ただいま戻って参りました、青龍様」
「長いことご苦労様。…様呼びしているわりには態度が不遜だが」
「当たり前じゃない、末期のロリコンの頭なんて誰が尊敬するか。あたしが尊敬するのは朱雀様よ」
「朱雀か…。懐かしい名だね」
青龍は優しく目を細め、椅子に浅く座った。
「…ま、今はあの方よりも、よ。これでしばらくあたしは日本にいていいわね? 本場の和食が食べたい切実に」
「君は日本が好きだね。もちろんだよ、恋人と会えるのはまだ先かもしれないけど」
「ま、まぁそれはしょうがないわよ。彼だって仕事してんだから…。特に公に出られないんだし。ここにも滅多に来ないでしょう」
「あぁ。15年くらいは帰ってきていない」
「やっぱりね…」
鬼子母神は目を伏せた。笑ってはいるが寂しそうで、バッグを肩にかけなおした。だがそれも一瞬で、彼女は真面目な顔で声をひそめた。
「例のヤツだけど…。あのコから聞いたでしょうけど行方が分かったわ。ヤツはアメリカのスラム街で少年として過ごし、しばらくしてからカナダに出張帰りのサラリーマンとして渡り、また余生を過ごしにきた老人としてアメリカに戻ってきた。これは今まで報告してきたから分かっているでしょうけど。そんでもって今回、日本にいることが分かったわ。学生として。ただ…申し訳ないけどどこの学校かまでは」
「それなら君の恋人がつかんだよ。愛の力だね」
「ちょっとやめなさいよ…。バカね」
鬼子母神は怒ったフリで照れを隠した。目には涙がうっすらと浮かんでいた。そんな彼女を見て青龍は立ち上がり、腕を広げて彼女に近づいたが問答無用で蹴り飛ばされた。
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