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25.子どもは無邪気で素直
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「再会を祝して!」
無事お仕事を終えた大叔父様の言葉に合わせ、グラスを掲げる。オスカル様はじめ、父母も白ワインですが、私は葡萄のジュースに変更されていた。見た目が同じ色なので、説明されなかったら飲まなかったわ。
気遣ってもらったのが嬉しくて、お酒も飲んでないのに頬が緩む。お料理は大皿料理だった。取り分けは侍女に頼むのがマナーだ。少し離れた場所で、子育て経験のある年配の侍女がナサニエルをあやしていた。
移動出来る小型のベビーベッドは、この帝国では一般的なのだとか。少なくともモンテシーノス王国で見たことはなかった。手のひらに乗る小さな木製のタイヤが付いたベビーベッド。縁に手を掛けて揺するだけで、あやせるのは便利だった。
「お母様、あのベッドを購入しましょう」
「あら、あれはナサニエルのために用意した物だから、馬車に積んで持って行くわよ」
「え? そうなのですか」
オスカル様の隣に用意された専用の椅子に座る小さな女の子が、にこにことベッドを指差した。
「あれ、私のと同じなのよ」
「そうだね、リリアナ。先に口の中のパンを飲み込んで」
オスカル様は姪のリリアナに小さく注意する。慌てて両手で口を押さえて、もぐもぐと咀嚼する姿は愛らしかった。うちの子もあと3年したら同じように大きくなるのね。初めての子で、赤子だから。まだ実感が湧かなかった。
「食べたわ、お父様」
「いい子だ」
リリアナの銀髪を撫でるオスカル様は、優しい顔で頷いた。愛情豊かに育てる彼の姿は、父親として理想的だわ。ふと、元夫の暴言が浮かぶ。打ち消すように首を横に振った。二度と思い出したくない。
「どうしました?」
「いえ、何でもありません。リリアナ嬢、さっきのお話の続きを教えてもらえる?」
促すと、彼女は笑顔になった。同じ木材で同じ匂いがすること、横の飾り格子のデザインが少し違うこと。あのベッドはとても寝心地が良いこと、幼い子どもは自分が知る表現を駆使して説明していく。時折言葉に詰まるが、オスカル様が救いの一言を投げると、また話し始めた。
「ありがとう、とてもよく分かったわ」
微笑んだ私に、彼女は思わぬことを言い出した。
「もしかして、新しいお母様なの?」
歓談しながら食事を楽しむ大人が、ぴたりと止まった。大叔父様は「それもいいな」と呟く。お父様とお母様は目配せし合い、恐る恐る私の様子を窺った。私はといえば、真っ赤な顔を両手で覆ったオスカル様を凝視していた。その隣のリリアナ嬢は足をぶらぶらと揺らし、私とオスカル様を交互に見る。
「いつお母様になるの?」
子どもは無邪気で素直、それは知ってるけど……私とオスカル様って、そう見えるのかしら。ぎぎぎと音がしそうな動きで、離れたベビーベッドに視線を逸らした。やだ……今の私、顔が赤いかも。
無事お仕事を終えた大叔父様の言葉に合わせ、グラスを掲げる。オスカル様はじめ、父母も白ワインですが、私は葡萄のジュースに変更されていた。見た目が同じ色なので、説明されなかったら飲まなかったわ。
気遣ってもらったのが嬉しくて、お酒も飲んでないのに頬が緩む。お料理は大皿料理だった。取り分けは侍女に頼むのがマナーだ。少し離れた場所で、子育て経験のある年配の侍女がナサニエルをあやしていた。
移動出来る小型のベビーベッドは、この帝国では一般的なのだとか。少なくともモンテシーノス王国で見たことはなかった。手のひらに乗る小さな木製のタイヤが付いたベビーベッド。縁に手を掛けて揺するだけで、あやせるのは便利だった。
「お母様、あのベッドを購入しましょう」
「あら、あれはナサニエルのために用意した物だから、馬車に積んで持って行くわよ」
「え? そうなのですか」
オスカル様の隣に用意された専用の椅子に座る小さな女の子が、にこにことベッドを指差した。
「あれ、私のと同じなのよ」
「そうだね、リリアナ。先に口の中のパンを飲み込んで」
オスカル様は姪のリリアナに小さく注意する。慌てて両手で口を押さえて、もぐもぐと咀嚼する姿は愛らしかった。うちの子もあと3年したら同じように大きくなるのね。初めての子で、赤子だから。まだ実感が湧かなかった。
「食べたわ、お父様」
「いい子だ」
リリアナの銀髪を撫でるオスカル様は、優しい顔で頷いた。愛情豊かに育てる彼の姿は、父親として理想的だわ。ふと、元夫の暴言が浮かぶ。打ち消すように首を横に振った。二度と思い出したくない。
「どうしました?」
「いえ、何でもありません。リリアナ嬢、さっきのお話の続きを教えてもらえる?」
促すと、彼女は笑顔になった。同じ木材で同じ匂いがすること、横の飾り格子のデザインが少し違うこと。あのベッドはとても寝心地が良いこと、幼い子どもは自分が知る表現を駆使して説明していく。時折言葉に詰まるが、オスカル様が救いの一言を投げると、また話し始めた。
「ありがとう、とてもよく分かったわ」
微笑んだ私に、彼女は思わぬことを言い出した。
「もしかして、新しいお母様なの?」
歓談しながら食事を楽しむ大人が、ぴたりと止まった。大叔父様は「それもいいな」と呟く。お父様とお母様は目配せし合い、恐る恐る私の様子を窺った。私はといえば、真っ赤な顔を両手で覆ったオスカル様を凝視していた。その隣のリリアナ嬢は足をぶらぶらと揺らし、私とオスカル様を交互に見る。
「いつお母様になるの?」
子どもは無邪気で素直、それは知ってるけど……私とオスカル様って、そう見えるのかしら。ぎぎぎと音がしそうな動きで、離れたベビーベッドに視線を逸らした。やだ……今の私、顔が赤いかも。
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