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4章
Part 298『参観日』
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次の日から呪術に関する技術指導が始まった。
しかし、やっている事に関して、ほとんど違いはなかった。こっそりとやっていた作業が指導に回っただけだからだ。
唯一、違いがあるとするなら、作業する俺達を一人の妖精が覗き込んでいることだった。
サクヤは、心配そうに何も言わず部屋の隅でこちらの様子を伺っていた。
その姿を妖怪の類を見ることの出来る篝さんは「授業参観か。」と少し呆れた様に呟いた。
なぜこんな事になったのか、話は、昨日の夜にサクヤの元を訪れた事から始まった。
自分の作品を認めてもらい呪術を教えてもらえることになったと報告すると自分のことの様に喜んでくれた。
その話の流れでつい口が滑って「危うく破門されるところだった。」と呟いてしまったのだ。
そして、結果的に話の流れで呪術の危険性に関してサクヤが知ることになり、このような事態になったのだ。
サクヤ自身も呪いの話を聞いて凄まじい葛藤があったようで、呪術を覚えることをお願いした手前、俺の作業を止めることは出来ない。しかし、心配で夜も眠れない。と言った様子であった。
実際、その心配はありがたいのだが、これは、俺が望んで行なっていることだ。
だから、とりあえず、しっかりとしたところを見せて安心してもらおうと思ったのだ。
しかし、篝さんの指導は、思いの外厳しく良いところを見せるなどとはいかなかった。
今回の作業は、小さな石に呪術のための彫刻を彫っていく作業である。しかも、小さな石を指輪状に整えてから彫り込むという作業であり、本番の作業を見越しての作業である。
清浄石の数はある程度あるが、いきなり本番をする訳にはいかない。
篝さん曰く、清浄石は普通の石より脆く、加工には不向きな石らしい。
なので、清浄石自体に性質を弱める呪術をかけることにより、強度を高めるという呪術を行う必要がある。
呪術が完成するまでは脆い石なので、作業中に崩れてしまう可能性があり、それを防ぐために強度の強い部分を先に作り、脆く崩れやすい部分を後で彫刻する手法が用いられている。
口では簡単に言ってしまえることなのだが、実際にするとなると意外と難しい。
脆い部分がどこか一見すると分かりにくいのだ。そのため、違う部分を掘ると篝さんに怒られる。
「そこは後でやるって言ってんだろ。」
「やり直しだ! もう一回!」というような声が飛んでくる。
その度にサクヤは青い顔をして、こちらに駆け寄って「大丈夫ですか!? 日向さん。体から触手が生えたりしてませんか!?」と声をかけてくる。
今は彫刻の段階なので、呪術に辿り着いていない。なので失敗しても大丈夫だと説明するが、やはり心配な様だった。
しかし、あまりに何度も慌てた様子で駆け寄ってくるので、怒りが頂点に達した篝さんが、サクヤの首根っこを掴んで「うるせぇ、キネはなんともねぇ。ちょっと、お前外で出てろ。」と家の外へと締め出してしまった。
「キネって誰ですか!? 開けてください! 開けてください! 峰さん!」
家の扉をドンドンと叩くサクヤに篝さんは声を荒げて叫んだ。
「うるせぇ! いい加減黙らねぇか! キネは無事だって言ってんだろうが! 立ち入り禁止にするぞ!」
「だから、キネって誰なんですか!?」
サクヤも叫ぶように篝さんに問いかけるが、しかし、追い出されては困るとやっと静かになった。
呆れた様なため息を吐いて「美人だが、賑やかだな。キネの女は」と呟いた。
「あの、僕の名前は、峰です。」
賑やかなのには、同意するしかなかった。
しかし、やっている事に関して、ほとんど違いはなかった。こっそりとやっていた作業が指導に回っただけだからだ。
唯一、違いがあるとするなら、作業する俺達を一人の妖精が覗き込んでいることだった。
サクヤは、心配そうに何も言わず部屋の隅でこちらの様子を伺っていた。
その姿を妖怪の類を見ることの出来る篝さんは「授業参観か。」と少し呆れた様に呟いた。
なぜこんな事になったのか、話は、昨日の夜にサクヤの元を訪れた事から始まった。
自分の作品を認めてもらい呪術を教えてもらえることになったと報告すると自分のことの様に喜んでくれた。
その話の流れでつい口が滑って「危うく破門されるところだった。」と呟いてしまったのだ。
そして、結果的に話の流れで呪術の危険性に関してサクヤが知ることになり、このような事態になったのだ。
サクヤ自身も呪いの話を聞いて凄まじい葛藤があったようで、呪術を覚えることをお願いした手前、俺の作業を止めることは出来ない。しかし、心配で夜も眠れない。と言った様子であった。
実際、その心配はありがたいのだが、これは、俺が望んで行なっていることだ。
だから、とりあえず、しっかりとしたところを見せて安心してもらおうと思ったのだ。
しかし、篝さんの指導は、思いの外厳しく良いところを見せるなどとはいかなかった。
今回の作業は、小さな石に呪術のための彫刻を彫っていく作業である。しかも、小さな石を指輪状に整えてから彫り込むという作業であり、本番の作業を見越しての作業である。
清浄石の数はある程度あるが、いきなり本番をする訳にはいかない。
篝さん曰く、清浄石は普通の石より脆く、加工には不向きな石らしい。
なので、清浄石自体に性質を弱める呪術をかけることにより、強度を高めるという呪術を行う必要がある。
呪術が完成するまでは脆い石なので、作業中に崩れてしまう可能性があり、それを防ぐために強度の強い部分を先に作り、脆く崩れやすい部分を後で彫刻する手法が用いられている。
口では簡単に言ってしまえることなのだが、実際にするとなると意外と難しい。
脆い部分がどこか一見すると分かりにくいのだ。そのため、違う部分を掘ると篝さんに怒られる。
「そこは後でやるって言ってんだろ。」
「やり直しだ! もう一回!」というような声が飛んでくる。
その度にサクヤは青い顔をして、こちらに駆け寄って「大丈夫ですか!? 日向さん。体から触手が生えたりしてませんか!?」と声をかけてくる。
今は彫刻の段階なので、呪術に辿り着いていない。なので失敗しても大丈夫だと説明するが、やはり心配な様だった。
しかし、あまりに何度も慌てた様子で駆け寄ってくるので、怒りが頂点に達した篝さんが、サクヤの首根っこを掴んで「うるせぇ、キネはなんともねぇ。ちょっと、お前外で出てろ。」と家の外へと締め出してしまった。
「キネって誰ですか!? 開けてください! 開けてください! 峰さん!」
家の扉をドンドンと叩くサクヤに篝さんは声を荒げて叫んだ。
「うるせぇ! いい加減黙らねぇか! キネは無事だって言ってんだろうが! 立ち入り禁止にするぞ!」
「だから、キネって誰なんですか!?」
サクヤも叫ぶように篝さんに問いかけるが、しかし、追い出されては困るとやっと静かになった。
呆れた様なため息を吐いて「美人だが、賑やかだな。キネの女は」と呟いた。
「あの、僕の名前は、峰です。」
賑やかなのには、同意するしかなかった。
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