4 / 112
03.手に入れたら絶対に逃がさない――SIDEレオ
しおりを挟む
気づいたら過去に戻っていた。あの悲惨な光景が嘘なら、夢だったらと強く願ったせいか? 結婚式当日の朝に戻れたことに、ひたすら感謝する。やり直せる。傷つけてしまった妻を今度こそ幸せに出来ると思った。
レオナルド・フォン・ウント・ツー・リヒテンシュタイン。この国で国王に次ぐリヒテンシュタイン公爵家の嫡男として生まれた俺は、何でも手に入れてきた。欲しいと望めば誰かが用意して差し出し、望まなくても様々な物や人が集まってくる。齢12にして人生は詰まらないものと悟った。
お世辞を使って阿る連中を適当にあしらいながら、人をチェスの駒に見立てて動かす。そのくらいしか楽しみを見いだせなかった俺の目を覚まさせたのが、ローザリンデ・フォン・アウエンミュラーだった。
出会ったのは15歳の頃か。フォンの称号は、貴族なら全員が使えるわけではない。限られた一部の家柄の者のみが使用を許された。そんな数少ない名家のひとつが、アウエンミュラー侯爵家だった。その家には複数の令息令嬢がいるが、長女以外はアウエンミュラーの血を引かぬ継子だ。
この社交界で「継子」と表現されるのは、家の血を引かぬ浮気の子や庶子を示す。つまり、アウエンミュラー侯爵家にいくら子どもがいても、長女以外に価値はなかった。一族の血を引く侯爵夫人が身罷った今、アウエンミュラーの本家筋はただ1人だ。
故に彼女の競争率は高かった。その価値を理解していないのか、逆に違う意味に捉えたのか。アウエンミュラー侯爵を名乗る元伯爵家次男は思い上がった行動に出た。実の娘であるローザリンデ・フォン・アウエンミュラーを、高位貴族に高く売りつけようと考えたのだ。
ティーパーティーが行われる王宮の庭園で、ローザリンデ嬢と出会った。アウエンミュラーの血筋を証明する真っ赤な髪が、まるで薔薇のようで。鮮やかな命の色に目を奪われた。病的に青白い肌、不自然なほどに肌を覆うスカーフに眉を寄せる。
貴族令嬢は白い肌を誇り、食事や血を抜くなどの行為を好むと聞くが……彼女もそうなのか? ふらりと倒れかけたローザリンデ嬢は軽く、驚いて抱き上げた。このまま空に溶けて消えてしまうかと心配になる。スカーフがズレて覗いた肌には、小さな傷が複数見受けられた。
なるほど、傷を隠すスカーフか。彼女の意識がないのをいいことに、他の貴族令息の前でスカーフを落とした。歩きながらさり気なく行ったため、拾った令嬢が近づいて息をのむ。同様に俺も今気づいたフリで目を見開いた。
虐待の疑いがあると噂になれば、アウエンミュラー侯爵家に王家の視察が入る。それが狙いだった。それから数ヵ月、俺は思惑通りに進んだ事態に頬を緩める。傷がある令嬢を誰が娶るか、他の貴族家が二の足を踏む状況で、我がリヒテンシュタイン公爵家が名乗りを上げた。
アウエンミュラー侯爵が驚くほどの、高値を付けて――ローザリンデ嬢は俺の婚約者となったのだ。あの赤い美しい髪を誰にも触れさせたくなかった。目覚めて恥ずかしそうに肌を隠した彼女の慎ましさに心惹かれ、礼を言って微笑んだ美しさに見惚れる。すべてが好ましかった。
ああ、この子が欲しい。あの日に俺は誓った。手に入れたら絶対に逃がさない、と。
レオナルド・フォン・ウント・ツー・リヒテンシュタイン。この国で国王に次ぐリヒテンシュタイン公爵家の嫡男として生まれた俺は、何でも手に入れてきた。欲しいと望めば誰かが用意して差し出し、望まなくても様々な物や人が集まってくる。齢12にして人生は詰まらないものと悟った。
お世辞を使って阿る連中を適当にあしらいながら、人をチェスの駒に見立てて動かす。そのくらいしか楽しみを見いだせなかった俺の目を覚まさせたのが、ローザリンデ・フォン・アウエンミュラーだった。
出会ったのは15歳の頃か。フォンの称号は、貴族なら全員が使えるわけではない。限られた一部の家柄の者のみが使用を許された。そんな数少ない名家のひとつが、アウエンミュラー侯爵家だった。その家には複数の令息令嬢がいるが、長女以外はアウエンミュラーの血を引かぬ継子だ。
この社交界で「継子」と表現されるのは、家の血を引かぬ浮気の子や庶子を示す。つまり、アウエンミュラー侯爵家にいくら子どもがいても、長女以外に価値はなかった。一族の血を引く侯爵夫人が身罷った今、アウエンミュラーの本家筋はただ1人だ。
故に彼女の競争率は高かった。その価値を理解していないのか、逆に違う意味に捉えたのか。アウエンミュラー侯爵を名乗る元伯爵家次男は思い上がった行動に出た。実の娘であるローザリンデ・フォン・アウエンミュラーを、高位貴族に高く売りつけようと考えたのだ。
ティーパーティーが行われる王宮の庭園で、ローザリンデ嬢と出会った。アウエンミュラーの血筋を証明する真っ赤な髪が、まるで薔薇のようで。鮮やかな命の色に目を奪われた。病的に青白い肌、不自然なほどに肌を覆うスカーフに眉を寄せる。
貴族令嬢は白い肌を誇り、食事や血を抜くなどの行為を好むと聞くが……彼女もそうなのか? ふらりと倒れかけたローザリンデ嬢は軽く、驚いて抱き上げた。このまま空に溶けて消えてしまうかと心配になる。スカーフがズレて覗いた肌には、小さな傷が複数見受けられた。
なるほど、傷を隠すスカーフか。彼女の意識がないのをいいことに、他の貴族令息の前でスカーフを落とした。歩きながらさり気なく行ったため、拾った令嬢が近づいて息をのむ。同様に俺も今気づいたフリで目を見開いた。
虐待の疑いがあると噂になれば、アウエンミュラー侯爵家に王家の視察が入る。それが狙いだった。それから数ヵ月、俺は思惑通りに進んだ事態に頬を緩める。傷がある令嬢を誰が娶るか、他の貴族家が二の足を踏む状況で、我がリヒテンシュタイン公爵家が名乗りを上げた。
アウエンミュラー侯爵が驚くほどの、高値を付けて――ローザリンデ嬢は俺の婚約者となったのだ。あの赤い美しい髪を誰にも触れさせたくなかった。目覚めて恥ずかしそうに肌を隠した彼女の慎ましさに心惹かれ、礼を言って微笑んだ美しさに見惚れる。すべてが好ましかった。
ああ、この子が欲しい。あの日に俺は誓った。手に入れたら絶対に逃がさない、と。
115
あなたにおすすめの小説
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる