たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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5章

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────自分、男なんです。

 ピアノのかげ。柔らかい日差し。突き合わせた膝。ふれあった唇────

 阿修羅から性別を告げられたのは、音楽室でキスされた直後だった。

「え、えぇ!? うっそ!? ななななんで女の子のカッコしてんの!?」

「こっちの方が好きなので。早く言うべきでしたね…申し訳ございませんでした」

「いやいいのよ…」

「このことは内密にして頂けますか。面倒なことになりかねませんので」

「なるほど…。戯人族のお人たちは知ってるの?」

「それはもちろん」

 阿修羅はジャケットを着て髪を整えた。払った髪はきれいに伸ばし続けているのだろう。毛先までつややかだ。長さは夜叉と同じくらいある。

 その凛々しい横顔は男だと言われても違和感はなかった。

 今までも、よくよく考えたら彼女────もとい、彼の力量は目の当たりにしてきたのだ。なぜその時に気づかなかったのか、今になって謎に思えてきた。

「ただ、人間には理解されないこともあると言われてます」

「そうね…そういうのって男のって言うとかなんとか、オタクのコが言ってたなぁ…。確か二次元とかなんとか」

「はぁ…。人間たちは常におもしろいことを考えているのですね」

 あごをさわった阿修羅は顔を横に向けた。

 夜叉は突き合わせたままの膝が気になってさりげなく離れ、黒板を背に向けて座りなおした。

「てかあなた…なんなのさっきの。ハタから見たら百合ですよ? 私でも分かるぞ」

 夜叉は早口でまくしたてるように話してうつむく。男だと分かってから急にどぎまぎしてきた。手を握り合ったことが特に────。よくよく考えたらあの時、彼は顔を赤くしてまごついていた。

(お前も意識してたんか…。女の子のカッコが好きでもしっかり男の子なのね…)

 チラっと横を見たら、阿修羅は不思議そうな顔をしていた。

「口づけのことですか?」

「くっ…」

接吻せっぷんのことです」

「言わんでもわかるわ」

 二の腕をツン、とつついたらやはりと言うべきか固い。女子制服を着ていても違和感のない細い体格だが、筋肉質ではあるらしい。

 阿修羅は”うーん”と首をかしげ、夜叉の手を指さした。

「やー様の…それと同じことです」

「今腕をツンツンしたのと?」

「はい」

「…戯人族では当たり前なの? あいさつ的な」

「それはないですね」

 フイっと視線をそらされた。夜叉は立ち上がり、壁にかけられたギターを爪弾いた。ビンビンという音しか鳴らない。

(なんだろ、影内朝来といい…阿修羅といい…)

 うわーモテ期到来だー…なんてのんきな考えにはたどりつかなかった。

 どちらもあっさりとキスされてときめくことはなく、忘れられないということもなかった。

 ただ。

──── 戯人族のお姫様。今日のことは絶対に忘れられないよ。一族の力も、母親の力を借りることはできない。

 あの一言を不意に思い出しては悪寒が走る時がある。

 あれの意味は分からず、阿修羅にも話していない。舞花は聞いていただろうか。

「…ねぇ、舞花が目が覚めたら教えて。青龍さんから連絡くるよね?」

「えぇ。必ず伝えます。…早くお目覚めになるといいですね」

「…うん」

 姿を見せる頻度は少ないが、常に近くにいてくれる。危機に直面した時には"魔法の煙管"で助けてくれる。

(いないって分かると寂しいな…)

 今は代わり、ではないが阿修羅がいる。

(朱雀…父さんのことをどう慰めようかね…。最愛の人が死んだら、あんな風になるのか)

 夜叉にとっての最愛の人というのはいない。友だちも家族も大事だが、最愛とは意味が違う。

(ファーストキスは好きな人とがよかった、とかは考えたことないけど…。好きな人とのキスってどんな感じなんだろうね)

 彼女は時計を見て、阿修羅と共に教室へ向かった。
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