咲かない桜

4章

Part 257 『無意識な挑発』

　呪いを解くとすぐにリューは「じゃあ、僕は帰るよ。また、何かあったら連絡しておくれ」と言ってどこからともなく箒を取り出した。

　「それから、呪いを扱うなら注意した方がいいよ。世界の法則を捻じ曲げる技術が危険じゃない訳がないんだからね。」

　そう言い放つと箒に座り浮遊する。リドもリューの箒に飛び乗り、スポーツカーの様な速度で立ち去ってしまった。

　あの速度で移動すると風圧がとんでもない事になりそうだが、そこは、魔法具のなせる技というところだろうか。

　「日向さん。これで最初に会った時の約束を果たせますね。」

　リューが立ち去るとサクヤは、自分の桜の木に軽く手を触れながらしみじみと呟いた。

　「桜の花を見せてくれるって言ってたっけ。」

　出会った時のプレゼンとも思えないアピールを思い出して俺は思い出し笑いを浮かべる。あの頃は、こんなに大事になるとは夢にも思っていなかった。

　「はい。自分で言うのもなんですが、立派に咲くはずですよ。確信があります。日向さんが見たどんな桜よりも綺麗な花が咲きます。」

　ずっと、俺はその光景を見たかった。昔から咲かない大きな桜の木、この木が咲けばきっとどれだけ綺麗なのだろうと木を見るたびに思っていた。

　妖精である彼女自身のお墨付きである。これが綺麗でないはずがない。

　「それは、楽しみだな。」

　「はい！　花より団子なんて言わせません。」

　「花より団子はどっちかっていうとサクヤが言うんじゃないのか？」

　「そ、そんな事は・・・・・・ないですよ？」

　「いや、そこはせめてちゃんと否定してくれ・・・・・・」

　どんだけ欲望に忠実なんだこの子は・・・・・・。

　これは、さぞ、真冬さんの所でも甘やかされているに違いない。彼女の胃は文字通りブラックホールなので、食費が大変なことになっているのではないだろうか。

　「な、なんでそんな目で見るんですか・・・・・・？」

　俺の冷ややかな目を見て、サクヤは怯んだような表情を浮かべる。

　「いや、もしかして毎日、五合ぐらい食べてるんじゃないかなって思って」

　「大食いみたいに言わないでください。五合も食べてません。ご飯は四合です！」

　「四合のご飯を食べるやつを大食いじゃないとは口が裂けても言えねぇわ。ていうか、ご飯『は』って事は、おかずも食ってんだったら絶対量的には五合以上の量を食べてるだろ。お前」

　「 ち、違います。気付いたら口の中に料理が入ってたんです。」

　「うわぁ、太った人が言うセリフだ。」

　まあ、この妖精、基本的に全て食べ物は魔力に変換されるので実質カロリーゼロである。

　「でも、私のせいじゃないですよ。私、太らないので！　って真冬さんに言ったら日に日に量が増えて・・・・・・」

　「それは、あれだぞ。逆鱗に触れてるんだぞ。多分・・・・・・」

　真冬さんも意地になってなんとしても太らそうとしているのかもしれない。

　「まあ、ご飯が食べれて嬉しいんですけど・・・・・・」

　「そう言うところだぞ・・・・・・」