たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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6章

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 冬休み明け。

 阿修羅の夜叉への恭しさも、周りが当たり前の景色として受け入れるようになった。

 ただ、和馬はそんな長い知り合いとかじゃないよね…? さくらは何をしたの…? と、訝しんでいるが。

「おはよ…」

「おはよう、さくら」

 今日からまた学校が始まる。リビングには和馬お手製の朝食が並べられている。夜叉はまだぱっちりと開かない目のままで椅子を引いた。

 席に着くと、湯気の上がるカップスープが置かれた。中身はじゃがいものポタージュだ。おしゃれにパセリが散らしてある。

「今日から学校だね…いただきます」

「まぁね。宿題は大丈夫? いただきます」

「余裕余裕。年末の0円○活見ながら終わらせた」

「お、おぅ…。あの番組好きだよね…」

「テンションが好きなの」

 スライスしたバゲットにハムとチーズがのったものを口に運んだ。少しトーストしてあって香ばしい。



「やーちゃんおはよ~!」

「おはよ」

 バス通学の彦瀬と瑞江だ。夜叉に向かって突っ込んできた。

「あけおめことよろ!」

「あけおめことよろ」

 そこはやはり新年なので。冬休みにどっか行った? とか話しながら教室に向かったのだが、とんでもない事実が判明した。

「…彦瀬宿題終わってないの?」

「終わってないよぉ~」

「さっきバスの中で手伝わされたよ…」

「みーちゃん乙…」

 教室へ慌てて走り、3人は机を合わせて彦瀬の宿題を広げた。

 今度駅前でご飯をおごるという約束で夜叉も手助けすることにした。

「てかなんで終わってないの? 中学に比べたら少なくない?」

「だって…バイトが鬼のように忙しかったんだもん…」

 藍栄高校は基本的にバイトは自由にできる。 基本的には。

 授業についていけなかったり、提出物の期日を守れなかったり、勉学に影響が出ている者はバイトを禁止される場合がある。

「彦瀬ぇ~。こんなんじゃ2年生からはバイトはできないぞぉ~?」

「うぐっ…。それは困るわ! 彦瀬お小遣いがほしい!」

「じゃあ必死こいて宿題やっておきなよ」

「だって店長が"クリスマスマジでヤバいから凛子ちゃん頼むよー…!"って泣くからたくさんシフト入れなきゃアカンくなるもん…」

「押しに弱い彦瀬…。あ、もしかして"凛子ちゃん"呼びに負けた?」

「そんなワケ! 彦瀬はそんな単純じゃないよ」

 最初は話して笑いながらこなしていたが、さすがにクラスメイトが集まってきて朝礼の時間が近くなって焦り始めた。

 特に今日は、今年最初の登校日なので朝から全校集会。体育館へ移動しなければいけない。

「あーもう! 後でやろ? 戻ってきてからにしよ?」

「そうね…。集会で遅れたらクソ恥ずかしくて死んじゃう。先生たちからめっちゃ怒られちゃう」

 先に体育館へ向かった夜叉は、今日はまだ阿修羅の姿を見ていないことに気づいた。彼はたいてい夜叉のすぐ後に登校してくる。

 実は彼とは冬休み中にお互いの家へ呼び合い、何度か会っている。一緒に宿題を片付けたり、戯人族のことを聞いたり。彼は結局同じマンションではなく、藍栄高校からすぐ近くのマンションに住んでいる。

 例の同居人には1回も会っていない。聞けば、仕事関係ですぐに戯人族の元へ戻ったらしい。

 そして舞花は────連絡はなかった。一度だけ戯人族の元へ会いに行ったが、やっぱり眠り続けていた。一度でも起き上がったことはないと、青龍は首を振っていた。

「やーさん、今年もよろしく」

「結城」

 後ろから走ってきたのは指定の制服とはまったく違う様子の衣服をまとった女子生徒。響高校とのことがあって以来、付き合いは続いている。

「冬休みに絡まれたりしなかった?」

「大丈夫だ。響高とのことは他の学校にも知られたらしくてな。あれからほとんどないんだ」

「へー。それならよかったね」

「心配してくれたのか? ありがとう。やーさんこそ大丈夫か? 響高のボスはやーさんにやたら絡んでいたようだが」

「あ…うん。何もないよ」

「それならいいが。何かあったら言ってくれ、やーさんには恩があるんだ」

 握りこぶしを作って見せる結城がありがたかった。だが、彼女の力は借りられない。

 響高のボスこと影内朝来は人間ではないから。今回は青龍がなんとかしてくれたから、本来彼女が大けがを負って入院する歴史は免れた。だが再び拳を交える時が来たら────。

 夜叉は満面の笑みを浮かべて親指を立てて見せた。

「ん? 私だったら大丈夫よ。あんなかわいらしい男なんて1発よ」

「そ、そうか…? ならいいけど…」

 気持ち悪いほどにこやかな夜叉に結城は頬を引くつかせた。

 クラスごとの列に並ぶため、結城とはすぐに分かれた。

 瞬間、真顔になって眉間にシワを寄せた。

(もうあのコには影内朝来なんて関わらせない。死にそうな痛みなんて…もう味わせないから)

 そして、あれ? という感情になって首をかしげる。クラスの列に並んで体育館シューズを履いた。

(なんかお母さんみたいなこと思ったな…。謎の母性本能?)

 別に結城があまりにも無鉄砲で人の止めも聞かずに敵陣へ突っ込んでいく、ということはないし見たこともないのだが。

 他の誰かが無意味に傷つくのは見たくなかった。例え自分が身代わりになったとしても。

(変なの…)

 しゃがんで体育館シューズのゆるんだひもを結び直した。
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