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シロノは恋焦がれ、後悔している。
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シロノは、蔵の奥に行くと隠していた布袋を持って帰ってきた。そこから取り出したのは、縫い付けられたハンカチと簪だった。
「ナユタと初めて会った日に私は、ここで彼女との縁を結んだんです」
シロノが持つ一番古い記憶。彼女との出会い。自分の過ちの始まりの日だった。
叶川の河川敷にシロノはいた。自分が記憶喪失だということは、すぐに分かった。過去の記憶もなく、
持っていたのは、小さな鞄が一つ。身嗜みは、出かけに行く様にちゃんとしていた。髪はちゃんと簪で留められており、服装も新品の様に綺麗なままだった。
自分の正体が分かるものが一切なく、意図的にそうした様にも感じられた。
鞄の中には、小さな財布と裁縫セットが入っていた。財布にはお金しかなく、身分を示す物も何もなかった。裁縫セットの袋の中には、『縁結び』が入っており、その使い方をシロノは何故か理解していた。そして、それが自分には必要になる代物だと。自分が他とは違う存在であることも何となく感じていた。縁でも結ばなければ、自分は受け入れてもらえないのだという確信もあった。しかし、一人だと分かると焦がれる様に誰かの暖かさを求めてしまうのも、シロノ自身の弱さだった。
シロノは、自分の手がかりを探しに辺りを散策した。そして、縁あって辿り着いたのが千里橋神社だった。自然がうまく調和した神社は優しく自分を迎え入れていくれている様に感じられ、手がかりなどないと思いながらも、神社に足が向かっていた。そして、神社の中を散策しているうちに古い蔵を見つけた。そこのドアが開いていることに気付いて、中に入るとそこには、祭具の数々が片付けられていて、シロノの好奇心を誘った。悪いとは思いつつも吸い込まれる様に中に入った時、声をかけられた。
「あの、そこは関係者以外立ち入り禁止なんです」
突然の声にびっくりして、シロノは祭具の置かれた棚にぶつかってしまった。シロノに向かって一つの祭具が降ってきて、ぶつかりシロノの手に痛みが走った。ヒリヒリと痛む手からは血が滲んでいた。
「大丈夫ですか!?」
そう言って駆け寄って来たのが、ナユタだった。
シロノはすぐに謝りながら蔵を出て行こうとしたが、引き止められ、ナユタからハンカチを渡されて、手当てまでされてしまった。
少し関わっただけで、ナユタが良い人なのはすぐに分かった。この子なら一緒に居させてくれるかもしれない。何も持たないシロノは、人の関わりに飢えていた。自分の居場所を探していた。自分がいてもいい場所が欲しいと狂おしいほどに思っていた。気が付けば、シロノはナユタから貰ったハンカチに自分の簪を結んでいた。そこから先は、予定調和に話が進んだ。記憶喪失で行き場のないことをナユタに話をして、住み込みで働かせて欲しいと頼み込み、ナユタは、それを快く受け入れてくれた。ナユタの父もナユタにお願いされ、シロノを受け入れた。
ナユタとシロノは、とても気が合う友人になり、家族の様に思ってくれていた。しかし、ナユタと仲良くなればなる程にシロノは、自分のしたことが後ろめたくなっていった。
ナユタは、私が縁を結んだから、仲良くなった。
そう思うたびにシロノは自分の心が締め付けられる様な感覚に陥っていた。ズルをしたのは自分だ。後悔するなら、縁を切ってしまえば良い。そう思いながらもシロノは、縁を断ち切ることは出来ず、ただただ、罪悪感を募らせていた。
そして、その罪悪感を薄めるためにシロノは、縁結びを始めた。ズルをしているのが、自分だけでなくなれば、この罪悪感も薄まるのではないか。実際に多くの人の縁を結ぶと心が休まる気がした。
誰も不幸になっていないなら良いじゃないですか。お互いが次第に好きになるのなら、仕組まれた縁でも良いじゃないか。そう思っていた。
「ナユタと初めて会った日に私は、ここで彼女との縁を結んだんです」
シロノが持つ一番古い記憶。彼女との出会い。自分の過ちの始まりの日だった。
叶川の河川敷にシロノはいた。自分が記憶喪失だということは、すぐに分かった。過去の記憶もなく、
持っていたのは、小さな鞄が一つ。身嗜みは、出かけに行く様にちゃんとしていた。髪はちゃんと簪で留められており、服装も新品の様に綺麗なままだった。
自分の正体が分かるものが一切なく、意図的にそうした様にも感じられた。
鞄の中には、小さな財布と裁縫セットが入っていた。財布にはお金しかなく、身分を示す物も何もなかった。裁縫セットの袋の中には、『縁結び』が入っており、その使い方をシロノは何故か理解していた。そして、それが自分には必要になる代物だと。自分が他とは違う存在であることも何となく感じていた。縁でも結ばなければ、自分は受け入れてもらえないのだという確信もあった。しかし、一人だと分かると焦がれる様に誰かの暖かさを求めてしまうのも、シロノ自身の弱さだった。
シロノは、自分の手がかりを探しに辺りを散策した。そして、縁あって辿り着いたのが千里橋神社だった。自然がうまく調和した神社は優しく自分を迎え入れていくれている様に感じられ、手がかりなどないと思いながらも、神社に足が向かっていた。そして、神社の中を散策しているうちに古い蔵を見つけた。そこのドアが開いていることに気付いて、中に入るとそこには、祭具の数々が片付けられていて、シロノの好奇心を誘った。悪いとは思いつつも吸い込まれる様に中に入った時、声をかけられた。
「あの、そこは関係者以外立ち入り禁止なんです」
突然の声にびっくりして、シロノは祭具の置かれた棚にぶつかってしまった。シロノに向かって一つの祭具が降ってきて、ぶつかりシロノの手に痛みが走った。ヒリヒリと痛む手からは血が滲んでいた。
「大丈夫ですか!?」
そう言って駆け寄って来たのが、ナユタだった。
シロノはすぐに謝りながら蔵を出て行こうとしたが、引き止められ、ナユタからハンカチを渡されて、手当てまでされてしまった。
少し関わっただけで、ナユタが良い人なのはすぐに分かった。この子なら一緒に居させてくれるかもしれない。何も持たないシロノは、人の関わりに飢えていた。自分の居場所を探していた。自分がいてもいい場所が欲しいと狂おしいほどに思っていた。気が付けば、シロノはナユタから貰ったハンカチに自分の簪を結んでいた。そこから先は、予定調和に話が進んだ。記憶喪失で行き場のないことをナユタに話をして、住み込みで働かせて欲しいと頼み込み、ナユタは、それを快く受け入れてくれた。ナユタの父もナユタにお願いされ、シロノを受け入れた。
ナユタとシロノは、とても気が合う友人になり、家族の様に思ってくれていた。しかし、ナユタと仲良くなればなる程にシロノは、自分のしたことが後ろめたくなっていった。
ナユタは、私が縁を結んだから、仲良くなった。
そう思うたびにシロノは自分の心が締め付けられる様な感覚に陥っていた。ズルをしたのは自分だ。後悔するなら、縁を切ってしまえば良い。そう思いながらもシロノは、縁を断ち切ることは出来ず、ただただ、罪悪感を募らせていた。
そして、その罪悪感を薄めるためにシロノは、縁結びを始めた。ズルをしているのが、自分だけでなくなれば、この罪悪感も薄まるのではないか。実際に多くの人の縁を結ぶと心が休まる気がした。
誰も不幸になっていないなら良いじゃないですか。お互いが次第に好きになるのなら、仕組まれた縁でも良いじゃないか。そう思っていた。
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