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5章
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阿修羅と共に元の世界へ戻ってきた夜叉は、ポケットに入れていたスマホを見て首をかしげた。
藍栄高校前。グランドには部活動の生徒がチラホラと残っているだけ。
「あれ…」
「どうかしましたか」
「うん…」
響高校へ行って喧嘩を繰り広げて大して時間が経っていない。随分長いこと戯人族のもとにいたと思っていたのに。
「おそらく青龍様の配慮でしょう。浦島太郎のようにならないように」
「そうなの? それはありがたいわ」
例の願い事はどうなったのか、と2人は響高校へ向かったが、こちらでは藍栄高校以上に生徒がいない。
確か不良たちと喧嘩を始めた頃から普通の生徒はあまり残っていなかった。
校門前には不良連中もいない。
「あの、すみません」
「はぁ…?」
校門から出てきた女子生徒に声をかけたら、怪訝な顔をされたが立ち止まってくれた。
「さっきここで、響高の生徒と藍栄高の生徒が暴れるようなことってありました?」
「ま、まぁ…。それが何か?」
「もしかしてなんですけど、藍栄高の生徒が救急車で運ばれませんでした? 肋骨が折れてるとかで…」
女子生徒は首を振って、制服の上のコートの襟元を寄せた。
「私は教室から見てましたけど…救急車なんて来てないですよ。藍栄高の女の子たちが圧勝って感じで帰っていきましたけど」
夜叉はほっとして息を吐いた。”女の子たち”に引っかかったが。案の定というべきか、女子生徒は怪しんでいる表情で夜叉のことを見て続けた。
「ていうかあなたも喧嘩に参加していましたよね? その髪色目立つからすぐ分かりましたけど…」
「あ…あぁそれなんですけどね! 近頃コスプレして喧嘩したがるアホちんがいましてねぇ! どうやら今回は私のコスプレをしたらしくて…。ホンット、何がしたいのって感じですよねぇ~。ねぇあしゅ…あーちゃん!!」
「あ…えぇ」
阿修羅は突然フラれたがすぐにコクコクとうなずいた。夜叉はわざとらしすぎる演技でその場を乗り切って女子生徒を帰した。自分でもワケ分からないアドリブだ。
次の日。阿修羅はマンションの契約をすると言って、駅近くのビジネスホテルに泊まった。今日くらいウチに来たらいいよ、と誘ったが彼女は頑として首を縦に振らなかった。
でも確かにいきなりあの派手な和装────しかもつい最近Tw○tterでバズったような相手だし、和馬が驚いて失神する可能性がある。
「ていうか連絡先聞いてないし…」
「んー? やーちゃん彼ピッピでもできたのか~?」
「そんなワケ」
校舎に入って教室へ向かう途中、彦瀬と瑞恵が左右から現れた。彦瀬にはデコピンをくらわす。
「あたっ」
彦瀬は額を押さえて立ち止まった。瑞恵はぷっと吹き出した。
「やーちゃん、昨日は大丈夫だったみたいだね。もう噂になってるよ」
「う…うん。圧勝楽勝!」
「やーちゃんってホントに何者なの…。美人だし勉強できるしスポーツも得意でしょ? その上喧嘩もなんて…」
「さぁ…たまたまちょっとできるだけで、皆騒ぎすぎだよ…」
笑ってごまかしたが、”何者”という単語に反応しそうになった。
青龍の言葉のせいか。
夜叉は肩にかけたスクールバッグの、落ちかけた紐を肩にかけ直した。
「やーさん!」
彦瀬と瑞恵の後ろから聞こえた声。ただそんな風に呼ばれたことはない。
もしかして阿修羅…? 振り向くと、頬に絆創膏を貼った結城が歩いてきた。
「あ…おはよう、織原さん」
「おい。昨日から私のことは結城でいいと言っただろう」
「そうだったっけ…? ごめんごめん…」
どうやら新しい歴史ができているらしい。結城とはさらに親交を深めたようだ。
このやり取りを見ている彦瀬と瑞恵の表情も強張っていない。
彦瀬なんかはごく普通に話しかけているくらい。
「織原さん大丈夫? そこどうしたの?」
「これか? 響高のボスがカッターを出してきてな。避けたんだが刃先をくらってしまって…。その後すぐにやーさんが殴ってくれたんだ」
「へー! やーちゃんかっこいい!」
「あ…そう? あは」
人間を傷つけることも厭わない────。またも青龍の言葉を思い出した。実際に朝来と対峙した時は道具なんて持っていなかったが。
(高校生で刃物出すんだ…。悪魔だから? 一応阿修羅に話しておくか)
今度いつ会えるかは分からないが。
結城と分かれ、彦瀬と瑞恵と教室に入ったら妙にざわついていた。
何事か、と3人で何気なく話していたのだが、朝礼が始まってから夜叉は頭を抱えた。
(ちょっと…。この短時間で何があったの…。あんたらお得意の時を越えてお仕事するヤツか? 仕事してきたのか? 仕事熱心だなオイ)
「冬休みに入る前だけど、本人の熱い希望で今日からこのクラスに入ることになった仲間を紹介します」
担任と共に教室に入ってきたのは、昨日知り合ったばかりの自分と同類の者。
「じゃあ…一言、あいさつしてれる?」
「はい」
彼女は特にニコリとすることもなく、一歩進み出た。
「青川阿修羅です。よろしくお願いします」
しかもそのおっかなさそうな名前はそのまま名乗るんか────! 夜叉は心の中でシャウトし、机に突っ伏した。
女子制服の阿修羅はますます夜叉にそっくりで、長い髪は白いリボンで2つにまとめていた。
藍栄高校前。グランドには部活動の生徒がチラホラと残っているだけ。
「あれ…」
「どうかしましたか」
「うん…」
響高校へ行って喧嘩を繰り広げて大して時間が経っていない。随分長いこと戯人族のもとにいたと思っていたのに。
「おそらく青龍様の配慮でしょう。浦島太郎のようにならないように」
「そうなの? それはありがたいわ」
例の願い事はどうなったのか、と2人は響高校へ向かったが、こちらでは藍栄高校以上に生徒がいない。
確か不良たちと喧嘩を始めた頃から普通の生徒はあまり残っていなかった。
校門前には不良連中もいない。
「あの、すみません」
「はぁ…?」
校門から出てきた女子生徒に声をかけたら、怪訝な顔をされたが立ち止まってくれた。
「さっきここで、響高の生徒と藍栄高の生徒が暴れるようなことってありました?」
「ま、まぁ…。それが何か?」
「もしかしてなんですけど、藍栄高の生徒が救急車で運ばれませんでした? 肋骨が折れてるとかで…」
女子生徒は首を振って、制服の上のコートの襟元を寄せた。
「私は教室から見てましたけど…救急車なんて来てないですよ。藍栄高の女の子たちが圧勝って感じで帰っていきましたけど」
夜叉はほっとして息を吐いた。”女の子たち”に引っかかったが。案の定というべきか、女子生徒は怪しんでいる表情で夜叉のことを見て続けた。
「ていうかあなたも喧嘩に参加していましたよね? その髪色目立つからすぐ分かりましたけど…」
「あ…あぁそれなんですけどね! 近頃コスプレして喧嘩したがるアホちんがいましてねぇ! どうやら今回は私のコスプレをしたらしくて…。ホンット、何がしたいのって感じですよねぇ~。ねぇあしゅ…あーちゃん!!」
「あ…えぇ」
阿修羅は突然フラれたがすぐにコクコクとうなずいた。夜叉はわざとらしすぎる演技でその場を乗り切って女子生徒を帰した。自分でもワケ分からないアドリブだ。
次の日。阿修羅はマンションの契約をすると言って、駅近くのビジネスホテルに泊まった。今日くらいウチに来たらいいよ、と誘ったが彼女は頑として首を縦に振らなかった。
でも確かにいきなりあの派手な和装────しかもつい最近Tw○tterでバズったような相手だし、和馬が驚いて失神する可能性がある。
「ていうか連絡先聞いてないし…」
「んー? やーちゃん彼ピッピでもできたのか~?」
「そんなワケ」
校舎に入って教室へ向かう途中、彦瀬と瑞恵が左右から現れた。彦瀬にはデコピンをくらわす。
「あたっ」
彦瀬は額を押さえて立ち止まった。瑞恵はぷっと吹き出した。
「やーちゃん、昨日は大丈夫だったみたいだね。もう噂になってるよ」
「う…うん。圧勝楽勝!」
「やーちゃんってホントに何者なの…。美人だし勉強できるしスポーツも得意でしょ? その上喧嘩もなんて…」
「さぁ…たまたまちょっとできるだけで、皆騒ぎすぎだよ…」
笑ってごまかしたが、”何者”という単語に反応しそうになった。
青龍の言葉のせいか。
夜叉は肩にかけたスクールバッグの、落ちかけた紐を肩にかけ直した。
「やーさん!」
彦瀬と瑞恵の後ろから聞こえた声。ただそんな風に呼ばれたことはない。
もしかして阿修羅…? 振り向くと、頬に絆創膏を貼った結城が歩いてきた。
「あ…おはよう、織原さん」
「おい。昨日から私のことは結城でいいと言っただろう」
「そうだったっけ…? ごめんごめん…」
どうやら新しい歴史ができているらしい。結城とはさらに親交を深めたようだ。
このやり取りを見ている彦瀬と瑞恵の表情も強張っていない。
彦瀬なんかはごく普通に話しかけているくらい。
「織原さん大丈夫? そこどうしたの?」
「これか? 響高のボスがカッターを出してきてな。避けたんだが刃先をくらってしまって…。その後すぐにやーさんが殴ってくれたんだ」
「へー! やーちゃんかっこいい!」
「あ…そう? あは」
人間を傷つけることも厭わない────。またも青龍の言葉を思い出した。実際に朝来と対峙した時は道具なんて持っていなかったが。
(高校生で刃物出すんだ…。悪魔だから? 一応阿修羅に話しておくか)
今度いつ会えるかは分からないが。
結城と分かれ、彦瀬と瑞恵と教室に入ったら妙にざわついていた。
何事か、と3人で何気なく話していたのだが、朝礼が始まってから夜叉は頭を抱えた。
(ちょっと…。この短時間で何があったの…。あんたらお得意の時を越えてお仕事するヤツか? 仕事してきたのか? 仕事熱心だなオイ)
「冬休みに入る前だけど、本人の熱い希望で今日からこのクラスに入ることになった仲間を紹介します」
担任と共に教室に入ってきたのは、昨日知り合ったばかりの自分と同類の者。
「じゃあ…一言、あいさつしてれる?」
「はい」
彼女は特にニコリとすることもなく、一歩進み出た。
「青川阿修羅です。よろしくお願いします」
しかもそのおっかなさそうな名前はそのまま名乗るんか────! 夜叉は心の中でシャウトし、机に突っ伏した。
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