27 / 43
5章
5
しおりを挟む
────自分、男なんです。
ピアノのかげ。柔らかい日差し。突き合わせた膝。ふれあった唇────
阿修羅から性別を告げられたのは、音楽室でキスされた直後だった。
「え、えぇ!? うっそ!? ななななんで女の子のカッコしてんの!?」
「こっちの方が好きなので。早く言うべきでしたね…申し訳ございませんでした」
「いやいいのよ…」
「このことは内密にして頂けますか。面倒なことになりかねませんので」
「なるほど…。戯人族のお人たちは知ってるの?」
「それはもちろん」
阿修羅はジャケットを着て髪を整えた。払った髪はきれいに伸ばし続けているのだろう。毛先までつややかだ。長さは夜叉と同じくらいある。
その凛々しい横顔は男だと言われても違和感はなかった。
今までも、よくよく考えたら彼女────もとい、彼の力量は目の当たりにしてきたのだ。なぜその時に気づかなかったのか、今になって謎に思えてきた。
「ただ、人間には理解されないこともあると言われてます」
「そうね…そういうのって男の娘って言うとかなんとか、オタクのコが言ってたなぁ…。確か二次元とかなんとか」
「はぁ…。人間たちは常におもしろいことを考えているのですね」
あごをさわった阿修羅は顔を横に向けた。
夜叉は突き合わせたままの膝が気になってさりげなく離れ、黒板を背に向けて座りなおした。
「てかあなた…なんなのさっきの。ハタから見たら百合ですよ? 私でも分かるぞ」
夜叉は早口でまくしたてるように話してうつむく。男だと分かってから急にどぎまぎしてきた。手を握り合ったことが特に────。よくよく考えたらあの時、彼は顔を赤くしてまごついていた。
(お前も意識してたんか…。女の子のカッコが好きでもしっかり男の子なのね…)
チラっと横を見たら、阿修羅は不思議そうな顔をしていた。
「口づけのことですか?」
「くっ…」
「接吻のことです」
「言わんでもわかるわ」
二の腕をツン、とつついたらやはりと言うべきか固い。女子制服を着ていても違和感のない細い体格だが、筋肉質ではあるらしい。
阿修羅は”うーん”と首をかしげ、夜叉の手を指さした。
「やー様の…それと同じことです」
「今腕をツンツンしたのと?」
「はい」
「…戯人族では当たり前なの? あいさつ的な」
「それはないですね」
フイっと視線をそらされた。夜叉は立ち上がり、壁にかけられたギターを爪弾いた。ビンビンという音しか鳴らない。
(なんだろ、影内朝来といい…阿修羅といい…)
うわーモテ期到来だー…なんてのんきな考えにはたどりつかなかった。
どちらもあっさりとキスされてときめくことはなく、忘れられないということもなかった。
ただ。
──── 戯人族のお姫様。今日のことは絶対に忘れられないよ。一族の力も、母親の力を借りることはできない。
あの一言を不意に思い出しては悪寒が走る時がある。
あれの意味は分からず、阿修羅にも話していない。舞花は聞いていただろうか。
「…ねぇ、舞花が目が覚めたら教えて。青龍さんから連絡くるよね?」
「えぇ。必ず伝えます。…早くお目覚めになるといいですね」
「…うん」
姿を見せる頻度は少ないが、常に近くにいてくれる。危機に直面した時には"魔法の煙管"で助けてくれる。
(いないって分かると寂しいな…)
今は代わり、ではないが阿修羅がいる。
(朱雀…父さんのことをどう慰めようかね…。最愛の人が死んだら、あんな風になるのか)
夜叉にとっての最愛の人というのはいない。友だちも家族も大事だが、最愛とは意味が違う。
(ファーストキスは好きな人とがよかった、とかは考えたことないけど…。好きな人とのキスってどんな感じなんだろうね)
彼女は時計を見て、阿修羅と共に教室へ向かった。
ピアノのかげ。柔らかい日差し。突き合わせた膝。ふれあった唇────
阿修羅から性別を告げられたのは、音楽室でキスされた直後だった。
「え、えぇ!? うっそ!? ななななんで女の子のカッコしてんの!?」
「こっちの方が好きなので。早く言うべきでしたね…申し訳ございませんでした」
「いやいいのよ…」
「このことは内密にして頂けますか。面倒なことになりかねませんので」
「なるほど…。戯人族のお人たちは知ってるの?」
「それはもちろん」
阿修羅はジャケットを着て髪を整えた。払った髪はきれいに伸ばし続けているのだろう。毛先までつややかだ。長さは夜叉と同じくらいある。
その凛々しい横顔は男だと言われても違和感はなかった。
今までも、よくよく考えたら彼女────もとい、彼の力量は目の当たりにしてきたのだ。なぜその時に気づかなかったのか、今になって謎に思えてきた。
「ただ、人間には理解されないこともあると言われてます」
「そうね…そういうのって男の娘って言うとかなんとか、オタクのコが言ってたなぁ…。確か二次元とかなんとか」
「はぁ…。人間たちは常におもしろいことを考えているのですね」
あごをさわった阿修羅は顔を横に向けた。
夜叉は突き合わせたままの膝が気になってさりげなく離れ、黒板を背に向けて座りなおした。
「てかあなた…なんなのさっきの。ハタから見たら百合ですよ? 私でも分かるぞ」
夜叉は早口でまくしたてるように話してうつむく。男だと分かってから急にどぎまぎしてきた。手を握り合ったことが特に────。よくよく考えたらあの時、彼は顔を赤くしてまごついていた。
(お前も意識してたんか…。女の子のカッコが好きでもしっかり男の子なのね…)
チラっと横を見たら、阿修羅は不思議そうな顔をしていた。
「口づけのことですか?」
「くっ…」
「接吻のことです」
「言わんでもわかるわ」
二の腕をツン、とつついたらやはりと言うべきか固い。女子制服を着ていても違和感のない細い体格だが、筋肉質ではあるらしい。
阿修羅は”うーん”と首をかしげ、夜叉の手を指さした。
「やー様の…それと同じことです」
「今腕をツンツンしたのと?」
「はい」
「…戯人族では当たり前なの? あいさつ的な」
「それはないですね」
フイっと視線をそらされた。夜叉は立ち上がり、壁にかけられたギターを爪弾いた。ビンビンという音しか鳴らない。
(なんだろ、影内朝来といい…阿修羅といい…)
うわーモテ期到来だー…なんてのんきな考えにはたどりつかなかった。
どちらもあっさりとキスされてときめくことはなく、忘れられないということもなかった。
ただ。
──── 戯人族のお姫様。今日のことは絶対に忘れられないよ。一族の力も、母親の力を借りることはできない。
あの一言を不意に思い出しては悪寒が走る時がある。
あれの意味は分からず、阿修羅にも話していない。舞花は聞いていただろうか。
「…ねぇ、舞花が目が覚めたら教えて。青龍さんから連絡くるよね?」
「えぇ。必ず伝えます。…早くお目覚めになるといいですね」
「…うん」
姿を見せる頻度は少ないが、常に近くにいてくれる。危機に直面した時には"魔法の煙管"で助けてくれる。
(いないって分かると寂しいな…)
今は代わり、ではないが阿修羅がいる。
(朱雀…父さんのことをどう慰めようかね…。最愛の人が死んだら、あんな風になるのか)
夜叉にとっての最愛の人というのはいない。友だちも家族も大事だが、最愛とは意味が違う。
(ファーストキスは好きな人とがよかった、とかは考えたことないけど…。好きな人とのキスってどんな感じなんだろうね)
彼女は時計を見て、阿修羅と共に教室へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる