咲かない桜

御伽 白

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4章

Part 336『今日一日は貰う。』

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 凛とユキに連絡を取り山に集合してもらった。出会い頭に二人は姿の変わったサクヤの姿に驚いていた。

 「・・・・・・綺麗」とユキは漏れだす様に呟いていた。

 「私にも見える。」と凛は驚いていたが、今のサクヤは凛に妖怪や妖精の姿を見せる程度のこと出来て当然なのである。

 「凛さん、ユキさん。来てくださってありがとうございます。実はーーーー」

 サクヤは二人に事情を説明する。咲くことが出来たこと。記憶が消えてしまうことなどもである。

 二人はそれに対して驚いた表情を浮かべた。

 ユキは暗い表情を浮かべていたが、凛は精霊の性質を知っていたので寂しそうではあったがしっかりと受け入れていた。

 「忘れちゃうんですか?」

 寂しげにユキはサクヤに問いかける。ユキはまだ中学生で気持ちをしっかりとコントロール出来なくても仕方ない。

 その姿に胸が痛くなる。けれど、どうしようもないことだ。

 「すみません。」

 「・・・・・・ユキ。来年は必ず俺がサクヤの記憶を残してみせるから」

 「・・・・・・でも・・・・・・」

 口から漏れ出る言葉を飲み込む様にユキは頷いた。しかし、その言葉の続きが分かる気がした。

 来年のサクヤさんは、今のサクヤさんじゃないんですよね。

 経験や知識は良くも悪くも人の性格を変える。

 だからこそ、記憶を失ったサクヤが今のサクヤと全く同じである可能性の方が低い。

 もしかすると、春に出会った妖精の様に無邪気な子供の様かもしれない。

 サクヤは、長い時間を生きている。他の妖精よりも大人びた態度も年月がそうさせた可能性が高い。

 記憶を失って出会うサクヤは本当に俺達の知るサクヤなのか。その問題をユキが中々受け入れることが出来ないのは仕方ないことだ。

 それでも言葉を飲み込んだのはユキの優しさだ。言葉にすれば、サクヤや俺達が傷付くだろうと考えたのだ。

 「本当は忘れたくなんてありません。けど、これは精霊として生まれた自分の宿命です。むしろ、今までこうやって記憶を貯めてこられたこと自体が奇跡みたいなものなんです。どうか悲しまないでください。そして、出来ることなら最後の最後まで楽しい思い出を作らせてくれませんか?」

 サクヤはユキの頭をそっと撫でた。ユキはその言葉に涙を流しながらそれでも頷いた。

 「遊びに行こう。今日一日は貰う。それは絶対」

 凛は有無を言わせぬ口調でそう言った。

 凛も悲しくないわけじゃない。けれど、凛はその覚悟をしていた。精霊の性質を知っていたからこそ、悲しみにくれることはなく受け入れた。
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