わたくしは何も存じません

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
89 / 96
本編

89.『前回』を知る者の条件は

しおりを挟む
 家令アードルフは、使用人達から聞き取りを行った。『前回』を覚えている者、まったく記憶していない者、人伝ひとづてに聞いた者。何を覚えているか、誰から聞いたか。そういった情報を集めて、分類していく。

「……あのときの?」

 自分自身は『前回』の記憶はあるが、王都の手前までだ。王都の使用人の中には、なんとか救い出そうと駆けつけた者もいた。手が出せずに目の前で失ったと涙を零していた。覚えていない者はほとんどが領地の使用人だ。

 思い出したタイミングは全員同じで、あの日の神殿の鐘の音だった。いつもと同じ音で、一瞬にして『前回』の記憶が蘇る。あの瞬間の後悔や悲しみは深く、思い出すだけで苦しくなった。アードルフは書き出したリストの箇条書きをじっと見つめる。

 一枚目には記憶のある者、二枚目は覚えていない者、三枚目に人伝に話を聞いた者の名を並べた。さらに追加で、記憶の内容などを足している。覚えていない者に関しては、追加情報がないので机の上で遠ざけた。家令や執事が様々な執務を行う部屋は、今はアードルフ一人しかいない。

「眩しい、光……?」

 『前回』を覚えている者が口にした内容に、眩しい光を浴びた。その光の中から女神様の声がした。と記している。つらい記憶を辿ったアードルフは、その光に心当たりがあった。王都の手前、必死で向かう彼の上に注いだ眩しい光から、主である公爵一家の死を知る。

 もしかしたら……この光が記憶の有無を左右している? まるで啓示のように閃いた。距離や親しさに関係なく、この光を浴びたかどうかが基準なのでは? そこでまた壁に当たる。

 公王となったヨーゼフの話を思い出したのだ。殺された順番はヨーゼフ、ミヒャエラ、ラファエル、ガブリエルだったと聞く。ならば一番最後に亡くなったガブリエルは、光を浴びたはず。条件が違うのだろうか。

 亡くなった状況をご一家に聞くのは気が引ける。ガブリエルとラファエルは昨夜、悪夢に魘されたらしい。気づいたミヒャエラが使用人達に指示し、自然に目が覚めるまで起こさなかった。アードルフもこの話は耳にしていた。

 他に、殺されたご一家の状況を知っている者……処刑場へ向かい止めようとした使用人か。料理長だった男を思い浮かべたところで、アードルフはもう一人、まだ話を聞いていない人物を思い出した。

「アウグスト、さま……」

 分家のバーレ伯爵家を継いだ弟アウグストは、現場にいたが処刑されていなかったと。残酷な状況を聞いてもいいものか……年老いた家令は悩む。『前回』を思い出させることが正しいのか迷った。

 突然『前回』と『今回』に境目が出来た。その原因や理由を知らなければ……また同じ事態が起きるかもしれない。興味本位ならやめるが、知っているべきなのではないか。アードルフは覚悟を決めて顔を上げた。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をしておけば

あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

殿下、もう何もかも手遅れです

魚谷
恋愛
偉大なる国王が崩御した。 葬儀の場で、王太子アドルフォスは、父王が病床にいるのを良いことに国を思うがままにしようとする、婚約者である公爵令嬢ロザリンデと、その父である宰相を断罪しようと決意する。 全ては自分が次の王に相応しいことを、その場にいる全ての貴族たちに示すため。 アドルフォスは自分の勝利を信じて疑わなかった。 自分には、麗しい子爵令嬢で、数百年に一度生まれる聖女の力に覚醒したエレインという心強い味方がいるのだから。 勝利は揺るぎないはずだった……そう、アドルフォスの頭の中では。 これはひとつの国の終わりの物語。 ★他のサイトにも掲載しております ★13000字程度でサクッとお読み頂けます

婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた 貴族令嬢ミディア・バイエルン。 だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、 彼女は一方的に婚約を破棄される。 「戻る場所は、もうありませんわ」 そう告げて向かった先は、 王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。 権力も、評価も、比較もない土地で、 ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。 指示しない。 介入しない。 評価しない。 それでも、人は動き、街は回り、 日常は確かに続いていく。 一方、王都では―― 彼女を失った王太子と王政が、 少しずつ立ち行かなくなっていき……? 派手な復讐も、涙の和解もない。 あるのは、「戻らない」という選択と、 終わらせない日常だけ。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

処理中です...