25 / 33
25
しおりを挟む
立派な庭園は、まるで宮殿の庭のようだった。様々な花が咲き乱れる庭園はゆるやかな丘を作り出し、その奥に大きな屋敷が建っている。白亜の宮殿――まるで公園のような広さの庭を歩きながら、タカヤは広大な敷地に感心していた。
「無駄だよなぁ」
呆れた口調で呟いて、サリエルは苦笑する。家の大きさも、敷地の広さも、資産や金に執着しないサリエルにとっては莫大な管理費がかかる無駄な存在だった。
「サリエルは、この家が嫌いなのか?」
広くて立派で、嫌う理由がわからない。きょとんと首を傾げたタカヤの手を握りながら、額に軽いキスを落とす。
「嫌いってほど、感情移入してないけど」
「けど?」
「タカヤが好きなら、こういう家を建てようか」
本気で言っているらしいサリエルの言葉に、どう反応していいか困る。別に広い必要もないし、管理が面倒そう……顔に表れた素直な感情に、くすくす笑い出したサリエルが髪を撫でた。
「ごめん、意地悪じゃないよ。ほら、やっと着く」
言葉通り、玄関へのアプローチが終わる。入り口でタカヤが歩きたいと言わなければ、ここまで車で来たのだろうけれど……。
「お待ちしておりました、サリエル様」
丁寧な挨拶で迎えてくれる執事に、鷹揚な態度で隣を擦り抜けるサリエル。握った手が促すままに中へ踏み込み、美しい外見を裏切らない屋敷の内装に感嘆する。
「兄さん、随分遅かったんですね」
「……兄って呼ぶな」
「わかりました。では、サリエルさんもタカヤさんも……どうぞこちらへ」
金髪の少年が笑顔で出迎えてくれた。サリエルを兄と呼ぶ時点で、この少年が弟なのだと理解したが……まったくと言っていい程似ていない。腹違いでも、父親は同じなのに。
家の主である少年が導いたのは、庭を一望できる2階のテラスだった。
「お茶は何がいいですか?」
「いらない」
「冷たいですね……」
残念そうに言われ、俯く姿は同情を誘う。しかしサリエルは慣れている分、そんな少年の態度にも絆されなかった。
「報告に来ただけだ。これからオレ、タカヤと暮らすから」
「……タカヤさん、男ですよね?」
「そうだけど、何?」
「いえ、別に」
兄弟の久しぶりの会話を、タカヤは小首を傾げて見ていた。サリエルが言っていた程、仲が悪いようには思えない。
「じゃ、挨拶はしたからな!」
念を押して、タカヤの腰を抱くと踵を返す。
「本当に帰っちゃうんですか?」
まだ15歳くらいの外見相応の幼さで、慌てて後ろを走ってくる。
「サリエル……」
くいっと袖を引いて呼び止めようとすれば、逆にお姫様抱っこで抱え上げられてしまった。
「いいの、タカヤは気にしない」
まだ5分も滞在していないのに、サリエルはさっさと家を出てしまう。庭の途中で置いてきた筈の愛車は、いつの間にやら玄関に横付けされていた。
「兄さん!」
「用があるなら、そっちから出向け」
助手席のタカヤへ柔らかな笑みを向けた少年に、吐き捨てたサリエルは車を発進させる。家族に紹介したというより、顔を見せただけの数分間に……普段は大人びているサリエルの意外な一面を見た気がして、タカヤは目を瞬かせた。
「無駄だよなぁ」
呆れた口調で呟いて、サリエルは苦笑する。家の大きさも、敷地の広さも、資産や金に執着しないサリエルにとっては莫大な管理費がかかる無駄な存在だった。
「サリエルは、この家が嫌いなのか?」
広くて立派で、嫌う理由がわからない。きょとんと首を傾げたタカヤの手を握りながら、額に軽いキスを落とす。
「嫌いってほど、感情移入してないけど」
「けど?」
「タカヤが好きなら、こういう家を建てようか」
本気で言っているらしいサリエルの言葉に、どう反応していいか困る。別に広い必要もないし、管理が面倒そう……顔に表れた素直な感情に、くすくす笑い出したサリエルが髪を撫でた。
「ごめん、意地悪じゃないよ。ほら、やっと着く」
言葉通り、玄関へのアプローチが終わる。入り口でタカヤが歩きたいと言わなければ、ここまで車で来たのだろうけれど……。
「お待ちしておりました、サリエル様」
丁寧な挨拶で迎えてくれる執事に、鷹揚な態度で隣を擦り抜けるサリエル。握った手が促すままに中へ踏み込み、美しい外見を裏切らない屋敷の内装に感嘆する。
「兄さん、随分遅かったんですね」
「……兄って呼ぶな」
「わかりました。では、サリエルさんもタカヤさんも……どうぞこちらへ」
金髪の少年が笑顔で出迎えてくれた。サリエルを兄と呼ぶ時点で、この少年が弟なのだと理解したが……まったくと言っていい程似ていない。腹違いでも、父親は同じなのに。
家の主である少年が導いたのは、庭を一望できる2階のテラスだった。
「お茶は何がいいですか?」
「いらない」
「冷たいですね……」
残念そうに言われ、俯く姿は同情を誘う。しかしサリエルは慣れている分、そんな少年の態度にも絆されなかった。
「報告に来ただけだ。これからオレ、タカヤと暮らすから」
「……タカヤさん、男ですよね?」
「そうだけど、何?」
「いえ、別に」
兄弟の久しぶりの会話を、タカヤは小首を傾げて見ていた。サリエルが言っていた程、仲が悪いようには思えない。
「じゃ、挨拶はしたからな!」
念を押して、タカヤの腰を抱くと踵を返す。
「本当に帰っちゃうんですか?」
まだ15歳くらいの外見相応の幼さで、慌てて後ろを走ってくる。
「サリエル……」
くいっと袖を引いて呼び止めようとすれば、逆にお姫様抱っこで抱え上げられてしまった。
「いいの、タカヤは気にしない」
まだ5分も滞在していないのに、サリエルはさっさと家を出てしまう。庭の途中で置いてきた筈の愛車は、いつの間にやら玄関に横付けされていた。
「兄さん!」
「用があるなら、そっちから出向け」
助手席のタカヤへ柔らかな笑みを向けた少年に、吐き捨てたサリエルは車を発進させる。家族に紹介したというより、顔を見せただけの数分間に……普段は大人びているサリエルの意外な一面を見た気がして、タカヤは目を瞬かせた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる