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50.一人ずつ、処分してあげるわ
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ざわめきが大きくなった。さらにヴィルは容赦なく、追い打ちをかける。
「婚約者と名目を付け、ローザの意思を無視して売り渡した。それで貴族を名乗るなど、他の貴族家が許さないであろうな」
遠回しに、彼を庇うと貴族ではない。娘を金で売り渡す奴隷制度を支持する愚者だと言い放った。近くに立っていた貴族は男女問わずに、一斉に逃げ出す。ばっと周囲が開いて、父や異腹の弟妹が取り残された。アダルベルト家との婚約が消えて泣く弟、その隣でもう一人の弟が困惑顔を見せる。
妹は強気で「嘘つき」だの「泥棒」と叫んだ。可哀想ね、その一言が命取りの自覚がないなんて。あまりに愚かすぎて、相手にするのも鬱陶しいくらいよ。どうして前世の私は簡単に諦めたの? 今になって悔しさが込み上げた。
母の遺品や家督も、すべて私の物だったのよ。受け継ぐ正当な主は私だけ。なのに奪われて、自らの命や自由、身体まで売られてしまった。ぎゅっと拳を握った私の上に、温かな手が重なった。少し荒れてごつごつしているけれど、優しい手が心まで包んでくれる。
平気よ、顔を上げていられるわ。微笑みを貼り付けて頷いた。
「あんたなんかっ!」
手を振り上げて殴りかかろうと近づいた妹の形相は、まるで悪魔のようだった。人の顔がこんなに醜くなるなんて知らない。いえ、前世で見たけど……歪んで、罵る言葉を吐く唇が別の生き物のようだった。気持ち悪さに眉を寄せる私の目を、彼の手が覆う。
「アルノルト、処分しろ」
「はっ」
王宮で警備に駆り出した騎士ではなく、アルブレヒツベルガー大公家の騎士が動いた。一歩下がった位置でソファの脇に立つ青い髪の青年は、すらりと長い剣を抜く。その動きに迷いはなかった。令嬢や夫人の悲鳴が上がる中、妹の首筋に剣が当たる。軽く触れる程度、それでも血が滲んだ。
目元を覆うヴィルの手をそっと下ろした私が見たのは、跪かされた妹が驚愕の顔で震える様子だった。胸がすっとするより、むかむかするわ。この子を見るだけで怒りや憎しみが湧いて来るよう。
「罪状は余るほどあるな。不敬罪と暴行未遂、貴族を騙った罪、それから侮辱罪だ」
指を折りながら数えるヴィルに、王宮の騎士が一礼する。
「罪人をお引渡しいただけますでしょうか。大公閣下」
「構わん。だが温い罰を下すなら、大公家を敵に回すぞ」
「承知いたしました」
胸に手を当てて深く腰を折り、妹の肩を掴んで床に押し付けた。これが貴族令嬢なら抗議の声が上がるが、彼女は平民。それも貴族が集う夜会に紛れ込んだ詐欺師と認識されていた。その雰囲気を作ったのは、圧倒的強者であるアルブレヒツベルガーの権力だ。
同じように振舞っても、私には無理ね。騎士アルノルトが剣を納め、王宮の騎士が彼女を引きずっていった。その間も暴言を吐きまくり、さらに罪を重ねるなんて。愚かにも程があるわ。
震える弟達に何かされた覚えはない。だが逆に、助けられた記憶もなかった。母が存命の頃にいた乳母や執事、侍女はすべて解雇された。私の味方を切り離した屋敷は針の筵で、その苦しみを彼らは見ぬふりをしたの。
保身のためだとしても、許す気はない。彼らはアウエンミュラー侯爵家を名乗って、他の貴族家の血を穢そうとしたのよ。その結婚が成立していたら、アウエンミュラーは貴族の社交界から追放されたでしょう。たとえ、私が家督を取り戻しても手遅れになる。
「僕達は何も……してない」
「そうね、何もしなかったわ。私が義母に宝石を奪われた日も、抵抗して殴られた日も……それに売られた日だって。あなた達は幸せそうに、アウエンミュラーのお金を使って好きな物を食べて暖かなベッドで眠っただけ」
「婚約者と名目を付け、ローザの意思を無視して売り渡した。それで貴族を名乗るなど、他の貴族家が許さないであろうな」
遠回しに、彼を庇うと貴族ではない。娘を金で売り渡す奴隷制度を支持する愚者だと言い放った。近くに立っていた貴族は男女問わずに、一斉に逃げ出す。ばっと周囲が開いて、父や異腹の弟妹が取り残された。アダルベルト家との婚約が消えて泣く弟、その隣でもう一人の弟が困惑顔を見せる。
妹は強気で「嘘つき」だの「泥棒」と叫んだ。可哀想ね、その一言が命取りの自覚がないなんて。あまりに愚かすぎて、相手にするのも鬱陶しいくらいよ。どうして前世の私は簡単に諦めたの? 今になって悔しさが込み上げた。
母の遺品や家督も、すべて私の物だったのよ。受け継ぐ正当な主は私だけ。なのに奪われて、自らの命や自由、身体まで売られてしまった。ぎゅっと拳を握った私の上に、温かな手が重なった。少し荒れてごつごつしているけれど、優しい手が心まで包んでくれる。
平気よ、顔を上げていられるわ。微笑みを貼り付けて頷いた。
「あんたなんかっ!」
手を振り上げて殴りかかろうと近づいた妹の形相は、まるで悪魔のようだった。人の顔がこんなに醜くなるなんて知らない。いえ、前世で見たけど……歪んで、罵る言葉を吐く唇が別の生き物のようだった。気持ち悪さに眉を寄せる私の目を、彼の手が覆う。
「アルノルト、処分しろ」
「はっ」
王宮で警備に駆り出した騎士ではなく、アルブレヒツベルガー大公家の騎士が動いた。一歩下がった位置でソファの脇に立つ青い髪の青年は、すらりと長い剣を抜く。その動きに迷いはなかった。令嬢や夫人の悲鳴が上がる中、妹の首筋に剣が当たる。軽く触れる程度、それでも血が滲んだ。
目元を覆うヴィルの手をそっと下ろした私が見たのは、跪かされた妹が驚愕の顔で震える様子だった。胸がすっとするより、むかむかするわ。この子を見るだけで怒りや憎しみが湧いて来るよう。
「罪状は余るほどあるな。不敬罪と暴行未遂、貴族を騙った罪、それから侮辱罪だ」
指を折りながら数えるヴィルに、王宮の騎士が一礼する。
「罪人をお引渡しいただけますでしょうか。大公閣下」
「構わん。だが温い罰を下すなら、大公家を敵に回すぞ」
「承知いたしました」
胸に手を当てて深く腰を折り、妹の肩を掴んで床に押し付けた。これが貴族令嬢なら抗議の声が上がるが、彼女は平民。それも貴族が集う夜会に紛れ込んだ詐欺師と認識されていた。その雰囲気を作ったのは、圧倒的強者であるアルブレヒツベルガーの権力だ。
同じように振舞っても、私には無理ね。騎士アルノルトが剣を納め、王宮の騎士が彼女を引きずっていった。その間も暴言を吐きまくり、さらに罪を重ねるなんて。愚かにも程があるわ。
震える弟達に何かされた覚えはない。だが逆に、助けられた記憶もなかった。母が存命の頃にいた乳母や執事、侍女はすべて解雇された。私の味方を切り離した屋敷は針の筵で、その苦しみを彼らは見ぬふりをしたの。
保身のためだとしても、許す気はない。彼らはアウエンミュラー侯爵家を名乗って、他の貴族家の血を穢そうとしたのよ。その結婚が成立していたら、アウエンミュラーは貴族の社交界から追放されたでしょう。たとえ、私が家督を取り戻しても手遅れになる。
「僕達は何も……してない」
「そうね、何もしなかったわ。私が義母に宝石を奪われた日も、抵抗して殴られた日も……それに売られた日だって。あなた達は幸せそうに、アウエンミュラーのお金を使って好きな物を食べて暖かなベッドで眠っただけ」
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