【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

第159話 最強とは誰を示す言葉か

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 世間では妻が夫の浮気を責めたり、狭量だとぼやいたりするのがブームらしい。流行りの小説を読みながら、アゼリアは隣の魔王を見上げる。彼はいま、側近に押し付けられた大量の書類を黙々と片付けていた。

 あれこれと自分勝手な振る舞いを見逃してきたメフィストも、昨日の露天風呂事件は許せなかったようだ。それも当然だろうと思う。あの時のイヴリースの行動は、何も見ていないメフィストにしたら酷いの一言に尽きた。いきなり魔力の網で地面に叩きつけられた挙句、剣で攻撃されたのだ。

 止めるのが間に合って本当によかった。ほっとしたのも束の間、湯から上がったイヴリースはこってり絞られた。薄着だったけど衣を纏っていたのだから、別に見られても問題なかったのに。そう呟いた昨夜は、アゼリアが説教された。

 魔王曰く「張り付いた薄衣からちらりと覗くそなたの肌は、それはそれは美しく妖しく男を誘う。万が一にもメフィストが発情したらどうする! そなたは余の妻になるのだ。その美しさは余のためにだけあればいい」

 監禁されそう。そんな感想を抱いたので、素直に頷いて反論しなかった。もし閉じ込められたりしたら……この本を使いましょう。メフィストに貰った魔法陣が並ぶ本を、小説と一緒に持ち歩きながらアゼリアは魔王の隣に座る。

 閉じ込められるのは嫌だけど、魔王イヴリースのことは愛している。一緒にいたいと思う。相反するようで、両立する思いを叶えるには……閉じ込められたら、ゴエティアの悪魔の力で逃げる。だけどイヴリースの腕に戻るという案だった。

 彼が閉じ込めることを諦めるまで、何度も逃げればいい。その為にも魔法陣の本は常に持ち歩くことにした。肌身離さず、常に手の届く距離に置くのがいい。

「アゼリア、その本は面白いのか?」

 夢中になって小説を読んでいると思ったようで、イヴリースが手を止める。署名した書類より、未処理の量がまだ多かった。

 これはメフィストの怒りの深さかしら。早朝から取り掛かったのに、終わりが見えないって逆にすごいわ。

「そうね、まあまあ興味深いわ」

 途中で読む手を止めて考え事をしていたので、曖昧に返事をする。夫の浮気を咎め、周囲の協力を得てやっつける話……どこにでもある痛快な物語だ。想像上の話だが、興味深いのは確かだった。

「浮気を許さぬ妻の話か」

「ええ、私も許さないわ。剣を持って追いかけ回すでしょうね」

 くすくす笑いながら、イヴリースに全体重をかけて寄りかかる。筋肉が重いからと遠慮したら、常に抱っこして移動するような人だ。遠慮は逆効果だった。

 嬉しそうな顔でアゼリアを受け止めるイヴリースは、ペンを置いて赤い巻き毛を指先に絡める。

「浮気など……無理だ。そなた以上に余の心を支配し惑わす者などおらぬ」

 まだ続きそうだった口説き文句に、メフィストの声が重なった。

「陛下、口説くのは構いませんが、手は止めないでください」

「わかっている」

 黙って頷けばいいのに、反射的にイヴリースは言い返した。手を動かしながら、数枚の書類をはねる。その姿に満足そうに頷く宰相メフィスト――なんだかんだ、いいコンビ。

 背中をイヴリースにくっつけて寄りかったアゼリアは、浮気の制裁小説を再び読み始めた。これを読み終わる頃に書類の処理が終わりますように。午後は一緒にお茶を楽しみたいわ。そんなアゼリアの気持ちを察したのか、メフィストが溜め息をついた。

「ここまで処理したら、今日は終りで構いません」

 ほら、やっぱりメフィストはイヴリースに甘いわ。にっこり笑うアゼリアを見ながら、メフィストは女性の無言の圧力の恐ろしさをひしひしと感じ取っていた。
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