101 / 153
100.平気だから泣かないで
アスティが淹れるお茶は、甘い匂いがする。でも味は甘くない。飲んで眠ると夢を見なくて、すっきりと起きられた。夢でアスティと争うこともないし、僕が誰かを傷つけたりしない。
「おはよう、アスティ」
「ふふっ、早起きね。おはよう、カイ」
朝の挨拶をしてキスをする。顔を拭いたり着替えたりして、今日も僕はお部屋で過ごすの。朝ご飯を食べた後はヒスイが来る。お昼ご飯とお昼寝の間に、アスティとお庭を散歩する約束だった。
――それは都合がいい。
変な声が聞こえて振り返る。でも誰もいない。今の、誰だろう。首を傾げて、ヒスイと遊ぶ絵本や積み木を引っ張り出した。本も積み木も箱に入ってるんだ。簡単に横が開くの。
大好きなドラゴンの絵本を掴んだ時、右手のひらがズキンと痛んだ。何か刺さったのかな。本を置いて手を開くと、真っ赤な星が真ん中にあった。左手で撫でても血じゃないみたい。血が出ない傷? 赤いのは血が出た色なのに。
不思議に思いながら傷を口に運んだ。ぺろっと舐めたら治るかも。いつもの癖で舌を出した。ぺろんと舐めて、味がしないことに首を傾げる。血は変な鉄の味がするのに……やっぱり血じゃないのかな。
「うっ」
どくんと心臓が大きく動いた。苦しい、声が出ないよ。どうしよう……アスティ、アスティ。怖い、助けて。涙が溢れて顔を濡らす。転がって胸を押さえ、僕はそのまま動かずにいた。
「……あす、てぃ?」
声が出た。大急ぎでアスティの名前を呼んだ。僕を助けてくれる大切で優しくて大好きな人。痛くて目を閉じて、大きめの声を出す。
「アスティ、助けて。痛い、苦しいの」
首に下げた鱗を掴んで叫ぶ。すぐに足音が聞こえて、アスティが僕を抱き上げた。この腕はアスティだ。分かるけど……どうして暗いんだろう。さっき苦しくて目を閉じたから?
「カイ、大丈夫?」
「苦しかったの……胸が痛くて、それで声がね……出なくて……っ、ひっく」
泣いてないで説明しないといけないのに、全部話す前に涙が溢れて呼吸がおかしくなる。さっきの苦しいのとは違って、でも勝手に「ひっく」となった。抱き締めてぽんぽんと背中を叩くアスティの手が気持ち良くて、目を閉じる。そこで思い出した。
「っく……あの、目が」
「目が痛いのかしら」
「違う、暗くて見えない。真っ暗だよ」
ひっくと揺れる合間に説明すると、すぐにアベルが駆け込んできた。焦った声でまた走っていく。忙しいみたい。しばらくしたら、引き摺る足音がした。
「お医者さんよ、目を開けてみて」
言われた通りに目を開けるけど、何も見えない。暗いのは嫌いだけど、アスティの手がずっと僕の手を掴んでいた。だから我慢する。ひんやりした手が僕の頬に触れて、おじいちゃん先生の声が聞こえた。
「触れますぞ、眩しかったら教えてくだされ」
頷くけど、何も変わらない。少ししたら目薬をすると言って、何かを垂らした。でも見えない。いろいろ試した後、おじいちゃん先生は立ち上がった。小さな声で、アベルを呼んで部屋を出ていく。
足音が聞こえなくなると、アスティが僕を引き寄せた。胸に耳を当てる状態で抱っこされる。ぽんぽんと背中をゆっくり叩くアスティの手、耳から聞こえてくる心臓の音。触れたアスティの鱗は少し冷たくて、肌は温かかった。
「必ず見えるようになるから、心配しなくていいのよ」
「うん」
アスティは僕に嘘をつかないから、信じてる。僕は大丈夫だから、そんな泣きそうな声を出さないで。
「おはよう、アスティ」
「ふふっ、早起きね。おはよう、カイ」
朝の挨拶をしてキスをする。顔を拭いたり着替えたりして、今日も僕はお部屋で過ごすの。朝ご飯を食べた後はヒスイが来る。お昼ご飯とお昼寝の間に、アスティとお庭を散歩する約束だった。
――それは都合がいい。
変な声が聞こえて振り返る。でも誰もいない。今の、誰だろう。首を傾げて、ヒスイと遊ぶ絵本や積み木を引っ張り出した。本も積み木も箱に入ってるんだ。簡単に横が開くの。
大好きなドラゴンの絵本を掴んだ時、右手のひらがズキンと痛んだ。何か刺さったのかな。本を置いて手を開くと、真っ赤な星が真ん中にあった。左手で撫でても血じゃないみたい。血が出ない傷? 赤いのは血が出た色なのに。
不思議に思いながら傷を口に運んだ。ぺろっと舐めたら治るかも。いつもの癖で舌を出した。ぺろんと舐めて、味がしないことに首を傾げる。血は変な鉄の味がするのに……やっぱり血じゃないのかな。
「うっ」
どくんと心臓が大きく動いた。苦しい、声が出ないよ。どうしよう……アスティ、アスティ。怖い、助けて。涙が溢れて顔を濡らす。転がって胸を押さえ、僕はそのまま動かずにいた。
「……あす、てぃ?」
声が出た。大急ぎでアスティの名前を呼んだ。僕を助けてくれる大切で優しくて大好きな人。痛くて目を閉じて、大きめの声を出す。
「アスティ、助けて。痛い、苦しいの」
首に下げた鱗を掴んで叫ぶ。すぐに足音が聞こえて、アスティが僕を抱き上げた。この腕はアスティだ。分かるけど……どうして暗いんだろう。さっき苦しくて目を閉じたから?
「カイ、大丈夫?」
「苦しかったの……胸が痛くて、それで声がね……出なくて……っ、ひっく」
泣いてないで説明しないといけないのに、全部話す前に涙が溢れて呼吸がおかしくなる。さっきの苦しいのとは違って、でも勝手に「ひっく」となった。抱き締めてぽんぽんと背中を叩くアスティの手が気持ち良くて、目を閉じる。そこで思い出した。
「っく……あの、目が」
「目が痛いのかしら」
「違う、暗くて見えない。真っ暗だよ」
ひっくと揺れる合間に説明すると、すぐにアベルが駆け込んできた。焦った声でまた走っていく。忙しいみたい。しばらくしたら、引き摺る足音がした。
「お医者さんよ、目を開けてみて」
言われた通りに目を開けるけど、何も見えない。暗いのは嫌いだけど、アスティの手がずっと僕の手を掴んでいた。だから我慢する。ひんやりした手が僕の頬に触れて、おじいちゃん先生の声が聞こえた。
「触れますぞ、眩しかったら教えてくだされ」
頷くけど、何も変わらない。少ししたら目薬をすると言って、何かを垂らした。でも見えない。いろいろ試した後、おじいちゃん先生は立ち上がった。小さな声で、アベルを呼んで部屋を出ていく。
足音が聞こえなくなると、アスティが僕を引き寄せた。胸に耳を当てる状態で抱っこされる。ぽんぽんと背中をゆっくり叩くアスティの手、耳から聞こえてくる心臓の音。触れたアスティの鱗は少し冷たくて、肌は温かかった。
「必ず見えるようになるから、心配しなくていいのよ」
「うん」
アスティは僕に嘘をつかないから、信じてる。僕は大丈夫だから、そんな泣きそうな声を出さないで。
あなたにおすすめの小説
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。