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92.過酷すぎる運命――SIDE竜女王
カイやヒスイには、事実を伏せることにした。日常的に口にする食べ物へ恐怖心を抱けば、それは命に関わる。安全なはずの屋敷内で毒殺されかけたなど、知らぬ方がよかった。
アベルが回収したお茶の残りから、致死性の毒が発見される。効力は強いが、胃からの吸収がゆっくりなのが幸いした。すぐに吐かせて水も飲ませたので、痛みや苦しみはなかったようだ。
対策を練る間、ヒスイを同室としてカイの側にいてもらう。具合が悪くなったり、カイが不安定になれば知らせるよう頼んだ。しっかり者なので問題ないだろう。
ボリスは警備の担当者を連れ、屋敷に出入りした者のリストを洗い出す。食べ物や水の管理も確認させた。
「私を狙ったものか?」
「……番様を直接狙ったと思われます」
アベルはほぼ断言に近い言い方をした。その理由は思わぬ報告を伴い、私に届けられる。
「カイが?」
あの愛らしい幼子が、世界を滅ぼすと――?! それは魔族から始まり、獣人や竜族にも広がる噂だった。いや、ある程度確証がある分だけ、噂よりタチが悪い。
「あの子の咎ではないのに」
なぜ世界はあの子に、ここまでの痛みや苦しみを背負わせるのか。
「分かっています。我々のように、番様を知っている者は理解しますが」
アベルも悔しそうに呟く。直接の接点がない者は、噂に翻弄されてしまう。人族の母と魔族の父の間に生まれた。その話を突き詰めて調べた結果、誰も予想しなかった事実が判明したのだ。
カイの母はただの人族であったが、父親が問題だった。かつて世界を滅ぼしかけた魔王その人。圧倒的で強大な力を誇り、誰より残酷に振る舞った。世界の人口を半分に減らした大虐殺の犯人――。その息子は、世界にどれだけ怖れられるか。
「魔族ではラーシュが抑えに回っています。獣人も有力者の数人が噂の打ち消しに積極的ですね」
カイを知る者は噂を否定する側に回る。だが……知らない者が大半だ。番を大切に守り、世間から隔離したことが悪い効果を齎した。ドラゴンとして当然の本能に従った私は、後悔出来ない複雑な思いに唇を噛む。
「竜族に関しては、私が説明する。招集をかけろ」
少なくとも、同族を敵に回す可能性は消しておきたい。私の意を汲んで、アベルはすぐに手配に動いた。
見送った私の目は、薄暗い空を睨む。過酷な運命を背負って生まれた番、誰より幸せになって欲しいのに……その行手は暗雲立ち込める。その暗闇を少しでも取り除いてやりたかった。
最強と言われる竜女王を、あの純粋で愛らしいカイが番に選んだ。それすら運命であるなら……天はあの子を見捨てていない。救いの手を残したのだから。
自分に言い聞かせて、それでも心は沈んだ。ガラスに写った己が無理やり笑顔を作る。これから一緒に食事をする約束だった。あの子に暗い顔を見せるわけにいかない。大きく深呼吸して気持ちを切り替えた。
アベルが回収したお茶の残りから、致死性の毒が発見される。効力は強いが、胃からの吸収がゆっくりなのが幸いした。すぐに吐かせて水も飲ませたので、痛みや苦しみはなかったようだ。
対策を練る間、ヒスイを同室としてカイの側にいてもらう。具合が悪くなったり、カイが不安定になれば知らせるよう頼んだ。しっかり者なので問題ないだろう。
ボリスは警備の担当者を連れ、屋敷に出入りした者のリストを洗い出す。食べ物や水の管理も確認させた。
「私を狙ったものか?」
「……番様を直接狙ったと思われます」
アベルはほぼ断言に近い言い方をした。その理由は思わぬ報告を伴い、私に届けられる。
「カイが?」
あの愛らしい幼子が、世界を滅ぼすと――?! それは魔族から始まり、獣人や竜族にも広がる噂だった。いや、ある程度確証がある分だけ、噂よりタチが悪い。
「あの子の咎ではないのに」
なぜ世界はあの子に、ここまでの痛みや苦しみを背負わせるのか。
「分かっています。我々のように、番様を知っている者は理解しますが」
アベルも悔しそうに呟く。直接の接点がない者は、噂に翻弄されてしまう。人族の母と魔族の父の間に生まれた。その話を突き詰めて調べた結果、誰も予想しなかった事実が判明したのだ。
カイの母はただの人族であったが、父親が問題だった。かつて世界を滅ぼしかけた魔王その人。圧倒的で強大な力を誇り、誰より残酷に振る舞った。世界の人口を半分に減らした大虐殺の犯人――。その息子は、世界にどれだけ怖れられるか。
「魔族ではラーシュが抑えに回っています。獣人も有力者の数人が噂の打ち消しに積極的ですね」
カイを知る者は噂を否定する側に回る。だが……知らない者が大半だ。番を大切に守り、世間から隔離したことが悪い効果を齎した。ドラゴンとして当然の本能に従った私は、後悔出来ない複雑な思いに唇を噛む。
「竜族に関しては、私が説明する。招集をかけろ」
少なくとも、同族を敵に回す可能性は消しておきたい。私の意を汲んで、アベルはすぐに手配に動いた。
見送った私の目は、薄暗い空を睨む。過酷な運命を背負って生まれた番、誰より幸せになって欲しいのに……その行手は暗雲立ち込める。その暗闇を少しでも取り除いてやりたかった。
最強と言われる竜女王を、あの純粋で愛らしいカイが番に選んだ。それすら運命であるなら……天はあの子を見捨てていない。救いの手を残したのだから。
自分に言い聞かせて、それでも心は沈んだ。ガラスに写った己が無理やり笑顔を作る。これから一緒に食事をする約束だった。あの子に暗い顔を見せるわけにいかない。大きく深呼吸して気持ちを切り替えた。
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