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11.あの人を利用することに罪悪感はない
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目が覚めて、手を包む温かさに気づく。視線を巡らせた先で、柔らかなブラウンの髪が見えた。結んだ髪が解けてしまったみたい。ベッド脇に座った彼女はシーツに伏せている。水桶やタオルが目に入り、看病したアンネへ温かな気持ちが向かった。もう少し眠らせてあげましょう。
記憶を辿る。食事のテーブルにあった百合は白に赤いラインが入っていた。特徴的な花だわ。指先に付いた花粉を、アンネは二度も拭った。前世でも花粉で体調を崩したことがあったわね。あれは、やはり赤い花粉だった。花は覚えていないけれど。
花粉が付いた手をきちんと拭かず、お茶を楽しんでしまったの。そこから嘔吐や下痢が酷くて発熱し、気づいたら病弱扱いになった。執事や一部の侍女が「厄介者を引いた」と私をレオナルドから遠ざけたのも、体調不良が最初だったかも知れないわ。
前世の記憶は感情ばかり鮮明で、全体の流れは思い出せるのに細部が曖昧だった。はっきりしない部分が多くて、怖いわね。知らない間に前世と同じ行動をする可能性がある。言葉も行動も、もっと慎重にならなければ……生き残れない。
階段もそうよ。最後の段を踏んだ途端、左足裏に痛みが走った。体が痺れて力が抜けて、膝から崩れそうになる。支えてくれた腕がなければ……あれは後ろを歩いていたアンネ? だとしたら、ケガをしたんじゃないかしら!
身じろぎして起き上がろうとした私の動きに気づいたアンネが顔を上げ、ぶわっと涙を浮かべた。綺麗な涙が頬を伝い、ぽつりとシーツに落ちる。
「奥様っ、よかった。本当に……よかっ、た……です。奥様が、倒れ……っ、うう」
泣き崩れてしまったアンネは、左手で自らの顔を覆う。隠すより涙を拭こうとしたのね。絹のワンピースではなく、部屋着姿だった。ハンカチがなくてごめんなさい。未使用と思われるタオルを手渡し、泣き止むのを待った。
「落ち着いた?」
「すみません、奥様」
真っ赤な目元が、本当に心配してくれた証拠ね。アンネだけが私の味方だわ。改めてそう認識した。倒れてからの説明を受けて、アンネの足のケガも見せてもらう。手当てが終わっていることにほっとした。この子は私のことを優先してくれるけど、自分自身も大切にして欲しい。そう告げると、困ったような顔で笑った。
「アンネがいなければ、私はもう誰も味方がいないのよ」
「っ……気を付けます」
息を詰めた彼女はようやく笑ってくれた。優しい緑の瞳もブラウンの髪も、森を思い出させる。すごく落ち着くの。アンネがいてくれること、一緒に前世の記憶を持っていること。それが今の私の財産だわ。
「逃げ出そうとしていることを、旦那様に知られてしまいました」
ミスを犯したと悔やむアンネへ、私は首を横に振った。
「それでいいわ。私の体調が戻るまで、アンネのケガが治って歩けるようになるまで――このまま、あの人に守らせればいいんだもの」
公爵家当主として、妻を害する者を排除するはず。私に近づく者から守ってくれるなら、その間は利用すればいい。私達の準備が整ったら、脱出よ。そう口にした私に、アンネは笑って頷いた。
罪悪感なんて持たないわ。私とアンネを無事に保護して、権利を取り戻す手伝いをしてくれる人を見つけなければならない。それが夫でないことは確かだった。
記憶を辿る。食事のテーブルにあった百合は白に赤いラインが入っていた。特徴的な花だわ。指先に付いた花粉を、アンネは二度も拭った。前世でも花粉で体調を崩したことがあったわね。あれは、やはり赤い花粉だった。花は覚えていないけれど。
花粉が付いた手をきちんと拭かず、お茶を楽しんでしまったの。そこから嘔吐や下痢が酷くて発熱し、気づいたら病弱扱いになった。執事や一部の侍女が「厄介者を引いた」と私をレオナルドから遠ざけたのも、体調不良が最初だったかも知れないわ。
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身じろぎして起き上がろうとした私の動きに気づいたアンネが顔を上げ、ぶわっと涙を浮かべた。綺麗な涙が頬を伝い、ぽつりとシーツに落ちる。
「奥様っ、よかった。本当に……よかっ、た……です。奥様が、倒れ……っ、うう」
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「落ち着いた?」
「すみません、奥様」
真っ赤な目元が、本当に心配してくれた証拠ね。アンネだけが私の味方だわ。改めてそう認識した。倒れてからの説明を受けて、アンネの足のケガも見せてもらう。手当てが終わっていることにほっとした。この子は私のことを優先してくれるけど、自分自身も大切にして欲しい。そう告げると、困ったような顔で笑った。
「アンネがいなければ、私はもう誰も味方がいないのよ」
「っ……気を付けます」
息を詰めた彼女はようやく笑ってくれた。優しい緑の瞳もブラウンの髪も、森を思い出させる。すごく落ち着くの。アンネがいてくれること、一緒に前世の記憶を持っていること。それが今の私の財産だわ。
「逃げ出そうとしていることを、旦那様に知られてしまいました」
ミスを犯したと悔やむアンネへ、私は首を横に振った。
「それでいいわ。私の体調が戻るまで、アンネのケガが治って歩けるようになるまで――このまま、あの人に守らせればいいんだもの」
公爵家当主として、妻を害する者を排除するはず。私に近づく者から守ってくれるなら、その間は利用すればいい。私達の準備が整ったら、脱出よ。そう口にした私に、アンネは笑って頷いた。
罪悪感なんて持たないわ。私とアンネを無事に保護して、権利を取り戻す手伝いをしてくれる人を見つけなければならない。それが夫でないことは確かだった。
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