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66.最も辛い罰は何か――SIDEヴィル
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どこまで見せても平気か。受け入れてもらえるのか。その基準は誰も知らない。だからこそ足掻いてしまう。
残酷で醜い本性がバレないように――ありのままを受け入れて欲しい反面、嫌われるくらいなら黙って実行しようと決めた。
「君は慎重すぎるんだよね」
精霊は人ではない。だから見透かしたように口にするけれど、僕と違う。うっそりと笑い、親友の半透明の姿に首を横に振った。
「違うよ、もうやり直しがきかないから」
彼女のために腕に宿る魔力も、右目も差し出した。僕に残るのは命くらいだ。それを差し出したら、二度と彼女を幸せにする未来は来ない。だから足掻く。醜く見苦しい姿を晒そうと、誰かにローザの幸せを託す気はなかった。
「旦那様、精霊様のお茶もご用意しますか?」
「いや、不要だ」
執事のベルントは、精霊が見えない。だが僕が「いる」と断言した日から、いるものとして扱ってくれた。これが他家の執事なら、妄想や幻覚だと言い切っただろう。だがアルブレヒツベルガー大公家は、精霊を常に身近に置く。それゆえの呪術の能力だった。
用意されたお茶に手を伸ばし、一口飲んでから紙に名前を記していく。
レオナルド、ユリアーナ、あの屋敷で前回までローザを苦しめた使用人達……今回のローザに触れ、あの優しさに絆された者らは名前を横線で消した。残った名前の脇に数字を追加する。
レオナルド10、ユリアーナ10、拘束された執事8……罪の重さを示す指標となる数値だ。リヒテンシュタイン公爵領は、幸いにして豊かな領地だった。麦などの作物も豊かに実り、領民も穏やかだ。あの土地を取り上げて分割し、半分程をローザのアウエンミュラー侯爵領と交換しよう。
搾取で痩せてしまったアウエンミュラーの土地は、我がアルブレヒツベルガーが再興する。精霊の力で大地の力を呼び起こせば、数年で緑も蘇るだろう。
残ったリヒテンシュタインの土地は、王家の直轄領としてお返しする。これでラインハルトの面目も立つはずだ。王家が召し上げた土地を、大公家がすべて握れば貴族から反発が生じる。だが被害者であるローザへの補償を行い、残りを王家に納める形ならば問題はなかった。
痩せたアウエンミュラーの土地に口出しする貴族もいない。いたとしても排除する。あの土地はいずれ、ローザの手元へ返す予定なのだから。
「ベルント、貴族にとって最も辛い罰はなんだろうな」
にやりと笑う僕に、彼は片方の眉尻を器用に持ち上げて穏やかに返した。
「お人が悪い。貴族である貴方様が一番ご存じでしょう」
「ベルントにも爵位を与えたはずだぞ」
「返上しました」
「いつ?」
知らない間に返上されていた、と聞いて慌てる。幼い頃から世話になった彼の老後のために与えた爵位と領地なのだ。返されるのは予想外だった。
「死ぬまでお世話になる私に、領地など不要です。お給金も十分すぎるほどで、貯蓄もございますゆえ」
どうやら知らない間に、大公領の家令と話をつけたらしい。後で問いただしてやる。
「最高位の貴族である公爵閣下であれば、爵位剥奪はさぞ堪えたことでしょう。蔑んできた平民以下の生活を体験していただくのはいかがかと」
「お前も人が悪い。だがいい案だ」
この国には奴隷制度がない。正確に表現するなら、犯罪奴隷以外は認められていなかった。売られる国民をなくすため、数代前の国王が廃止したのだ。その後、賠償を行う犯罪者のみ奴隷として登録され、厳しい現場で強制労働させることが可能となった。働いて得た金を、被害者への救済に充てるためだ。
いい案だが、少しぬるいな。僕は肘をついた行儀の悪い姿勢で、残った紅茶を流し込んだ。
残酷で醜い本性がバレないように――ありのままを受け入れて欲しい反面、嫌われるくらいなら黙って実行しようと決めた。
「君は慎重すぎるんだよね」
精霊は人ではない。だから見透かしたように口にするけれど、僕と違う。うっそりと笑い、親友の半透明の姿に首を横に振った。
「違うよ、もうやり直しがきかないから」
彼女のために腕に宿る魔力も、右目も差し出した。僕に残るのは命くらいだ。それを差し出したら、二度と彼女を幸せにする未来は来ない。だから足掻く。醜く見苦しい姿を晒そうと、誰かにローザの幸せを託す気はなかった。
「旦那様、精霊様のお茶もご用意しますか?」
「いや、不要だ」
執事のベルントは、精霊が見えない。だが僕が「いる」と断言した日から、いるものとして扱ってくれた。これが他家の執事なら、妄想や幻覚だと言い切っただろう。だがアルブレヒツベルガー大公家は、精霊を常に身近に置く。それゆえの呪術の能力だった。
用意されたお茶に手を伸ばし、一口飲んでから紙に名前を記していく。
レオナルド、ユリアーナ、あの屋敷で前回までローザを苦しめた使用人達……今回のローザに触れ、あの優しさに絆された者らは名前を横線で消した。残った名前の脇に数字を追加する。
レオナルド10、ユリアーナ10、拘束された執事8……罪の重さを示す指標となる数値だ。リヒテンシュタイン公爵領は、幸いにして豊かな領地だった。麦などの作物も豊かに実り、領民も穏やかだ。あの土地を取り上げて分割し、半分程をローザのアウエンミュラー侯爵領と交換しよう。
搾取で痩せてしまったアウエンミュラーの土地は、我がアルブレヒツベルガーが再興する。精霊の力で大地の力を呼び起こせば、数年で緑も蘇るだろう。
残ったリヒテンシュタインの土地は、王家の直轄領としてお返しする。これでラインハルトの面目も立つはずだ。王家が召し上げた土地を、大公家がすべて握れば貴族から反発が生じる。だが被害者であるローザへの補償を行い、残りを王家に納める形ならば問題はなかった。
痩せたアウエンミュラーの土地に口出しする貴族もいない。いたとしても排除する。あの土地はいずれ、ローザの手元へ返す予定なのだから。
「ベルント、貴族にとって最も辛い罰はなんだろうな」
にやりと笑う僕に、彼は片方の眉尻を器用に持ち上げて穏やかに返した。
「お人が悪い。貴族である貴方様が一番ご存じでしょう」
「ベルントにも爵位を与えたはずだぞ」
「返上しました」
「いつ?」
知らない間に返上されていた、と聞いて慌てる。幼い頃から世話になった彼の老後のために与えた爵位と領地なのだ。返されるのは予想外だった。
「死ぬまでお世話になる私に、領地など不要です。お給金も十分すぎるほどで、貯蓄もございますゆえ」
どうやら知らない間に、大公領の家令と話をつけたらしい。後で問いただしてやる。
「最高位の貴族である公爵閣下であれば、爵位剥奪はさぞ堪えたことでしょう。蔑んできた平民以下の生活を体験していただくのはいかがかと」
「お前も人が悪い。だがいい案だ」
この国には奴隷制度がない。正確に表現するなら、犯罪奴隷以外は認められていなかった。売られる国民をなくすため、数代前の国王が廃止したのだ。その後、賠償を行う犯罪者のみ奴隷として登録され、厳しい現場で強制労働させることが可能となった。働いて得た金を、被害者への救済に充てるためだ。
いい案だが、少しぬるいな。僕は肘をついた行儀の悪い姿勢で、残った紅茶を流し込んだ。
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