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2章
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ある日の夕方。翼が晩御飯を考えていたら、チャイムの鳴る音がした。
久しぶりに相談者かしら…と玄関のドアを開けると、ストレートで長い髪を持った女子高生が立っていた。
「こんにちは…」
翼から声をかけると、女子高生は深く頭を下げた。
ずいぶん大人びた見た目だ。身長もそこそこある。翼は160センチあるが、彼女はもう少しありそうだ。
「相談者さんかしら?」
問いかけると彼女はうなずき、そこでようやく口を開いた。同時に表情が崩れ、目には大粒の涙が浮かびこぼれた。
「助けて下さい…もうどうしたらいいか分からなくて…っ」
「…おっと」
彼女はそのまま涙をボロボロと流し始め、初対面の翼に構わず駆け寄って悲痛な声を上げた。
(これは…相当かも…)
翼は身長があっても線の細い彼女の背中を落ち着けるように優しく叩き、落ち着いた頃にリビングに通した。お茶を用意するついでに2階の部屋にいるアヤトのことも呼びつける。
泣き腫らして真っ赤な目になっている彼女の前に箱ティッシュを置いて”自由に使って”と勧めると、アヤトがリビングに訪れて息を呑んだ。
「大丈夫? 何が君をそんな仕打ちに合わせたんだい?」
泣いてはいないがまだかすかにしゃくりあげている彼女は、アヤトのことを見てまた瞳を潤ませた。
「バッカ。そんな聞き方はないでしょ。一言多い」
「悪い…」
お盆に載せて冷たい麦茶を運んできた翼はお盆ごとテーブルに置き、彼女の前に置いた。
「彼は私の仕事のパートナーなの。決して怪しいヤツじゃないから安心してね。もしコイツがいると話しづらい…ってなら席を外させるけど…」
「大丈夫です。平気です」
彼女はリビングに通されてから初めて口を開いた。まだ目も鼻も赤いが背筋をしゃんと伸ばしている。よく見ると顔立ちも整っており、同級生の中で群を抜いた綺麗さを持っていそうだ。
「私は横野美紅って言います。大学生の彼氏がいるんですけど…浮気されてるみたいで」
「え゛」
「え?」
「気にしないで。続けて」
高校生の口から浮気されてる、という文章が飛び出るとは思わずにフリーズした翼の肩を叩き、アヤトが続きを促した。彼は咳払いをして翼を話に集中させた。
「えっと…友だちと駅前で遊んでいたら彼氏が歩いてて、声をかけようと思ったら大学生ぽい女の人と歩いていて…なんか逃げなきゃと思ってそこからダッシュしたんですけど忘れられなくて…。彼氏の男友達と会ったこともあるんですけど、彼女のことは大切にするヤツだよって教えられてて本当はどっちなんだろうって不安なんです」
「それは…嫌なものを見ちゃったんだね…」
「はい…」
美紅は暗い顔でうつむき、麦茶に映る自分の顔を見つめているようだった。
「彼氏にそのことは言ったの?」
「いいえ…関係が壊れそうで怖くて言えないんです」
「なるほど。じゃあ君はどうしたい?」
アヤトは頬杖をついた。美紅は”それは…”と口をもごもごとさせて黙り込んでしまった。
翼は彼の脇を肘でつついて睨みつけた。想像したことのない最悪な経験をしてしまったのだ。どうしたらいいのか分からなくてここに来たのだから、彼女に答えを急かさせてはいけない。
「も、もしかしたらさ。美紅ちゃんへのプレゼントを選んでいたとか! 女の子の好きそうなものが分からなくて大学の知り合いに買い物に付き合ってもらっているとか…」
「プレゼント…」
「そうそう。サプライズだったら当日まで黙っておきたいじゃん」
「サプライズですか…」
少しずつ美紅の表情が晴れていく。思い当たるフシがあるのだろうか。誕生日とか付き合った記念日とか。
彼女は恥ずかしそうに笑って目の端を拭った。
「もしかしたら私の思い違いかもしれないです。急に押しかけてすみませんでした…」
「んーん、いいの。ここはそういう所だから」
翼は遠慮がちな彼女を安心させるようにほほえみ、よかったらおまんじゅうも食べる? と提案した。
その横でアヤトは何を言うでもなく口の端を上げ、頬杖をついたまま2人の様子を眺めていた。
久しぶりに相談者かしら…と玄関のドアを開けると、ストレートで長い髪を持った女子高生が立っていた。
「こんにちは…」
翼から声をかけると、女子高生は深く頭を下げた。
ずいぶん大人びた見た目だ。身長もそこそこある。翼は160センチあるが、彼女はもう少しありそうだ。
「相談者さんかしら?」
問いかけると彼女はうなずき、そこでようやく口を開いた。同時に表情が崩れ、目には大粒の涙が浮かびこぼれた。
「助けて下さい…もうどうしたらいいか分からなくて…っ」
「…おっと」
彼女はそのまま涙をボロボロと流し始め、初対面の翼に構わず駆け寄って悲痛な声を上げた。
(これは…相当かも…)
翼は身長があっても線の細い彼女の背中を落ち着けるように優しく叩き、落ち着いた頃にリビングに通した。お茶を用意するついでに2階の部屋にいるアヤトのことも呼びつける。
泣き腫らして真っ赤な目になっている彼女の前に箱ティッシュを置いて”自由に使って”と勧めると、アヤトがリビングに訪れて息を呑んだ。
「大丈夫? 何が君をそんな仕打ちに合わせたんだい?」
泣いてはいないがまだかすかにしゃくりあげている彼女は、アヤトのことを見てまた瞳を潤ませた。
「バッカ。そんな聞き方はないでしょ。一言多い」
「悪い…」
お盆に載せて冷たい麦茶を運んできた翼はお盆ごとテーブルに置き、彼女の前に置いた。
「彼は私の仕事のパートナーなの。決して怪しいヤツじゃないから安心してね。もしコイツがいると話しづらい…ってなら席を外させるけど…」
「大丈夫です。平気です」
彼女はリビングに通されてから初めて口を開いた。まだ目も鼻も赤いが背筋をしゃんと伸ばしている。よく見ると顔立ちも整っており、同級生の中で群を抜いた綺麗さを持っていそうだ。
「私は横野美紅って言います。大学生の彼氏がいるんですけど…浮気されてるみたいで」
「え゛」
「え?」
「気にしないで。続けて」
高校生の口から浮気されてる、という文章が飛び出るとは思わずにフリーズした翼の肩を叩き、アヤトが続きを促した。彼は咳払いをして翼を話に集中させた。
「えっと…友だちと駅前で遊んでいたら彼氏が歩いてて、声をかけようと思ったら大学生ぽい女の人と歩いていて…なんか逃げなきゃと思ってそこからダッシュしたんですけど忘れられなくて…。彼氏の男友達と会ったこともあるんですけど、彼女のことは大切にするヤツだよって教えられてて本当はどっちなんだろうって不安なんです」
「それは…嫌なものを見ちゃったんだね…」
「はい…」
美紅は暗い顔でうつむき、麦茶に映る自分の顔を見つめているようだった。
「彼氏にそのことは言ったの?」
「いいえ…関係が壊れそうで怖くて言えないんです」
「なるほど。じゃあ君はどうしたい?」
アヤトは頬杖をついた。美紅は”それは…”と口をもごもごとさせて黙り込んでしまった。
翼は彼の脇を肘でつついて睨みつけた。想像したことのない最悪な経験をしてしまったのだ。どうしたらいいのか分からなくてここに来たのだから、彼女に答えを急かさせてはいけない。
「も、もしかしたらさ。美紅ちゃんへのプレゼントを選んでいたとか! 女の子の好きそうなものが分からなくて大学の知り合いに買い物に付き合ってもらっているとか…」
「プレゼント…」
「そうそう。サプライズだったら当日まで黙っておきたいじゃん」
「サプライズですか…」
少しずつ美紅の表情が晴れていく。思い当たるフシがあるのだろうか。誕生日とか付き合った記念日とか。
彼女は恥ずかしそうに笑って目の端を拭った。
「もしかしたら私の思い違いかもしれないです。急に押しかけてすみませんでした…」
「んーん、いいの。ここはそういう所だから」
翼は遠慮がちな彼女を安心させるようにほほえみ、よかったらおまんじゅうも食べる? と提案した。
その横でアヤトは何を言うでもなく口の端を上げ、頬杖をついたまま2人の様子を眺めていた。
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