義手の探偵

御伽 白

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千里橋神社

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 千里橋神社は、街を二つに分ける大きな川である叶川かのうがわを繋ぐ橋、千里橋の近くに存在している。この千里橋が出来たから千里橋神社という名称が付いたと勘違いされがちなのだが、全くの逆であり、古くこの街は、宗教の力が強かったこともあり、神社もかなりの権力を有していた。その際に天満橋神社の宮司が交通の便が悪いだろうと人々と協力し、橋を建てた。その際に橋を立てた代表の名前を付けようと千里橋と呼ばれるようになったのが由来である。明らかに千里もないのにも関わらず、この様な名称が付いているのはそういうわけである。
 古くから存在している橋なので以前は木造建築であった橋も今では、鉄筋コンクリートで作られた厳めしいデザインへと変貌を遂げ、現在も千里橋として名前が残されている。
 その千里橋から少し離れた場所に千里橋神社は存在している。神社に近づくと住宅街だった場所が開け、石鳥居が見えてくる。そこから先は、街の雰囲気を一切消し去った様に真っ白な砂利の敷き詰められた参道へと変化する。山道の両脇には、木々が茂り緑豊かな光景が広がっている。
 何度か鳥居をくぐりながら誠とナユタは蜜柑の大量に入ったダンボール箱を抱えながら先へと進んでいく。誠はそれに加えてジャガイモまで持っているため、すでに腕がブルブルと頼りなく震えている。
「だ、大丈夫ですか?」
 元々、誠はひ弱な男性である。見栄を張っても、重いものは重い。助けた手前、自分の方が先に音を上げるのは、誠のプライドが許さなかった。
「全然大丈夫です。・・・・・・後、数分は・・・・・・」
「ほぼ、瀕死ですね!」
 プライドを守るよりも本音が漏れてしまっていた。。というか、数分というのもかなり見栄を張っていた。
「ごめんなさい。気が回らなくて、ジャガイモまで持ってらっしゃるのに、こんなに長時間持たせてしまって」
 ナユタは、地面にダンボールを置いて誠からダンボールを回収した。急に重量がなくなり、悲鳴を上げていた腕の力が抜けていく。
「手伝うって言ったのは私ですし、情けない限りです」
 誠は固まった腕を回してほぐしながら、自分の貧弱さを実感して落ち込みそうになる。
「そんなことありませんよ。仕方ありませんよ。重たいですし」
 ナユタも長時間の運搬作業に体が固まっていたのか、軽く伸びながら一息ついた。そして、帰路を眺めながら、これから持っていく労力を考え、憂鬱な表情を浮かべた。そもそも、何故、欲張って三箱も買ってしまったのか。過去の自分を恨めしく思えてきた。
「もう、一箱ぐらい食べて行きましょうか」
「え!?」
 ナユタも自分が思っている以上に疲れていた。
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