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47.おっと、爪と尻尾が引っかかった
神殿側は決断を迫られた形ね。ギータ・リ・アシス以外の宗教を勧誘したランヘル公爵家を、背教者として糾弾するか。放置してドラゴンに蹂躙させるか。どちらにしても神殿の威信に関わる大事だった。
別の神を祀る神殿を許すことはできず、ランヘル公爵家に対し「ギータ・リ・アシスからの破門」を通達する。その余波は大きかった。領地を接する伯爵や侯爵は、移民の受け入れを拒否する。理由は背信、背教の徒が流入して潜伏する危険の排除だった。
移民の受け入れ先を失い、逃げられない民の怒りと憎しみは公爵家へ向かう。それを煽るように、ギータ様はランヘル公爵領の上を舞った。ドラゴンの影がちらつくたび、民は怯え、公爵への怒りを滾らせる。
「ギータ様、お散歩だって仰ったじゃないですか」
「ドラゴンの場合は、飛ぶのも散歩に含まれる」
しれっと言い返されてしまった。ランヘル公爵領は、王都を挟んだ反対側なのよ。散歩で足を伸ばす距離じゃなかった。地上を馬車で移動したら、3日はかかる。それをふらっとひとっ飛びで、午後の余暇を利用する形で訪れるなんて。
「贅沢よね」
神と祀られる古代竜の背に乗って、国を横断する。最高の贅沢じゃないかしら。ドラゴン姿になるとペキが怖がるので、面倒を見るアデライダも置いてきた。子猫でも本能は一人前なのね。
「お前なら、何度でも乗せてやる」
「ありがとうございます」
首の付け根あたりに座った私は、手が届く範囲の鱗を撫でた。喉を鳴らしてご機嫌のギータ様が、公爵家のお屋敷を低空飛行で通り過ぎる。
「おっと、爪が引っかかった」
悪気はなかったんだぞ、ただ引っかかったんだ。そんな言い訳をしながら、お屋敷の屋根を壊すのはおやめください。最後に尻尾でも追加の攻撃を加えたでしょう。心で抗議すると、ギータ様は高度を取った。大きなお屋敷が、爪の先くらいになる。
「散歩で偶然通っただけなのに、矢を射掛ける連中だ。驚いて足を付いた先が、屋根だっただけ。バランスを取ろうとした尻尾がぶつかっただけだ」
「そういうことにして差し上げます」
何を言っても、結局はしたいようにする。ギータ様の性格はだいぶ理解できてきた。無理に直すより、こちらが慣れる方が早い。神と崇められるほど長生きの古代竜と、ただの人である私の常識が同じわけないんだから。
「その割り切りの良さは、フランカの長所だな。一度目の人生が活かされたようだ」
「うーん、どちらかといえば二度目の方です。我慢することが多かったですから」
雑談を交わしながら、屋敷近くの空き地へ着地する。きちんと尻尾を体に沿わせ、大きな体を丸めて器用に降り立った。ここは先日まで神殿があったのだけれど、ギータ様の着陸用地として接収された。まあ、神官達は喜んで進呈したんだけどね。
「やれば出来るんですね」
王宮の塔も、ランヘル公爵家の屋敷も、わざと壊したのが確定です。王家の庭より狭い場所に、何も壊さず降りられるんですから。
「ふむ。ランヘルとやらの屋敷もいい具合に穴が空いたであろう。雨を恵んでやるとしようか」
まだ追い討ちをかけるのですか? 平然としているように見えましたが、意外と執念深いようです。ギータ様は「長寿の生き物は執着が激しいのだ」と笑いました。執着対象って、私……ですよね。
別の神を祀る神殿を許すことはできず、ランヘル公爵家に対し「ギータ・リ・アシスからの破門」を通達する。その余波は大きかった。領地を接する伯爵や侯爵は、移民の受け入れを拒否する。理由は背信、背教の徒が流入して潜伏する危険の排除だった。
移民の受け入れ先を失い、逃げられない民の怒りと憎しみは公爵家へ向かう。それを煽るように、ギータ様はランヘル公爵領の上を舞った。ドラゴンの影がちらつくたび、民は怯え、公爵への怒りを滾らせる。
「ギータ様、お散歩だって仰ったじゃないですか」
「ドラゴンの場合は、飛ぶのも散歩に含まれる」
しれっと言い返されてしまった。ランヘル公爵領は、王都を挟んだ反対側なのよ。散歩で足を伸ばす距離じゃなかった。地上を馬車で移動したら、3日はかかる。それをふらっとひとっ飛びで、午後の余暇を利用する形で訪れるなんて。
「贅沢よね」
神と祀られる古代竜の背に乗って、国を横断する。最高の贅沢じゃないかしら。ドラゴン姿になるとペキが怖がるので、面倒を見るアデライダも置いてきた。子猫でも本能は一人前なのね。
「お前なら、何度でも乗せてやる」
「ありがとうございます」
首の付け根あたりに座った私は、手が届く範囲の鱗を撫でた。喉を鳴らしてご機嫌のギータ様が、公爵家のお屋敷を低空飛行で通り過ぎる。
「おっと、爪が引っかかった」
悪気はなかったんだぞ、ただ引っかかったんだ。そんな言い訳をしながら、お屋敷の屋根を壊すのはおやめください。最後に尻尾でも追加の攻撃を加えたでしょう。心で抗議すると、ギータ様は高度を取った。大きなお屋敷が、爪の先くらいになる。
「散歩で偶然通っただけなのに、矢を射掛ける連中だ。驚いて足を付いた先が、屋根だっただけ。バランスを取ろうとした尻尾がぶつかっただけだ」
「そういうことにして差し上げます」
何を言っても、結局はしたいようにする。ギータ様の性格はだいぶ理解できてきた。無理に直すより、こちらが慣れる方が早い。神と崇められるほど長生きの古代竜と、ただの人である私の常識が同じわけないんだから。
「その割り切りの良さは、フランカの長所だな。一度目の人生が活かされたようだ」
「うーん、どちらかといえば二度目の方です。我慢することが多かったですから」
雑談を交わしながら、屋敷近くの空き地へ着地する。きちんと尻尾を体に沿わせ、大きな体を丸めて器用に降り立った。ここは先日まで神殿があったのだけれど、ギータ様の着陸用地として接収された。まあ、神官達は喜んで進呈したんだけどね。
「やれば出来るんですね」
王宮の塔も、ランヘル公爵家の屋敷も、わざと壊したのが確定です。王家の庭より狭い場所に、何も壊さず降りられるんですから。
「ふむ。ランヘルとやらの屋敷もいい具合に穴が空いたであろう。雨を恵んでやるとしようか」
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