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「だから、悪いって言っただろ」
それは最終宣告だった。 一瞬だけ顔を向けてくれたサリエルの紫藍の瞳は冷たくて、切り裂く氷の刃のように煌めく。恐怖にぞくりと肌が粟立った。
「……酷いわ……」
泣き出したラフィーネは、涙が最大の武器だと思っているのだろう。だが、それに心動かされる程の感情を、サリエルはラフィーネに対して抱いていなかった。
「気に入らなきゃ、他のホスト探せよ」
言い捨てて背を向ける。唇を噛んだ彼女の手がテーブルをさまよい、果物ナイフを掴んだ。直後に立ち上がったラフィーネが叫ぶ。
「あなたは、渡さないっ!!」
独占欲と嫉妬に駆られた彼女の動きを止めようとしたジンより早く、編んだ髪を振り乱したラフィーネが走る。突きだしたナイフの刃に、周囲が悲鳴を上げた。
「ったく、だから女は面倒くさい」
舌打ちしたサリエルの腕が、造作もなくラフィーネの細腕を捻り上げる。痛みに呻きながらも、嫉妬から怨嗟の言葉を吐き出す彼女を床に放り、手にしたナイフを近くの壁に突き刺した。
「……終わりだな……」
彼女との関係を完全に断ち切る言葉に、ラフィーネは髪を振り乱して床に倒れ伏す。泣き続ける女性を一瞥しただけで、サリエルはカウンターへタカヤを導いた。大人しく座るタカヤの黒髪にキスを落とすと、カウンター内で渋い顔をしているジャックを手招きする。
「なんだ?」
「今日の営業終わり、閉めちゃって!」
突然の営業時間終了宣言に、ジャックは思いっきり肩を落として溜め息をついた。騒ぎを止め損ねたジンも後ろで苦笑している。
「お客様へは私から説明します」
他のホストに合図をして、店内はざわめきに満ちた。今の刃傷沙汰を知らない客も、サリエルを待っていた客も不満そうに店を後にする。丁重に謝罪して客を全員送り出すと、ジン達ホストも帰らせた。
突然の状況を理解できず、きょとんとするタカヤの足元に膝をついたサリエルが、優しい色の眼差しを向ける。なんとなく、大切にされているのだと感じた。途端に、意地悪をして店に来た自分の行動を情けなく思う。
サリエルは「待っていて」と言ったのに……。
「何を気にしてるの?」
「……待てなかった」
ぽつりと声にして、それが悪い事のような気がしてくる。俯いたタカヤの顔を覗き込みながら、気を引く為にタカヤの手に唇を押し当てた。
「なんで」
俺を大切にしてくれるの?
途切れた先の言葉を、サリエルは勘違いした。店の営業を終わりにした理由を問うているのだと思い、タカヤの黒髪に指を絡める。慰めるように触れる指は優しい。
「ここはオレの店だよ。だから気にしなくていい」
見開いたタカヤの蒼い瞳に引き寄せられ、そっと接吻けた。
それは最終宣告だった。 一瞬だけ顔を向けてくれたサリエルの紫藍の瞳は冷たくて、切り裂く氷の刃のように煌めく。恐怖にぞくりと肌が粟立った。
「……酷いわ……」
泣き出したラフィーネは、涙が最大の武器だと思っているのだろう。だが、それに心動かされる程の感情を、サリエルはラフィーネに対して抱いていなかった。
「気に入らなきゃ、他のホスト探せよ」
言い捨てて背を向ける。唇を噛んだ彼女の手がテーブルをさまよい、果物ナイフを掴んだ。直後に立ち上がったラフィーネが叫ぶ。
「あなたは、渡さないっ!!」
独占欲と嫉妬に駆られた彼女の動きを止めようとしたジンより早く、編んだ髪を振り乱したラフィーネが走る。突きだしたナイフの刃に、周囲が悲鳴を上げた。
「ったく、だから女は面倒くさい」
舌打ちしたサリエルの腕が、造作もなくラフィーネの細腕を捻り上げる。痛みに呻きながらも、嫉妬から怨嗟の言葉を吐き出す彼女を床に放り、手にしたナイフを近くの壁に突き刺した。
「……終わりだな……」
彼女との関係を完全に断ち切る言葉に、ラフィーネは髪を振り乱して床に倒れ伏す。泣き続ける女性を一瞥しただけで、サリエルはカウンターへタカヤを導いた。大人しく座るタカヤの黒髪にキスを落とすと、カウンター内で渋い顔をしているジャックを手招きする。
「なんだ?」
「今日の営業終わり、閉めちゃって!」
突然の営業時間終了宣言に、ジャックは思いっきり肩を落として溜め息をついた。騒ぎを止め損ねたジンも後ろで苦笑している。
「お客様へは私から説明します」
他のホストに合図をして、店内はざわめきに満ちた。今の刃傷沙汰を知らない客も、サリエルを待っていた客も不満そうに店を後にする。丁重に謝罪して客を全員送り出すと、ジン達ホストも帰らせた。
突然の状況を理解できず、きょとんとするタカヤの足元に膝をついたサリエルが、優しい色の眼差しを向ける。なんとなく、大切にされているのだと感じた。途端に、意地悪をして店に来た自分の行動を情けなく思う。
サリエルは「待っていて」と言ったのに……。
「何を気にしてるの?」
「……待てなかった」
ぽつりと声にして、それが悪い事のような気がしてくる。俯いたタカヤの顔を覗き込みながら、気を引く為にタカヤの手に唇を押し当てた。
「なんで」
俺を大切にしてくれるの?
途切れた先の言葉を、サリエルは勘違いした。店の営業を終わりにした理由を問うているのだと思い、タカヤの黒髪に指を絡める。慰めるように触れる指は優しい。
「ここはオレの店だよ。だから気にしなくていい」
見開いたタカヤの蒼い瞳に引き寄せられ、そっと接吻けた。
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