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3章
Part 185『サツキ』
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俺は、自分で言うのもなんだが、かなり強かった。だから、狐月の勢力に入っていた俺は、その中でも荒事専門の仕事をしていた。
上から与えられた命令をこなす。強い敵と戦えればそれでよかったし、天職だと思っていた。
他の敵対勢力と戦い多くの妖怪を屠ってきた。自分の存在は、影響力を持っているとそう確信していた。
だけど、その時、相手したのが悪かった。鬼島家の現当主、氷華と俺は戦った。
大物中の大物、こいつを倒せば俺の名声はさらに大きくなる。欲が出たんだ。実際は、大敗だ。
今は、清浄石で力を抑えてるらしいが、当時は、そんな技術、鬼島には流れてなかったからな。本来の能力だった。
今でも生きてるのが不思議なぐらいだ。手も足も出なかった。だからこそ、俺は生きられたんだと思うが、本当にかすり傷一つ付けることは出来なかった。
一撃だった。避けるとか避けないとか、耐えるとか耐えないとか、そういう次元じゃなかった。
気づいた時にはすでに死にかけていた。自分に何が起こったのかもわからない。ただ、負けたんだなって事は体の痛みが教えてくれた。
妖怪の中で最強だと確信したよ。化物の中の化物だとな。
今回の一件だっておそらく、氷華が出てきたら計画なんてものは微塵も意味をなさなかったはずだ。
だから、せめて怒りを買わないように襲撃の時は殺しだけは絶対にするなって命令を出したんだからな。
鬼島の勢力の半分以上は、氷華の存在があったからだと思うぞ。実際な。
ああ、話が逸れたな。そうして、大敗北をした俺は、氷華から逃げた。けど、想像以上にダメージが多すぎてな。こりゃあ、だめだ。死ぬなって思って木にもたれかかっている時だ。
俺は、サツキと出会った。俺の姿を見るなり、顔を真っ青にして「大丈夫!?」って駆け寄ってきた。
稲穂のような色の長い髪をした妖狐は、俺に近づくとすぐに手当を始めた。そりゃあ、下手くそで、このまま、手違いで殺されるんじゃないかと思った程だ。
だけど、幸運にも俺は一命を取り留めた。
怪我が治るまでの間、あいつといろんな話をした。俺が今までした事やどうして大怪我をしたのかとか、逆にあいつ自身の話も色々と話してくれた。
第一印象は、どこか抜けたところのある女だったが、話してみると、お人好しで、世間知らず、そのくせ正義感は強いそんな女だった。まあ、抜けてるのはその通りだったけどな。
サツキは、熱心に介抱してくれた。俺には今までにはない経験だったからな。治ったら必ず恩返しをしようと思った。
それからは、俺は、傷を癒してある程度元の状態まで復帰出来るようになった。けど、今までの仕事はやめてサツキの護衛の仕事をするようになった。
といってもサツキは、特に戦いに参加する仕事じゃなかったから俺はほとんど役に立てなかったんだがな。
ただ、サツキは、ずっと何かを考えているような表情を浮かべてたんだ。
その頃の狐月の勢力は、弱肉強食をそのまま形にしたような状況だった。狐月のトップは、弱者を極端に嫌う奴だった。名前は確か、サゲツと呼ばれていたかな。
ただ、当の本人は、戦えれば満足って感じの冗談抜きの戦闘狂だった。弱い奴は、明らかに危険な場所に送り込んで間接的に殺してたってのも聞いたことがあるぐらいのゲスだ。
そんな状態の狐月をよく思っていなかったんだ。だから、ある時、サツキはサゲツに勝負を挑んだ。自分が勝ったら当主の座を譲れってな。
結果は、お前の知っての通りだ。サツキは、敗北した。そして、弱者として狐月からも追い出された。
サツキは、狐月の勢力の軽んじられていた奴らを引き連れて立ち去った。それに俺もついていった。
だけど、所詮は弱者の集まりだ。いずれどこかの勢力に滅ぼされる事は目に見えていたからな。他の勢力でも居場所のない奴らを集めて生きる場所を作ろうとした。
これが餓狼衆の元の勢力だ。
力が強くても考え方が合わずに仲間達から迫害される奴らもいたからな。少数ではあったが、勢力として認知される程度には、大きな組織になった。
そこで拠点としていたのが篠山だ。それが理由で篠山の妖狐と呼ばれていたんだ。
サツキは、他の妖怪であろうと本当の家族のように接していた。種族の違う俺達が纏まっていたのは、あいつがいたからだ。
さっき言っただろ。自分の利益に他人の幸福を入れれる奴、サツキまさにそんな感じだった。情に厚く、個々の存在を本当に大切にしていた。そして、大切なものを守るために命をかけれる奴だった。
だからこそ、あいつのために皆が努力した。サツキのためなら命を捨ててもいいという奴らばかりだった。
俺も荒事専門として、戦った。本格的な戦闘は避けてきたが荒事ってのは、やってくるもんだからな。
そんな中、多くの各勢力が同盟を結ぶ動きがあった。狐月だけじゃない鬼島も加わるこの同盟は、はっきり言って争いの終了だった。サツキも同盟に加わる事を考えて使いを送った。けれど、そいつは帰ってこなかった。
道中に何者かによって殺されていたんだ。明らかに偶然じゃなかった。俺達は、すぐに内通者がいないかを調べ上げた。
そして、内通者を見つけた。取り調べるとそいつは、自分はサゲツの使いだと自白した。
あいつとしては、離反したサツキが同盟に加わるのは面白くなかったんだろう。だから、そのまま、同盟を利用して俺達を滅ぼそうと考えていた。
仲間が殺された事もあって仲間達も殺気立っていた。狐月だけでも滅ぼそうってな。
俺達は、戦うために色々な研究をしてきた。魔法や戦闘技術、そして呪いもだ。
そして、俺達は開発していたのさ。狐月と戦うための武器『禍神』って呪いをな。
自分にその呪いを使えば、一時的に自分の力を何十倍にも跳ね上げることができる。しかし、魔力も筋力も思考速度も上昇するその呪いは、強力だが代償が大きすぎた。使用者は、使用して数日で消滅する。
命を代償に行う呪術だからな。だが、全員が使えば狐月を滅ぼすぐらいは可能だと言う確信もあった。
実際、何人かは、負け戦を禍神を使って逆転し俺達の村を守った事だってあった。
だけど、サツキはそれを許可しなかった。全員が生きる道を探すべきだとそう言った。
話をつけてくるとサツキは、狐月の拠点に行った。そして、狐月から帰ってきたサツキは、俺たちに申し訳なさそうに言ったんだ。
「交渉は失敗しました。狐月と戦う事になりました。」
その後、狐月の党首を殺してしまったという事を伝えられた。これは間違いなく殲滅戦になる。俺達はそう思った。
けれど、そんな状況でもサツキは俺達に命令を出した。絶対に禍神は使うなと。
正直、使わなければ、勝負は、不利なのは目に見えていた。けれど、「勝つことよりも生きる事を優先してください。」とサツキは言った。
予想通り、狐月との戦いは、ひどい乱戦になった。戦闘能力がないものは、他の拠点に避難させて、いた事もあってか死者はそれほど出なかったが、最終的にサツキと狐月の当主の引き継いだムゲツとが戦った。
最初は、サツキが有利だった。むしろ、圧勝していたと言っていい。だから、俺達も自分たちの戦いに専念した。
計算に入れるべきだった。当主を殺したサツキの力を知ってわざわざ馬鹿正直に一対一で戦おうとする訳がないってことを。
ムゲツは人間と協力していた。
俺が戦いを終えて加勢に向かうとムゲツは、人間の力を借りてサツキを封印していた。
そして、ムゲツは俺達に言った。「今回の一件は、これで手打ちだ。今回の戦いで君達が手を引くと言うのなら私達は攻撃する意思はない。」と。
幼い印象の女だったが、ムゲツの言葉は、ひどく冷たかったのを覚えている。
全員が満身創痍だった事もあって俺達は降伏した。けれど、諦めたわけじゃない。封印なら解除することが出来る。俺達はサツキの封印を解くために色々な方法で封印を調べた。
その結果、人間にしか封印を解くことができないことが分かった。
そして、好機を狙ってずっと過ごしていた。半数以上は、新しい土地で新しい生活を始めた。けど、どうしても、他の場所に行けない奴らもいる。
餓鬼どもは小さかったし、自給自足も限界があった。そのために他人から奪った。多くを敵に回さないように悪いやつを狙ってな。
そんな中、人間が街にいるって情報が入った。好機だと思った。まあ、鬼と一緒に行動してるのが困ったが、今しかなかった。
何人か雇って襲撃すれば、隙をついて攫うことも出来るだろうと思ってたしな。
そんで今、こうしてお前を攫ってここにいるって訳だ。
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俺は、自分で言うのもなんだが、かなり強かった。だから、狐月の勢力に入っていた俺は、その中でも荒事専門の仕事をしていた。
上から与えられた命令をこなす。強い敵と戦えればそれでよかったし、天職だと思っていた。
他の敵対勢力と戦い多くの妖怪を屠ってきた。自分の存在は、影響力を持っているとそう確信していた。
だけど、その時、相手したのが悪かった。鬼島家の現当主、氷華と俺は戦った。
大物中の大物、こいつを倒せば俺の名声はさらに大きくなる。欲が出たんだ。実際は、大敗だ。
今は、清浄石で力を抑えてるらしいが、当時は、そんな技術、鬼島には流れてなかったからな。本来の能力だった。
今でも生きてるのが不思議なぐらいだ。手も足も出なかった。だからこそ、俺は生きられたんだと思うが、本当にかすり傷一つ付けることは出来なかった。
一撃だった。避けるとか避けないとか、耐えるとか耐えないとか、そういう次元じゃなかった。
気づいた時にはすでに死にかけていた。自分に何が起こったのかもわからない。ただ、負けたんだなって事は体の痛みが教えてくれた。
妖怪の中で最強だと確信したよ。化物の中の化物だとな。
今回の一件だっておそらく、氷華が出てきたら計画なんてものは微塵も意味をなさなかったはずだ。
だから、せめて怒りを買わないように襲撃の時は殺しだけは絶対にするなって命令を出したんだからな。
鬼島の勢力の半分以上は、氷華の存在があったからだと思うぞ。実際な。
ああ、話が逸れたな。そうして、大敗北をした俺は、氷華から逃げた。けど、想像以上にダメージが多すぎてな。こりゃあ、だめだ。死ぬなって思って木にもたれかかっている時だ。
俺は、サツキと出会った。俺の姿を見るなり、顔を真っ青にして「大丈夫!?」って駆け寄ってきた。
稲穂のような色の長い髪をした妖狐は、俺に近づくとすぐに手当を始めた。そりゃあ、下手くそで、このまま、手違いで殺されるんじゃないかと思った程だ。
だけど、幸運にも俺は一命を取り留めた。
怪我が治るまでの間、あいつといろんな話をした。俺が今までした事やどうして大怪我をしたのかとか、逆にあいつ自身の話も色々と話してくれた。
第一印象は、どこか抜けたところのある女だったが、話してみると、お人好しで、世間知らず、そのくせ正義感は強いそんな女だった。まあ、抜けてるのはその通りだったけどな。
サツキは、熱心に介抱してくれた。俺には今までにはない経験だったからな。治ったら必ず恩返しをしようと思った。
それからは、俺は、傷を癒してある程度元の状態まで復帰出来るようになった。けど、今までの仕事はやめてサツキの護衛の仕事をするようになった。
といってもサツキは、特に戦いに参加する仕事じゃなかったから俺はほとんど役に立てなかったんだがな。
ただ、サツキは、ずっと何かを考えているような表情を浮かべてたんだ。
その頃の狐月の勢力は、弱肉強食をそのまま形にしたような状況だった。狐月のトップは、弱者を極端に嫌う奴だった。名前は確か、サゲツと呼ばれていたかな。
ただ、当の本人は、戦えれば満足って感じの冗談抜きの戦闘狂だった。弱い奴は、明らかに危険な場所に送り込んで間接的に殺してたってのも聞いたことがあるぐらいのゲスだ。
そんな状態の狐月をよく思っていなかったんだ。だから、ある時、サツキはサゲツに勝負を挑んだ。自分が勝ったら当主の座を譲れってな。
結果は、お前の知っての通りだ。サツキは、敗北した。そして、弱者として狐月からも追い出された。
サツキは、狐月の勢力の軽んじられていた奴らを引き連れて立ち去った。それに俺もついていった。
だけど、所詮は弱者の集まりだ。いずれどこかの勢力に滅ぼされる事は目に見えていたからな。他の勢力でも居場所のない奴らを集めて生きる場所を作ろうとした。
これが餓狼衆の元の勢力だ。
力が強くても考え方が合わずに仲間達から迫害される奴らもいたからな。少数ではあったが、勢力として認知される程度には、大きな組織になった。
そこで拠点としていたのが篠山だ。それが理由で篠山の妖狐と呼ばれていたんだ。
サツキは、他の妖怪であろうと本当の家族のように接していた。種族の違う俺達が纏まっていたのは、あいつがいたからだ。
さっき言っただろ。自分の利益に他人の幸福を入れれる奴、サツキまさにそんな感じだった。情に厚く、個々の存在を本当に大切にしていた。そして、大切なものを守るために命をかけれる奴だった。
だからこそ、あいつのために皆が努力した。サツキのためなら命を捨ててもいいという奴らばかりだった。
俺も荒事専門として、戦った。本格的な戦闘は避けてきたが荒事ってのは、やってくるもんだからな。
そんな中、多くの各勢力が同盟を結ぶ動きがあった。狐月だけじゃない鬼島も加わるこの同盟は、はっきり言って争いの終了だった。サツキも同盟に加わる事を考えて使いを送った。けれど、そいつは帰ってこなかった。
道中に何者かによって殺されていたんだ。明らかに偶然じゃなかった。俺達は、すぐに内通者がいないかを調べ上げた。
そして、内通者を見つけた。取り調べるとそいつは、自分はサゲツの使いだと自白した。
あいつとしては、離反したサツキが同盟に加わるのは面白くなかったんだろう。だから、そのまま、同盟を利用して俺達を滅ぼそうと考えていた。
仲間が殺された事もあって仲間達も殺気立っていた。狐月だけでも滅ぼそうってな。
俺達は、戦うために色々な研究をしてきた。魔法や戦闘技術、そして呪いもだ。
そして、俺達は開発していたのさ。狐月と戦うための武器『禍神』って呪いをな。
自分にその呪いを使えば、一時的に自分の力を何十倍にも跳ね上げることができる。しかし、魔力も筋力も思考速度も上昇するその呪いは、強力だが代償が大きすぎた。使用者は、使用して数日で消滅する。
命を代償に行う呪術だからな。だが、全員が使えば狐月を滅ぼすぐらいは可能だと言う確信もあった。
実際、何人かは、負け戦を禍神を使って逆転し俺達の村を守った事だってあった。
だけど、サツキはそれを許可しなかった。全員が生きる道を探すべきだとそう言った。
話をつけてくるとサツキは、狐月の拠点に行った。そして、狐月から帰ってきたサツキは、俺たちに申し訳なさそうに言ったんだ。
「交渉は失敗しました。狐月と戦う事になりました。」
その後、狐月の党首を殺してしまったという事を伝えられた。これは間違いなく殲滅戦になる。俺達はそう思った。
けれど、そんな状況でもサツキは俺達に命令を出した。絶対に禍神は使うなと。
正直、使わなければ、勝負は、不利なのは目に見えていた。けれど、「勝つことよりも生きる事を優先してください。」とサツキは言った。
予想通り、狐月との戦いは、ひどい乱戦になった。戦闘能力がないものは、他の拠点に避難させて、いた事もあってか死者はそれほど出なかったが、最終的にサツキと狐月の当主の引き継いだムゲツとが戦った。
最初は、サツキが有利だった。むしろ、圧勝していたと言っていい。だから、俺達も自分たちの戦いに専念した。
計算に入れるべきだった。当主を殺したサツキの力を知ってわざわざ馬鹿正直に一対一で戦おうとする訳がないってことを。
ムゲツは人間と協力していた。
俺が戦いを終えて加勢に向かうとムゲツは、人間の力を借りてサツキを封印していた。
そして、ムゲツは俺達に言った。「今回の一件は、これで手打ちだ。今回の戦いで君達が手を引くと言うのなら私達は攻撃する意思はない。」と。
幼い印象の女だったが、ムゲツの言葉は、ひどく冷たかったのを覚えている。
全員が満身創痍だった事もあって俺達は降伏した。けれど、諦めたわけじゃない。封印なら解除することが出来る。俺達はサツキの封印を解くために色々な方法で封印を調べた。
その結果、人間にしか封印を解くことができないことが分かった。
そして、好機を狙ってずっと過ごしていた。半数以上は、新しい土地で新しい生活を始めた。けど、どうしても、他の場所に行けない奴らもいる。
餓鬼どもは小さかったし、自給自足も限界があった。そのために他人から奪った。多くを敵に回さないように悪いやつを狙ってな。
そんな中、人間が街にいるって情報が入った。好機だと思った。まあ、鬼と一緒に行動してるのが困ったが、今しかなかった。
何人か雇って襲撃すれば、隙をついて攫うことも出来るだろうと思ってたしな。
そんで今、こうしてお前を攫ってここにいるって訳だ。
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