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4章
Part 305『その作品は未来の自分をも超える』
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清浄石を削り始めた手は、機械のような正確さで自分のイメージ通りに動いていく。
驚くほどの没頭性を見せながらも頭の中では、サクヤの事ばかりだ。
喜んでくれるだろうか。サクヤに着けやすいだろうか。彼女の毒になったりしないだろうか。
そう思えば思うほどに作業は細やかになっていく。一つ掘りすすめると自分の中でより良くする方法がどんどんと湧き出してくる。
サクヤと一緒にいたい。だけど彼女の願いを叶えてもあげたい。これはエゴだ。俺のわがままだ。
けれど譲ることは出来ない想いだ。
サクヤに俺との思い出を忘れて欲しくない。この一年では終わらせたくない。
もっと色んなことをするんだ。サクヤの行きたいところに連れて行って、もっと掛け替えのない思い出を作るんだ。
そのために努力をしてきた。何度も何度も失敗して、自分が天才ではないことを実感した。それでも、この指輪だけは、他の誰かに作らせたくなかった。
サクヤのことが好きだ。
彫れば彫るほどにその気持ちが溢れてくる。感情が装飾を通して溢れているようだと。言葉だけじゃ俺が生きれる時間だけじゃ伝えきれないこの想いが、少しでも多くサクヤに届くように。
今の自分の実力は、今後の人生を含めても五本の指に入ると確信できる。
プロ野球選手が明らかに歳をとって熟達するよりも以前の一打が最高だったと語るように。
体の調子、気分、運、閃き、その全てが最高の瞬間がある。
無名の画家が1作品だけ誰もが目を惹く名作を生み出すような。奇跡と称する他にない最高の状態が今の俺には訪れていた。
清浄石がどうすれば崩れるのか完全に把握できている。そして、自分の体がイメージと寸分違わぬ動きをしている。
その全能感は言葉では言い表せない。
ようやく、ここまで来た。努力が確実な実体を持って完成する。
桜の花の装飾は、自分でも驚くほど細やかで、自分がこれを作っているとは信じられないほどだ。
呪術を刻む動きにも迷いはない。まるでパズルを完成させるように少しずつ文字へと変えていく。
そして、作品は完成した。細かな桜の細工は色など付いていないはずなのに、桜の美しい薄く品のある薄桃色が見えるようだ。
自分でも満足のある百点以上の出来が俺の目の前にはあった。
そして、それを篝さんに見せるとその出来の良さに驚いた表情を浮かべた。
自分でも心底驚いているのだ。他の人が見ればさぞや異質に写っていることだろう。
篝さんは、俺の作った指輪をじっくりと見て俺にこう言った。
「全然ダメだな。」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
思わずそんな言葉出てしまうのは、どうしようもなかった。
驚くほどの没頭性を見せながらも頭の中では、サクヤの事ばかりだ。
喜んでくれるだろうか。サクヤに着けやすいだろうか。彼女の毒になったりしないだろうか。
そう思えば思うほどに作業は細やかになっていく。一つ掘りすすめると自分の中でより良くする方法がどんどんと湧き出してくる。
サクヤと一緒にいたい。だけど彼女の願いを叶えてもあげたい。これはエゴだ。俺のわがままだ。
けれど譲ることは出来ない想いだ。
サクヤに俺との思い出を忘れて欲しくない。この一年では終わらせたくない。
もっと色んなことをするんだ。サクヤの行きたいところに連れて行って、もっと掛け替えのない思い出を作るんだ。
そのために努力をしてきた。何度も何度も失敗して、自分が天才ではないことを実感した。それでも、この指輪だけは、他の誰かに作らせたくなかった。
サクヤのことが好きだ。
彫れば彫るほどにその気持ちが溢れてくる。感情が装飾を通して溢れているようだと。言葉だけじゃ俺が生きれる時間だけじゃ伝えきれないこの想いが、少しでも多くサクヤに届くように。
今の自分の実力は、今後の人生を含めても五本の指に入ると確信できる。
プロ野球選手が明らかに歳をとって熟達するよりも以前の一打が最高だったと語るように。
体の調子、気分、運、閃き、その全てが最高の瞬間がある。
無名の画家が1作品だけ誰もが目を惹く名作を生み出すような。奇跡と称する他にない最高の状態が今の俺には訪れていた。
清浄石がどうすれば崩れるのか完全に把握できている。そして、自分の体がイメージと寸分違わぬ動きをしている。
その全能感は言葉では言い表せない。
ようやく、ここまで来た。努力が確実な実体を持って完成する。
桜の花の装飾は、自分でも驚くほど細やかで、自分がこれを作っているとは信じられないほどだ。
呪術を刻む動きにも迷いはない。まるでパズルを完成させるように少しずつ文字へと変えていく。
そして、作品は完成した。細かな桜の細工は色など付いていないはずなのに、桜の美しい薄く品のある薄桃色が見えるようだ。
自分でも満足のある百点以上の出来が俺の目の前にはあった。
そして、それを篝さんに見せるとその出来の良さに驚いた表情を浮かべた。
自分でも心底驚いているのだ。他の人が見ればさぞや異質に写っていることだろう。
篝さんは、俺の作った指輪をじっくりと見て俺にこう言った。
「全然ダメだな。」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
思わずそんな言葉出てしまうのは、どうしようもなかった。
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