【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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22.彼女はお前の物ではない

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 貴族法の条文の解釈を記し、申請書の雛型を作成する。内容を細かく書いて、最後に署名を追加した。ほっとする。日付を空欄にした書類は、提出できる段階まで来た。

 この訴えが受領されれば、国の調査が入る。証拠は私が集める必要はなく、貴族法を管理する文官が武官に指示して集めるのが通例だった。父がアウエンミュラー侯爵を継承していたら、この申請は却下される。でも直系の一人娘がいるのに、アウエンミュラーの血を引かない父が侯爵を名乗るのは、法に反していた。

 夜会や舞踏会に参加するたび、侯爵の名を騙って他の貴族を惑わせた罪は重い。加算された罪を突きつけて、必ずお祖父様やお母様の家名を取り戻すわ。私の実家だもの……お母様が生まれ育って亡くなったお屋敷も、お祖父様が産業を作って育てた領地も。すべて私が相続すべき、正当な権利でした。

 書類を再度確かめて、不備がないか念入りに読み込んでいく。読み終えて、隣で待つアンネに渡した。彼女もじっくり目を通していく。この半月、一緒に貴族法や専門書を読み解いたから、彼女の知識も深まったわね。時間をかけて何度も読み直したアンネが、にっこり笑って頷いた。

「完璧です、奥様」

「ありがとう、アンネ。あなたのお陰よ」

「いえ、奥様が頑張られた結果です」

 顔を見合わせて笑い合ったところで、外からノックの音がした。結局、鍵付きの日記帳は届かなかったので、仕方なくベッドの枕の下へ書類を挟んだ本を突っ込む。クッションで上から覆ったアンネが見回し、大丈夫と頷く。私は上掛けを引っ張って、ペンや読んでいた数冊の本を隠した。

「どうぞ」

 アンネは慣れた様子で返答する。慌てたせいで乱れた髪を手櫛で直し、私はベッドに潜り込んだ。いつもの時間ではないけれど、訪問者は限られている。夫レオナルドか、掃除の侍女か。食事はさきほど終えたから、考えられなかった。窓の外はまだ明るく、夫が訪ねてくるには早過ぎる。

 今までと違う時間の訪問に、私は緊張していた。私達の行動がバレたのかも知れない。ドキドキしながら、騎士が扉を開くのを待った。

 お願い……掃除の侍女よね。願いを裏切るように、顔を覗かせたのは夫だった。レオナルドの顔色が悪いが、私に関係ないわ。具合が悪いと言って断って。目線で促した私が掴んだアンネの手が、ぎゅっと握り返してきた。

「奥様は今……お加減が優れず」

「っ、知っている。だが」

 いつもなら顔を見て帰るのに、今日は中に踏み込んでくる。緊張と恐怖で喉がごくりと動いた。乾いた喉が張り付いたよう。頭の中に心臓があるみたいに、すごい音で鼓動が響いた。

「失礼する。お前は下がっていろ」

「ですが」

「何度も言わせるな、彼女はお前の物ではない!」

 言い争う声に、そっと顔を覗かせる。潜っていた上掛けから、目だけを出して確認した。レオナルドの隣に立つ男性は、誰? 黒髪で整った顔なのに、眉を寄せて怖い表情だった。

「……まだ私の妻です」

「安心しろ、結婚は無効だ。国王の命令書が届くまで、彼女に触れることは許さん」

 思わぬ言葉に起きあがろうとして、握ったままのアンネに引き留められた。彼女が強く握って注意を促してくれなかったら、私が健康だとバレるところだったわ。感謝しながら指を絡めて握り直した。この二人は私のことで争ってるみたい。

 状況が一変する可能性に、今度は胸が高鳴った。
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