【完結】うたかたの夢

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!

文字の大きさ
29 / 33

29

しおりを挟む
「……それで?」

 氷点下の声で睨み付ける兄に、天使の名を持つ弟は笑顔を引き攣らせた。

「用があるなら来い、って兄さんが言ったんでしょう?」

「兄じゃない」

「いい加減認めてよ、僕達は『あの男』の息子なんだから……」

「それで、用は何だよ」

 むっとした表情でそっぽむく姿は、まるで子供のようだ。そんなサリエルに苦笑しながら、ミカエルは大人の顔で妥協してみせた。

 ソファの向かいでサリエルの三つ編みを掴んだまま、じっと兄の顔を見ているタカヤへ穏やかな笑みを向ける。視線に気づいたタカヤが振り返ると、静かに口を開いた。

「兄を頼みますね、この通り子供ですから」

「ミカエル?」

 名を呼んで遮るサリエルは、困惑しているようだった。家族として認めないと言いながら、それが甘えに過ぎないのだと、タカヤもサリエルも理解している。だから、今更素直になれないサリエルではなく、恋人であり新たな家族として認めたタカヤへ声を掛けたのだ。

「では、そろそろ失礼します。お店の迷惑でしょうから」

 にこにこと笑うミカエルは、知らない者が見ればホストの1人と勘違いされるだろう。愛らしい顔立ちも、穏やかで気品ある物腰も、彼の裏の顔を想像させる要素はなかった。

 それでも……彼は裏社会でトップクラスのVIPなのだ。マフィアを纏め上げる総領として、シュリアンス家に君臨する存在――。





 ミカエルと護衛がいなくなった店に、何も知らない客が集まり始める。それぞれに指名を受けて、カウンター付近に控えていたホスト達が動き出した。

 一番奥の席に陣取り、サリエルは溜め息を吐く。嫌いではないのだが、苦手な弟がいなくなったことで、ようやく肩から力を抜いた。そんなサリエルの仕草に笑って、タカヤが肩に頭を乗せて凭れ掛かる。

「結局ミカエルの奴、用なんてないじゃないか」

「俺を確かめに来たんだろう」

「確かる?」

「本気かどうか。心配だったのだと思う」

 そんな可愛い考え持ってるかねぇ……胡散臭そうに呟いたサリエルだが、くすくす笑うタカヤに渋面を解いた。合図をして、ジンに酒とつまみを用意させる。

「飲もうぜ」

 用意されたカクテルを手に取り、タカヤが軽くグラスを掲げる。軽く触れる乾で微笑を交わす。

 バタバタしていたので時間感覚がおかしくなっているが、考えてみればタカヤと再会して僅か3日だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...