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4章
Part 307『人ならざるもの』
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次の日こそ完成させようと俺は篝さんの家を訪れた。
篝さんは変わらず作品を作っては壊してを繰り返している。俺の目から見れば、間違いなく真似出来ないほどに良い出来なのだが、どうやら篝さんとしては満足いくものではないらしい。
呪術によって、常人離れした集中力を獲得した篝さんでも何度も失敗し続けるような作品。
気にならないと言えば嘘になる。しかし、それ以上に俺がするべきことをしなければいけない。
俺は、篝さんから少し離れた場所に座り上着を脱いで清浄石を手に取る。
凍えそうな寒さに身を震わせる。しかし、上着を着て作業をするには服が重たく動かしずらい。
今日こそは、完成させるぞ。そ思った矢先だった。
音が聞こえた。金属を擦り合わせたような不快な甲高い音。それは生き物の絶叫の様だった。
「・・・・・・山の奥からか?」
聞こえてくる音の方向を見る。山の奥。あの滝のあった方向だった。
俺には、山から聞こえてくる音に聞き覚えがあった。
天罰によって存在を歪められた女。篝さんの奥さんだ。
しかし、彼女はまともに動く事の出来ない体なはずだ。アンバランスな左右非対称な体の肉の塊だ。
声も家にまで聞こえたことなんてない。俺は篝さんに声をかけた。しかし、いつもの集中状態で全く耳に届いている気配はない。呪術を行なっているので下手に止める訳にもいかない。
様子を見に行くために俺は、家を飛び出し、全力で音の聞こえる滝の方向へ走った。
本気で走ればあまり時間はかからないはずだ。
サクヤと出会った当初の自分とは比べ物にならないほど筋肉が付いてきている。日頃から筋トレをしている成果が如実に体に現れているのだ。
ある程度、筋肉が付くようになってくると面白くなってきて、ネットなどで情報を集めて効率的に筋トレをするようになっていた。
元来、運動が嫌いだった訳ではなかった。それに呪術の勉強をし終わり、気分転換を兼ねて体を動かすようにしている。
走ってサクヤのいる山道に行くことだって楽に出来るようになっているのだから、滝に向かって走るぐらいは問題がない。
森の奥から耳障りな金属音が聞こえてくる。その音に向かって走って行く。
そして、見つけた。赤黒い肉の塊がそこにはいた。アンバランスでまともに動くことのできなかったはずのそれは見た時と形を変えていた。
初めて見た時、それは確かに人の形を保っていた。不恰好で異形で、おおよそ人間とは呼べないデザインでもそこには確かに元は人間だったという確信があった。
それは一見すれば肥大化した多足類の蟲のような形状をしていた。虫のように外骨格に覆われている訳ではない。肉が無理矢理に虫のような変態を遂げたとしか表現しようがなかった。
無数にある肉の腕は、地面を這うようにして気持ち悪いほど滑らかに動いている。
顔のような部分には、いくつもの瞼のない目が集合しており、大きな瞳の様に見える。 それらは不規則に辺りをギョロギョロと見渡していた。
頭から伸びた二本の触覚の先端には二つの口が付いており、通りかかる草木や石に噛みみちぎって咀嚼している。
人間らしい要素など探す方が難しい。早くこの場を離れなければ・・・・・・そう思って化け物から距離をとろうと後ろに一歩身を引いたその時だ。
化け物の持つ一つの目が俺と視線があった。その瞬間、全ての瞳が俺の方を見た。
まずい。そう思った瞬間に俺はその場から逃走した。
篝さんは変わらず作品を作っては壊してを繰り返している。俺の目から見れば、間違いなく真似出来ないほどに良い出来なのだが、どうやら篝さんとしては満足いくものではないらしい。
呪術によって、常人離れした集中力を獲得した篝さんでも何度も失敗し続けるような作品。
気にならないと言えば嘘になる。しかし、それ以上に俺がするべきことをしなければいけない。
俺は、篝さんから少し離れた場所に座り上着を脱いで清浄石を手に取る。
凍えそうな寒さに身を震わせる。しかし、上着を着て作業をするには服が重たく動かしずらい。
今日こそは、完成させるぞ。そ思った矢先だった。
音が聞こえた。金属を擦り合わせたような不快な甲高い音。それは生き物の絶叫の様だった。
「・・・・・・山の奥からか?」
聞こえてくる音の方向を見る。山の奥。あの滝のあった方向だった。
俺には、山から聞こえてくる音に聞き覚えがあった。
天罰によって存在を歪められた女。篝さんの奥さんだ。
しかし、彼女はまともに動く事の出来ない体なはずだ。アンバランスな左右非対称な体の肉の塊だ。
声も家にまで聞こえたことなんてない。俺は篝さんに声をかけた。しかし、いつもの集中状態で全く耳に届いている気配はない。呪術を行なっているので下手に止める訳にもいかない。
様子を見に行くために俺は、家を飛び出し、全力で音の聞こえる滝の方向へ走った。
本気で走ればあまり時間はかからないはずだ。
サクヤと出会った当初の自分とは比べ物にならないほど筋肉が付いてきている。日頃から筋トレをしている成果が如実に体に現れているのだ。
ある程度、筋肉が付くようになってくると面白くなってきて、ネットなどで情報を集めて効率的に筋トレをするようになっていた。
元来、運動が嫌いだった訳ではなかった。それに呪術の勉強をし終わり、気分転換を兼ねて体を動かすようにしている。
走ってサクヤのいる山道に行くことだって楽に出来るようになっているのだから、滝に向かって走るぐらいは問題がない。
森の奥から耳障りな金属音が聞こえてくる。その音に向かって走って行く。
そして、見つけた。赤黒い肉の塊がそこにはいた。アンバランスでまともに動くことのできなかったはずのそれは見た時と形を変えていた。
初めて見た時、それは確かに人の形を保っていた。不恰好で異形で、おおよそ人間とは呼べないデザインでもそこには確かに元は人間だったという確信があった。
それは一見すれば肥大化した多足類の蟲のような形状をしていた。虫のように外骨格に覆われている訳ではない。肉が無理矢理に虫のような変態を遂げたとしか表現しようがなかった。
無数にある肉の腕は、地面を這うようにして気持ち悪いほど滑らかに動いている。
顔のような部分には、いくつもの瞼のない目が集合しており、大きな瞳の様に見える。 それらは不規則に辺りをギョロギョロと見渡していた。
頭から伸びた二本の触覚の先端には二つの口が付いており、通りかかる草木や石に噛みみちぎって咀嚼している。
人間らしい要素など探す方が難しい。早くこの場を離れなければ・・・・・・そう思って化け物から距離をとろうと後ろに一歩身を引いたその時だ。
化け物の持つ一つの目が俺と視線があった。その瞬間、全ての瞳が俺の方を見た。
まずい。そう思った瞬間に俺はその場から逃走した。
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