ぼっちな魔女の魔法人形

御伽 白

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魔法人形の体を手に入れました。

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「あれ? おかしいなぁ。休眠状態に入ってる。さっき、魔力を供給したのに」

 声が聞こえます。少し幼さを感じる高い声に私は目を覚ましました。

 休眠状態が解除されたんですね。3時間、その間は、完全に意識がなくなっているので、感覚的には、一瞬です。

 <『無策』なので次の言葉は『む』です>

 いや、もうしりとりはいいです。というか、最後まで、若干悪口に聞こえるワードでしたね。

 このガイドさん。もしかして自我があるんでしょうか。

 外に意識を向けると私の前に女の子が立っていました。やや癖っ毛のピンクの髪の少女が私の前に立っています。

 真っ黒な少し大きめのローブを身に纏い、とんがり帽子を被った魔女が私の前にいました。幼さの残る童顔の少女で、非常に整った顔立ちをしています。

 かなりの美人さんですね。中学生ぐらいでしょうか。
 
 この人が、この家の家主でしょうか? それにしては、かなり幼いような。

 もしかして、研究者というのは、私の予想が外れていたんでしょうか?

「私の声、聞こえてる・・・・・・よね? 初めまして、私はイーリス・ブロッサム」

少し緊張した様子で彼女は私に話しかけます。その表情には不安が感じられます。

「これから、色々、教えてあげるからね」

 色々、教えてあげる・・・・・・一体何を教えてくれんでしょうか。

 その響きから少し淫靡な雰囲気を感じます。いえ、私が下世話なだけなんでしょうけど。

 イーリスは私を持ち上げました。あ、『虚構の箱』があっても動かすことは出来るんですね。

 あくまで防げるのは、破壊だけですか。

 箱に入れたものは解除されるまでは、箱にある判定になるということなんですね。その場から動けないよりは、便利で良かったです。

 動きが限定されてしまうと自由度が下がってしまいますし。

 <他者が接触しました。『思念伝達』を使用すれば、会話が可能です>

 あ、そうでしたね。思念伝達は触れた対象に適応出来るのでしたね。思念伝達してください。

『初めまして、よろしくお願いします。イーリスさん。私は・・・・・・』

 吾輩はホムンクルス、名前はまだない。でした。名称未設定でしたもんね。

『名前はまだありませんが、ぜひ仲良くしていただけるとありがたいです』

 やや定型分的な挨拶になってしまいましたが、印象を良く持って欲しいですから、猫は被ります。

 現状、彼女の機嫌を損ねるのは得策ではありませんし。怪我をしないとは言っても私は、稼働時間1時間の動くことも出来ない球体ですから。

 私が挨拶すると何故かイーリスは目を丸くして硬直してしまいました。あれ? 何か変なこと言いました?

「しゃべったー!」

 少女は、そう声を上げました。かなり驚いた表情で、両手を上に挙げました。

 勢いよく視界が移り変わっていきます。ふんわりと視点が上がっていきます。そうかと思うとゆっくりと下に降りていきます。

 この少女、あろうことか私を放り投げたのです。割れ物ですよ。

 私。感覚器官がない分、視界だけの怖さがあります。

 身動きを取れない状態で、地面に落ちていくのは、フリーフォールとかスカイダイビングの怖さってこういう感じなんでしょうか。

 呑気にそんなことを考えている余裕は私にはありません。刻一刻と地面が私に向かってやってきているのですから。

 いえ、向かって言ってるのは、私でしたね。そんなことより

 地面がぁぁぁぁ! 壊れちゃううううう!!!

 『虚構の箱』を発動していることなんて、すっかり忘れて私は叫びました。ええ、誰に聞こえる訳でもありませんけど。

 地面に私が触れる瞬間、ピタリと私の動きが止まりました。う、浮いてる?

「あ、あぶなかった」

 間一髪、私は地面と激突せずに済んだのです。危なかったはこっちのセリフです。

「ご、ごめんなさい。返事が返ってくるとは思ってなくて」

 空中に浮かせた私を手元に引き寄せると、イーリスは頭を下げました。

 自分から話しかけておいて、返事が返ってくるとは思わなくてとは、どう言うことですか。言い訳ですか。





 <ホムンクルスは、通常、知識を持たないため、所持者が会話などを通じて語彙や思考能力を獲得します。そのため、生まれた瞬間から会話が可能なホムンクルスは、存在しません>

 あーはい。私がイレギュラーってことですね。分かりました。

『もう放り投げないでくださいね』

「う、うん。約束する! ところで、なんで、あなたはそんなにスラスラ話せるの?」

『それは私が転ーーー』

 いえ、転生なんてそんなサラッと言ってしまって良いんでしょうか? 当たり前のように転生してますけど、かなりイレギュラーな存在なのでは?

 ガイドさん、どう思います?

 <転生体、自体は存在しないものではないので、説明しても疑われることはありません>

 うーん。そう言うことが聞きたかった訳ではないんですけど。まあ、分かりました。 ここは正直に説明しましょう。

 自己開示することで相手に好印象を抱いてもらえるという話があったりなかったりするらしいので。

『私は、転生してこの体に生まれ変わりました。だから、ある程度、話をすることが出来るんです』

「転生・・・・・・確かにそれなら教えていない言葉を流暢に話すのも納得」

『私がどんな人間だったかは、全く覚えていないので、詳しくは説明出来ませんけど』

 かなり胡散臭い状況ですが、私には説明出来るだけの過去の情報がほとんどありません。精々、異世界の知識を説明できる程度です。

 料理の知識もありますけど、調味料の作り方なんて知りませんから、異世界の知識で食に革命を起こすなんてことも出来ません。

『わ、私の世界では、鉄の乗り物が走っていて、すごい電波で遠くの人と話すことがーーー」

「うん。分かった。信じる」

 私が元の世界の知識を披露しようとする前にイーリスは頷いた。

『本当に? 自分で言うのもなんですけど、かなり胡散臭い状況ですよ? 疑わしすぎて、逆に疑わしくないみたいな』

「じゃあ、大丈夫なんじゃないの?」

『・・・・・・確かに』

信じてもらえると言うのなら話が早いです。ならば、出来るだけ、イーリスに協力してもらって、移動可能な体を提供してもらう。

『出来れば、自由に動けるように体が欲しいんですが』

「分かった。」

『良かった。動けないと何も出来ませんから』

「・・・・・・体はすでに用意している。ただ少し、問題がある」

『問題があるとは?』

「あなたを自由にしてあげることは、今のところ難しい」

少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。何か重大な問題があるのかもしれない。

「ホムンクルス・コアを作るのには、かなりの金額が必要になる。実際、ゼウル金貨で400枚ぐらいの金額」

 つまり、私を手放すならその分を払えと。えっと、金貨400枚って日本円でどれぐらいになんでしょう。

 ガイドさん、ゼウル金貨の値段って知ってますか? 

 <金貨の価値に流動性があるため、正確に把握出来ませんが、金貨は1枚で、1人の一般市民が週に五日働いて、半月ほどで稼げる金額です>

 え、それって、とんでもない金額なんじゃないでしょうか。

 1ヶ月で2枚の金貨を稼げると言うことは、400枚稼ぐには、100ヶ月働き続けないといけない?

 100ヶ月ってことは、12にで割って考えると・・・・・・8年と4ヶ月働かないといけないってこと?

 <正確に言うのであれば、生活にかかる費用を全て省いて考えた場合になります>

 もしかして、イーリスはとんでもなくお金持ちなんですか?

 正直、私の価値がそれほど高かったとは夢にも思いませんでした。というか、この人そんな高価なものを放り投げたんですか?

 しかし、私には現状、お金を生み出す力なんてありません。体で払う結果に!?

 いえ、エッチな意味ではなく物理的に質屋にでも入れられかねません。それって所有者が別に移っただけで私の現状って何も解決してませんし。

『すいません。私、見ての通り、生後6時間で。そんな大金は』

「分かってる。流石に生まれたばかりの人にそれだけの金額を要求出来るとは思ってない。あなたには、ここで働いてもらいたい。元々、そのために用意した体だったから」

つまり、住み込みでここで働いてお金を稼げと。落とし所としては悪くないんじゃないでしょうか。

『ちなみに労働条件を確認しても? 業務内容と就労時間、給与金額とかを』

「仕事は私の身の回りの手伝い。お掃除が主な仕事になると思う。お給料は月に金貨4枚。就労時間って働く時間ってことだよね。疲れたら、休んでくれていい」

 お掃除で1ヶ月金貨4枚? しかも、自由に休憩していいと。何か悪いことを企んでるんじゃないのかと思うほどの労働条件ですね。

 というか、本当に何も企んでないんですか?
 
「私に金貨400枚を払い終えたら終わり。あなたに与えた新しい体も持っていっていい」

『やります! やらせてください!』

「うん。よろしく。そうだ。あなたの名前、聞いてなかった」

『あー、名前。今は特に名前がなくて』

 現状、私の名前の欄は名称未設定になっている。私の過去の記憶も失われているので、生前の名前も分かりません。

 なので、正直に言うとなんと呼ばれようと構わないのですが。

「じゃ、じゃあ、私がつけてもいい?」

『え、まあ、いいですけど』

「元々、付けようと思っていた名前があって、フレンってどうかな?」

『フレン? 別に良いんですけど、なんでフレンなんですか?』

「・・・・・・えっと、特にないよ。響きが良かったから?」

 考えてたと言う割にかなり適当な理由ですね。いえ、別にいいんですけど、フレンという響きが何か嫌なものを連想させるというわけでもないですし。

 ただ、少し彼女の言い方に含みを感じてしまうのは、私が考えすぎなんでしょうか。

「それじゃあ、フレンを体に入れるね」

イーリスは、私を手のひらに乗せて、部屋の奥へ移動する。部屋の奥に布が被せられた大きな何かがありました。イーリスより大きなーーといってもイーリスは、かなり小柄ですがーーーイーリスが何かの布を取るとそこから出てきたのは、白髪の女性でした。

 白髪の女性が瞳を閉じて立っています。透き通るような銀色の髪に長い手足。イーリスが、幼さの残る美少女なら彼女は、目を奪われるほどの完成された美女でしょう。

 瞳を閉じた美女は、立ったまま眠っているのでしょうか。黒と白で統一されたメイド服を身に纏っています。




『・・・・・・綺麗』

 思わずそんな言葉が出てしまうほどに、芸術品のようです。私の反応に対して少し嬉しそうに笑うとイーリスは私を彼女の側に近づけました。

「これがフレンの体」

『この人が?』

 つまり、これは人形ということですか? どこからどう見ても人間にしか見えません。 

 いえ、ある意味、整い過ぎた顔立ちは、人工物と言われると納得してしまう造形ですが。

「使用人はこの姿にするのが至高らしい」

『いえ、私の世界では、確かに使用人と言えばこの格好ですけど。絶対、その人、異世界人ですよ』

「そうなの? これが一般的だと思って20着ぐらい作ったのに」
 
『漫画とかで見たことある同じ服がいっぱいあるやつ』

毎日洗濯するにしても20着もいらないでしょうに。

「嫌なら新しいものを用意する」

『いえ、仕事着と思えば、それに似合ってるので、別にいいです。出来れば、普段着的なものがあるとありがたいですが』

 客観的に見て、メイド服がよく似合っています。まあ、この姿で似合わない服を探す方が難しそうですが。

「分かった。用意しておく。それじゃあ、早速、同化させる」

 そう言ってイーリスは私の体を人形にくっつける。

 <人形との接触を確認しました。スキル『人形同化』を使用しますか?>

 よろしくお願いします。

 私がそう考えた瞬間、人形に私のコアが沈み込んでいきます。

 私の体の感覚が徐々に変化していきます。失われていた手足の感覚、立つためにバランスを制御する。瞼を開ける、視線を動かす、人間だった頃に行えていた感覚が取り戻されていきます。

 私の視点は、イーリスよりも少し高い位置にあります。

「上手くいったみたいだね。よろしくね。フレン」

 イーリスの言葉に私はスカートを摘んで頭を下げました。

「おかえりなさいませ。ご主人様」

「・・・・・・帰ってきてないよ?」

「あ、ごめんなさい。なんでもないです」

 異世界にその文化は定着していなかったようです。ちょっと恥ずかしい。
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