ぼっちな魔女の魔法人形

御伽 白

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桜の花と小さな声

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 私達の話が終わり、気がつくと真夜中になっていました。掃除に時間をかなり使いましたからね。

 窓の向こうには、大きな月が見えます。明らかに地球で見る月よりも大きいのは、異世界に来たなと実感します。
 
「フレン、おやすみ」
 
「おやすみなさい」

 綺麗にしたばかりの廊下で、イーリスに挨拶をして、用意された自分の部屋に入ります、

 何もない部屋で、ベッドや机、クローゼットなどの家具があるだけで、他には何もありません。

 私は自分のベッドに座りました。もう夜も遅いですが、この体は生理的欲求がないので、眠気というものがありません。
 
 随分と色々なことがありました。突然、転生したと思ったら、そこでメイドとして働くことになったり。掃除したり、あと、掃除したり、それから掃除もしましたね。

 おおよそ、記憶の大半が、掃除の記憶ですけど。

 異世界転生としては、平凡過ぎるスタートです。突飛なこともありませんし、戦いの気配すらありません。

 そもそも、私のスキルは戦いに向きませんし。

 私のコアを『虚構の箱』の力で守ることは出来てもコア以外を破壊されてしまえば、何も出来ません。

 そして、何より戦闘に関するスキルがない時点で、戦いのない平和な時代に生きてきた私が、戦えるわけもありません。

 戦わずに済むなら戦いたくなんてありませんから、それは別に構いませんが。

 しかし、眠気がないというのは、24時間を使えるということで、1日が長く感じます。普通の人は6~8時間ぐらい寝ているでしょうし、食事も食べます。10時間ぐらいは、生活にリソースを割いているのに、この体は、24時間を自由に使えます。

 体感的には、人の倍の時間を過ごしているので、ある意味、することがなくて暇という気持ちです。

 掃除をして、寝ているご主人様を起こすのは従者としては、失格でしょうしね。

 色々と今後の身の振り方を考えないといけないとは思いながらも、あまり情報がなくて、どうすればいいのかわからないです。

 私は細かいことを考えるのが好きではないので、とりあえず、当面はこのまま生活して環境に慣れるところからでしょうか。

 そう思いながら、ぼーっと窓の外から見える月を眺めます。眠気がなくなれば、やりたいことをいくらでも出来るのに。みたいな話はよく聞くものでしたが、この世界には、娯楽が無さ過ぎて、特にすることのない時間が続くだけです。

 もう真夜中とはいえ、まだ数時間は、うるさくは出来ませんし・・・・・・

 「あ、そうだ。外の庭の整備ぐらいなら」

 改めて考えてみれば、家の中ではなく、外の掃除なら、イーリスを起こす心配もないのいでは?

 私は、立ち上がり部屋を出ました。小さなランプだけが照らす真っ暗な廊下を歩きながら入り口から外に出ます。

 意外にも外は巨大な月のおかげで明るく、周囲の物は思いの外はっきりと見えます。

 これなら、掃除も簡単ですね。窓からしか外を見ていなかったので少し歩いてみましょうかね。

 整地されたこの家の周りには、彼女が育てている魔草の植えられた畑があります。そして、そのすぐ側にはには井戸があります。

 井戸には蓋がされていていますが、こちらに関しては頻繁に使われているようで、使い古されたバケツが井戸の滑車に取り付けられています。

 さすがにこの時間に井戸を触る気は置きません。なにか出てきたらびっくりしますから。
 
 いえ、別に怖いとか、そういうわけではないですけど、滑車が軋んで音が出てイーリスを起こしてしまったら申し訳ないですから。

 そして、玄関の反対に歩いていくと大きな木が一本だけ生えています。かなり大きな木です。間違いなく数百年はこの場所に生えていたのではないでしょうか。

 しかし、それ以上に私の興味を抱かせたのは、その木がとても見覚えのある木だったからです。

「桜の木ですよね」

 淡い桃色の花が木を染め上げています。その姿は緑の木々に覆われたこの森では、一際、目を惹きます。

 異世界に来て、桜の木に出会えるとは思いませんでした。

 でも、考えてみれば、彼女の名前は、イーリス・ブロッサムという名前ですし桜を意味する名前ですね。

 私の頭ではブロッサムと認識していますが、桜を指す異世界語を転生した私が変換しているのかもしれません。

 転生の際に異世界語を私の国の言語に置換して翻訳してくれるという話でしたから。

 満開の桜を見ていると心が落ち着くのを感じます。ヒラヒラと舞い散る桜の花びらは切なさを感じさせます。

 これほど大きく見事な桜の木は、そうないでしょうから、この木もイーリスが管理をしているのでしょう。

 私は掃除を忘れて、月夜に照らされ、美しく輝く桜に目を奪われていました。

「あ、そうです。掃除をするんでした」

 数十分ほど桜を眺めて、要約、自分が何をするために来たのかを思い出しました。

 そうです。掃除をしに来たんでした。時を忘れる美しさとはまさにこのことですね。
 
「たす・・・・・・けて」

 私が掃除を始めようとするその時、森の奥から声が聞こえました。

 小さくか細い声でしたが、それは確かに誰かの助けを求める声でした。

「もしかして、森に誰かいるんですか?」

「たす・・・・・・けて、おかあさん」

 森に耳を澄ませると先ほどの声がより鮮明に聞こえてきました。もしかして、迷子の子供でもいるのかもしれません。

 助けに行かないと。

 私は、森の中に声の主を探しに向かったのでした。
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