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外伝
外伝2.願いは遠く……届くまで(最終話)
身籠ったことを報告した途端、シエルの顔が曇った。どうして? 子どもは要らないの? だったら、どうして私を抱いたの。頭にさまざまな言葉が浮かぶも、何も口に出来なかった。
だって、私は何も知らない。シエルの本当の名前も、どこの出身か、どんな家族と暮らしていたのか。種族さえ……隠されてきた。ただ一緒にいたくて、少しでも愛されたくて尋ねることなく。
「おめでとう、ルイース」
祝福の言葉なのに、声は震えていた。泣きそうな彼は感動しているのだわ。そう自分に言い聞かせ、綻びに気づかないフリをする。愛している、愛してるのよ……シエル。あなたを失いたくない。
数日後、シエルは消えてしまった。跡形もなく、街を出た痕跡もない。不思議なことに、近所の人も彼の顔を覚えていないの。何度も話をしたのに、彼をハンサムな旦那さんだと言って揶揄ったくせに?
人の記憶から消えたシエルは、私の中にしかいない。膨らんだお腹を撫でる。大丈夫、あの人はきっと戻ってくるわ。この子が生まれたら、私のところへ帰ってくるはず。
願い続けて、屋敷を維持するために金貨を使い果たした。この家を離れてしまったら、シエルが帰ってきた時に困る。でも彼は現れず、屋敷は人手に渡った。追い出された私は、乳飲み子を抱えて働くことも出来ず……気づけば、最下層の暮らしに落ちていた。
あっという間に病に体を蝕まれ、幼い我が子が必死に働く。僅かなパンを得るために、可愛い息子は小さな手で野菜を剥いた。皿を洗い、傷だらけになっても笑う。
「ごめ……なさい」
情けない母で、あなたを苦労させる私でごめんなさい。謝る声は細く、枯れた枝のような手でカイの頬を撫でる。シエルを待てない私を許して……カイ、あなたのお父さんは魔族よ。だから私という重石がなくなったら、同族に保護して貰えばいいわ。
願うだけで、何も掴めなかった。薄れて行く意識の中、ようやく望んだあの人と再会する。亡くなった父母の手前で、私に手を差し伸べたシエル。そうなの? そうだったのね。私を捨てたのではなく、あなたは帰れなかった。尽きた命は、私が身籠ったから。
残したあの子が心配で振り返る。もう何も見えないけれど、シエルに促されて死を受け入れた。
「あの子はちゃんと愛されるよ」
死んでからの方が感情豊かなシエルが、そう言い切った。未来を知っているように、確信を持った言葉に頷く。もう何もしてあげられない母にできることは、我が子の未来を信じることだけ。
きちんと言ったことがなかったわね。こんなに早く別れるなら、もっと抱き締めればよかった。いつも傷だらけで、それでも笑ったあの子の笑顔を思い出し、精一杯の笑顔で言い切った。
「愛してるわ、カイ。幸せになって」
誰でもいい。あの子を幸せにしてください。不甲斐ない私の代わりに抱き締めて、あの子の涙を止めて。いつかカイを心から愛してくれる人が現れることを祈って、私は夫の手を握り返した。
母の願いは……最強の竜女王によって拾われる。
「間違いないわ、やっと見つけた」
抱き締める温かな腕の中で、カイはようやく安心することを覚えた。
終
***********************
完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。最後は切ない感じですが、お母さんとお父さんのお話です。シグルドによって操られ自我を奪われかけたシエルは、己の意志で妻を愛した。愛の結晶であるカイが幸せになる未来を願ったことは事実。無責任な両親に見えるかもしれませんが、これも愛の形です。
また別の作品でお会いできれば幸いです(o´-ω-)o)ペコッ
だって、私は何も知らない。シエルの本当の名前も、どこの出身か、どんな家族と暮らしていたのか。種族さえ……隠されてきた。ただ一緒にいたくて、少しでも愛されたくて尋ねることなく。
「おめでとう、ルイース」
祝福の言葉なのに、声は震えていた。泣きそうな彼は感動しているのだわ。そう自分に言い聞かせ、綻びに気づかないフリをする。愛している、愛してるのよ……シエル。あなたを失いたくない。
数日後、シエルは消えてしまった。跡形もなく、街を出た痕跡もない。不思議なことに、近所の人も彼の顔を覚えていないの。何度も話をしたのに、彼をハンサムな旦那さんだと言って揶揄ったくせに?
人の記憶から消えたシエルは、私の中にしかいない。膨らんだお腹を撫でる。大丈夫、あの人はきっと戻ってくるわ。この子が生まれたら、私のところへ帰ってくるはず。
願い続けて、屋敷を維持するために金貨を使い果たした。この家を離れてしまったら、シエルが帰ってきた時に困る。でも彼は現れず、屋敷は人手に渡った。追い出された私は、乳飲み子を抱えて働くことも出来ず……気づけば、最下層の暮らしに落ちていた。
あっという間に病に体を蝕まれ、幼い我が子が必死に働く。僅かなパンを得るために、可愛い息子は小さな手で野菜を剥いた。皿を洗い、傷だらけになっても笑う。
「ごめ……なさい」
情けない母で、あなたを苦労させる私でごめんなさい。謝る声は細く、枯れた枝のような手でカイの頬を撫でる。シエルを待てない私を許して……カイ、あなたのお父さんは魔族よ。だから私という重石がなくなったら、同族に保護して貰えばいいわ。
願うだけで、何も掴めなかった。薄れて行く意識の中、ようやく望んだあの人と再会する。亡くなった父母の手前で、私に手を差し伸べたシエル。そうなの? そうだったのね。私を捨てたのではなく、あなたは帰れなかった。尽きた命は、私が身籠ったから。
残したあの子が心配で振り返る。もう何も見えないけれど、シエルに促されて死を受け入れた。
「あの子はちゃんと愛されるよ」
死んでからの方が感情豊かなシエルが、そう言い切った。未来を知っているように、確信を持った言葉に頷く。もう何もしてあげられない母にできることは、我が子の未来を信じることだけ。
きちんと言ったことがなかったわね。こんなに早く別れるなら、もっと抱き締めればよかった。いつも傷だらけで、それでも笑ったあの子の笑顔を思い出し、精一杯の笑顔で言い切った。
「愛してるわ、カイ。幸せになって」
誰でもいい。あの子を幸せにしてください。不甲斐ない私の代わりに抱き締めて、あの子の涙を止めて。いつかカイを心から愛してくれる人が現れることを祈って、私は夫の手を握り返した。
母の願いは……最強の竜女王によって拾われる。
「間違いないわ、やっと見つけた」
抱き締める温かな腕の中で、カイはようやく安心することを覚えた。
終
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完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。最後は切ない感じですが、お母さんとお父さんのお話です。シグルドによって操られ自我を奪われかけたシエルは、己の意志で妻を愛した。愛の結晶であるカイが幸せになる未来を願ったことは事実。無責任な両親に見えるかもしれませんが、これも愛の形です。
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