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※流血表現があります。
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 2人が初めて出会ったのは――凄惨な現場だった。

 血が飛び散り、死体が転がる……嘘のような現実は今でも脳裏から消えない。散らばった機体の破片を払いのけたサリエルは、全身の痛みに顔を顰めた。

 生きていただけラッキーなのか。焦げた臭いとせるような息苦さに咳き込んで、腹部に走った激痛に体を丸める。

 何が起きたのかと考えるより早く、周囲に目をくれた。

 ああ、飛行機が落ちたのか……。

 一瞬で出た結論に、激痛が彩りを添える。いっそ死んでいれば、ここまで痛みを感じなかったのに……苦笑交じりに口元を歪めて息を吐いた。

 足首を挟まれて動けない。自力で脱出が不可能そうだと判断すると、出来るだけ楽な姿勢を作って横たわった。体力の消耗を防げれば、助けが来るまで持ち堪えられるだろう。

 まだ聞こえる呻きや啜り泣きに耳を塞ぎ、サリエルは目を閉じた。

「……た、……すけ……」

 掠れた声が鼓膜を刺激して、反射的にそちらを振り返る。動ければ、体ごと振り向いたのだろうが、生憎あいにくと痛みに遮られてよく確認できなかった。

「誰だ?」

 女達を虜にするテノールも、今は掠れて面影もない。話すと言う最低限の役割しかこなせない声に、小さな呻き声が聞こえた。

「……ル……?」

 斜め後ろの声は誰かの名を呼んだ。それが自分の名を呼ばれたようで、気になって体を動かす。足首が座席に挟まって動きづらいが、振り返るくらいは出来た。

「……マジ、かよ……」

 ファーストクラスに居たサリエルの後ろは、エコノミーやビジネスの座席が並んでいた筈だ。それなのに……ほとんど何もなかった。

 いや、その言葉には語弊があるだろう。様々な機体の破片が落ちていた。翼の欠片であったり、元は機体の胴体部分だったりする金属が転がる。そして、その合間に『人間だったと思われる欠片』がオブジェのように散らばっていたのだ。

 まだ動いている手もあれば、完全に千切れて転がる足や胴体もある。ぱくりと割れた頭の隣に、子供が座っていた。

 長い黒髪に縁取られた女性の頭部を抱き締めたまま、必死で助けを呼ぶ少年の姿に……サリエルは言葉を失った。首から下がない女性は、この少年の母親なのだろう。しゃくり上げて呼吸すら大変そうなのに、自分の袖で彼女の血を拭おうとしている。

 少年の健気な姿を見るうちに、なんとなく自分が恥ずかしくなった。サリエルの行動は、世間で言うなら『当然』で『普通』だろう。自分が助かる事を優先するから、誰かを助ける為に動かない。

 どうせ助けが来るのだから、それまで出来るだけ我が身を守ろうとするのが、生き残ろうと画策する本能だった。

 緊急事態で自分が助かる為に、他の人間からの救いを拒むことは罪にならないのだから。
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