【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
15 / 112

14.裏切られたとしたら私が悪い

しおりを挟む
 毒を盛られたのだから、一ヶ月以上は時間を稼げるはず。アンネと計画を練っていく。あれこれと一緒に夜を過ごさず済む作戦を考えたが、どうやっても一年は厳しかった。

「何かなかったかしら」

 過去の記憶でも、夫レオナルドと夜を明かしたのは数回だけ。運が良かったのか、悪かったのか。すぐに子どもが出来た。それ以降は一度も抱かれていない。妊娠中にあの女が現れたから、それが影響しているのかも。

「アンネ、レオナルドの浮気相手は覚えている?」

「忘れるものですか! 覚えておりますとも!!」

 ぐっと拳を握るアンネの顔は、恐ろしいほど怒りに満ちていた。自分のこと以上に感情を露わにするアンネを見ると、逆に私が落ち着いてしまうわ。私以上に、私のことで怒ってくれる人がいる。嬉しくて頬が緩んだ。

 前世でもアンネは私に優しかった。いろいろと苦労をさせたから、今度はきちんと報いてあげたい。男爵家の三女なら、女侯爵の補佐も務まるわ。侍女長なんて中途半端な地位じゃなく、女性でありながら立派な補佐官として立場を確立して欲しい。彼女なら私を裏切らないし、裏切られたとしても許せた。

「あの女は、まず奥様の補佐をする名目で屋敷に入りました。ご結婚から半年も経たないうちですね。当時は侍女達の間でも、おかしいと噂になりました」

 あと半年。記憶と差はない。やっぱり普通に考えておかしいわ。

「私の教育係じゃなかったわよね?」

「私が聞いたのは、奥様が公爵夫人としてお仕事をなさる補佐役でした。その頃、領地運営に問題があって、旦那様が領地へ戻られましたね。旦那様の仕事が奥様に振り分けられたので、補佐が必要になったと覚えています」

 眉を寄せて考えこむ。私が聞いた説明と違うわ。執事は「奥様が公爵夫人として振る舞うに相応しい教育係をお呼びした」と言った。前世の私は素直に信じて、執事に任せたの。今になれば、愚かなことだわ。執事も敵だったんだから。

「アンネ。記憶のすり合わせが必要よ。私はあの女が、教育係だと聞いていたの」

 驚いた顔をした後、アンネは黙って考えていた。それから困惑した様子でぽつりと呟く。

「私と奥様の記憶に違いがあるとしたら、どちらが正しいか判断する基準が必要ですね」

 前世の記憶を持つ第三者を見つける必要がある。そう言い置いた後、彼女は言いにくそうに続けた。

「実は、旦那様も記憶をお持ちです」

「……どうして、それを……アンネが?」

 あなたが知っているの? まさか夫と繋がっていて、すでに私は抜け出せない罠の中にいるのではないか。同じように閉じ込められて、また苦しみながら死ぬの? 震えながら自らを抱き締めた私に、床に伏せたアンネが謝罪を口にした。

「申し訳ございません、奥様。結婚式の夜に奥様が眠った後、旦那様とお話をしました。旦那様は前世の奥様の死因を、病死だと思っておられます」

 病死……? 殺されたのよ、公爵夫人が餓死したなんてみっともないから、死因を捻じ曲げたのでしょう!?

 かっと頭に血が上った。アンネも裏切るかも知れない。深い話はしない方がいいの? でも彼女がいなければ逃げられないわ。だけどアンネは夫と繋がっていて……ああ、もう。どうしたらいいのよ。

 混乱する私をアンネは真っ直ぐに見つめる。緑の瞳を逸らさず、嘘はないと示しながら口を開いた。

「私は奥様のために死ねます。あの花瓶を割った私は、罰として奴隷に落とされたでしょう。救ってくださった奥様に、感謝しています。奥様が逃げたいなら命に代えて逃しますし、旦那様に復讐なさるなら全力で協力いたします」

 じっと見つめ返す。緑の瞳は時折瞬くけれど、涙を溢さなかった。だから信用しようと思う。さっきも思ったじゃない。前世のあの献身があるから、アンネを信じようとした。ならば、最後まで信じ抜こう。それで裏切られるなら、私が悪いのよ。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

完結  やっぱり貴方は、そちらを選ぶのですね

ポチ
恋愛
卒業式も終わり 卒業のお祝い。。 パーティーの時にソレは起こった やっぱり。。そうだったのですね、、 また、愛する人は 離れて行く また?婚約者は、1人目だけど。。。

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。 結婚だってそうだった。 良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。 夫の9番目の妻だと知るまでは―― 「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」 嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。 ※最後はさくっと終わっております。 ※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...