45 / 91
45.策略の匂いに古代竜は唸る
思いついたのは二つだった。猟師はなぜ公爵家に通報しなかったか。不審者を追いかけたとしても、地元の猟師が撒かれるのも変よね。だって、猟師にとって庭も同然の通い慣れた林なのに。その二つを告げると、ギータ様は「惜しい」と笑った。まだあるの?
「通報しなかったのは証拠の品がなく、不審者を逃がしてしまったから……と考えることも出来る。だが、裏の林に詳しい猟師が、どうして埋めた場所を見つけられなかった?」
指摘されて、なるほどと納得した。猟師は普段から裏の林に入れる人物で、屋敷という目印があるのだから場所を忘れるのはおかしいわ。戻ってきて、不審者がいた場所の周辺を掘ればいいんだもの。それに一度掘り起こされた場所は分かりやすいはず。
「付け加えるなら、噂の発生時期に作為を感じる」
「もっと早く噂にならなければおかしい、って意味ですよね」
「我が花嫁は賢いな」
くしゃりと髪を乱して撫でるのが好きなギータ様に合わせ、自然と髪を流すことが増えた。ハーフアップ程度で、出来るだけきっちり結わない。撫でられるのが心地いいのもあるし、ギータ様が触れてくれる機会を楽しみにしてるのもあるわ。
にぃ……子猫ペキが膝に上り、私の膝で伸びをした。何かに熱中していると、猫は邪魔するって聞いたけど。本当にそうね。抱っこしたいときは嫌がるくせに。ふふっと笑って、柔らかな毛を撫でた。
「毛皮が好きなのか?」
「え? そういうわけでは」
口の中でぶつぶつと「毛を生やしたら、俺も撫でられる」と奇妙なことを言い出したので、ペキを椅子の上に下ろした。精一杯手を伸ばして、ギータ様の銀髪に触れる。優しく撫でたら、金の瞳が瞬いた。すごく綺麗な色の組み合わせだわ。
「ギータ陛下はこのままで。毛がぼさぼさのドラゴンって、変ですよ」
想像した頭の中で、長毛猫のようなゴジラが浮かんだ。うん、そんなのカッコ悪いわ。私の想像した姿を読んだのか、身震いしたギータ様は「やめよう」と口にした。単純な疑問で、毛って生やせるんですね。一部の人に羨ましがられる能力かも。茶トラのペキは短毛種なので、絨毯に似た手触りだった。
「なんたら公爵の件は、神殿に調べさせよう」
ナンタラって……ランヘルでも大差ないですから、ちゃんと覚えてください。たぶん馬鹿にしてるだけだと思うけど。
「魔女の噂は許せんな」
セサル達も否定してくれるので、すぐ収めるのでは? そう尋ねたら、ギータ様は首を横に振って否定した。
「いや、故意に広めた噂だ。消えかけたらまた流すだろう。せっかく神に祀り上げられたのだ。神らしく否定してやろう」
王家の崩壊待ちは、ギータ様の退屈の虫を起こしてしまったようですね。ランヘル公爵家の冥福を祈りましょう。
「お前もいい性格をしている。簡単に滅ぼすほど優しくないので、祈りはまだ早いぞ」
大声をあげて笑うギータ様に驚いたのか、ペキが唸り声を上げてベッドの下に逃げ込む。こんな騒ぎの中、まだ眠ってるアデライダが凄いわ。
「通報しなかったのは証拠の品がなく、不審者を逃がしてしまったから……と考えることも出来る。だが、裏の林に詳しい猟師が、どうして埋めた場所を見つけられなかった?」
指摘されて、なるほどと納得した。猟師は普段から裏の林に入れる人物で、屋敷という目印があるのだから場所を忘れるのはおかしいわ。戻ってきて、不審者がいた場所の周辺を掘ればいいんだもの。それに一度掘り起こされた場所は分かりやすいはず。
「付け加えるなら、噂の発生時期に作為を感じる」
「もっと早く噂にならなければおかしい、って意味ですよね」
「我が花嫁は賢いな」
くしゃりと髪を乱して撫でるのが好きなギータ様に合わせ、自然と髪を流すことが増えた。ハーフアップ程度で、出来るだけきっちり結わない。撫でられるのが心地いいのもあるし、ギータ様が触れてくれる機会を楽しみにしてるのもあるわ。
にぃ……子猫ペキが膝に上り、私の膝で伸びをした。何かに熱中していると、猫は邪魔するって聞いたけど。本当にそうね。抱っこしたいときは嫌がるくせに。ふふっと笑って、柔らかな毛を撫でた。
「毛皮が好きなのか?」
「え? そういうわけでは」
口の中でぶつぶつと「毛を生やしたら、俺も撫でられる」と奇妙なことを言い出したので、ペキを椅子の上に下ろした。精一杯手を伸ばして、ギータ様の銀髪に触れる。優しく撫でたら、金の瞳が瞬いた。すごく綺麗な色の組み合わせだわ。
「ギータ陛下はこのままで。毛がぼさぼさのドラゴンって、変ですよ」
想像した頭の中で、長毛猫のようなゴジラが浮かんだ。うん、そんなのカッコ悪いわ。私の想像した姿を読んだのか、身震いしたギータ様は「やめよう」と口にした。単純な疑問で、毛って生やせるんですね。一部の人に羨ましがられる能力かも。茶トラのペキは短毛種なので、絨毯に似た手触りだった。
「なんたら公爵の件は、神殿に調べさせよう」
ナンタラって……ランヘルでも大差ないですから、ちゃんと覚えてください。たぶん馬鹿にしてるだけだと思うけど。
「魔女の噂は許せんな」
セサル達も否定してくれるので、すぐ収めるのでは? そう尋ねたら、ギータ様は首を横に振って否定した。
「いや、故意に広めた噂だ。消えかけたらまた流すだろう。せっかく神に祀り上げられたのだ。神らしく否定してやろう」
王家の崩壊待ちは、ギータ様の退屈の虫を起こしてしまったようですね。ランヘル公爵家の冥福を祈りましょう。
「お前もいい性格をしている。簡単に滅ぼすほど優しくないので、祈りはまだ早いぞ」
大声をあげて笑うギータ様に驚いたのか、ペキが唸り声を上げてベッドの下に逃げ込む。こんな騒ぎの中、まだ眠ってるアデライダが凄いわ。
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
【完結】無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。