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91.前世も今も、私は愛されている
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アルブレヒツベルガー大公家を筆頭に、一族が呪術を使う話は有名だ。貴族で知らない者はいないだろう。だけど……時間を戻せるなんて聞いたことがない。危険な代償を払う秘術なら、一族の総領である大公家に伝わる呪術だわ。
私のために、彼は3回も時間を戻したと言った。毒殺で1回、火事で2回目、最後に切り殺された後。その1回ごとにどんな対価を払ったのか。当然、時間を戻すような大きな術なら、とんでもない代償を払ったはず。
「……ヴィル、嘘も誤魔化しもなしで教えて」
黒髪の頭が小さく頷く。私の涙がぽろりと落ちて、彼の黒髪に吸い込まれた。
「あなたは私のために、何を差し出したの?」
呪術に対価が必要で、代償を払ったのなら。何を犠牲にしたのか。私は薄々気付いている。ヴィルのその眼帯、まだ新しいわ。革が硬いから、触れる顔の皮膚が擦れて赤くなってるもの。その右目、対価じゃないかしら?
そうじゃないと否定して欲しい。でも精霊が硬い声で口にするくらいだから、きっと大きな代償だったはず。緊張で乾いた私の喉がごくりと鳴った。
ゆっくり頭を上げたヴィルが泣きそうな顔で微笑み、指先で私の涙を拭う。そのまま床に座り込んだ。私と目を合わせたまま、ぽつりぽつりと語る。
「右目のすべてと、左腕の魔力だ」
体の半分近い魔力と、右目が持つ能力と魔力を捧げたと聞いて、言葉を失う。
「左腕は、動くの?」
「ああ」
この通りと動かす彼にぎこちなさはない。だけど、右目は別だった。眼帯の上から手を重ねる。見えなくても眼球が残っていたら膨らんでいるけれど、そこは空洞のようだった。
「おねが、い……」
見せて欲しい。掠れた声で願う私に、ヴィルは迷った。押し問答になる前に、精霊が動く。後ろで結んだ眼帯の紐を切ったのだ。眼帯が滑るのを手で押さえたヴィルは、震える手を離した。落ちた眼帯の革が乾いた音を立てる。
大きな傷はない。落ち窪んだ眼球の跡は、目蓋で覆われている。それでも隙間が出来ていた。左目は開いているのに、縫い付けたように右目の目蓋は動かない。
「どうして」
もっと早く奪いに来いなんて、言わなければよかった。これほどの代償を払った人が、すぐ動けるわけないじゃない。魔力だってそう。体の一部なら、失って不調にならないわけがない。3回に分けて失ったものはすべて、彼が生まれながらに持っていたものなのに。
私のために差し出してくれた人に、なんてこと……最低だわ。自己嫌悪に襲われた私に、ヴィルは微笑んだ。
「後悔しないでくれ。僕は君に捧げたすべてを、一度も悔やんだことはないよ。そうだろ? 僕は心も体も財産も名も、持っているすべてを君に捧げたんだから」
もう我慢できなかった。頬を伝う涙が止まらなくて、抱き着く。声を上げて泣いたのなんて、記憶にないわ。お母様が亡くなった時も、こんなふうに感情を出せなかった。でも……止まらないわ。
ヴィルを可哀想と思ってはダメ、私はこんなに愛された。前世も今も、彼に愛されているのだもの。同情なんて安い感情で汚したくない。泣きながらも必死で、言葉を繋いだ。
「あい、てる……ヴィ、ルっ、わた、しも」
誰よりあなたを好きで、いつまでも愛し続けるわ。それであなたへの愛を証明し、ヴィルの右目以上の価値を示してみせる。だから、こんな私でも一緒にいてもいい?
私のために、彼は3回も時間を戻したと言った。毒殺で1回、火事で2回目、最後に切り殺された後。その1回ごとにどんな対価を払ったのか。当然、時間を戻すような大きな術なら、とんでもない代償を払ったはず。
「……ヴィル、嘘も誤魔化しもなしで教えて」
黒髪の頭が小さく頷く。私の涙がぽろりと落ちて、彼の黒髪に吸い込まれた。
「あなたは私のために、何を差し出したの?」
呪術に対価が必要で、代償を払ったのなら。何を犠牲にしたのか。私は薄々気付いている。ヴィルのその眼帯、まだ新しいわ。革が硬いから、触れる顔の皮膚が擦れて赤くなってるもの。その右目、対価じゃないかしら?
そうじゃないと否定して欲しい。でも精霊が硬い声で口にするくらいだから、きっと大きな代償だったはず。緊張で乾いた私の喉がごくりと鳴った。
ゆっくり頭を上げたヴィルが泣きそうな顔で微笑み、指先で私の涙を拭う。そのまま床に座り込んだ。私と目を合わせたまま、ぽつりぽつりと語る。
「右目のすべてと、左腕の魔力だ」
体の半分近い魔力と、右目が持つ能力と魔力を捧げたと聞いて、言葉を失う。
「左腕は、動くの?」
「ああ」
この通りと動かす彼にぎこちなさはない。だけど、右目は別だった。眼帯の上から手を重ねる。見えなくても眼球が残っていたら膨らんでいるけれど、そこは空洞のようだった。
「おねが、い……」
見せて欲しい。掠れた声で願う私に、ヴィルは迷った。押し問答になる前に、精霊が動く。後ろで結んだ眼帯の紐を切ったのだ。眼帯が滑るのを手で押さえたヴィルは、震える手を離した。落ちた眼帯の革が乾いた音を立てる。
大きな傷はない。落ち窪んだ眼球の跡は、目蓋で覆われている。それでも隙間が出来ていた。左目は開いているのに、縫い付けたように右目の目蓋は動かない。
「どうして」
もっと早く奪いに来いなんて、言わなければよかった。これほどの代償を払った人が、すぐ動けるわけないじゃない。魔力だってそう。体の一部なら、失って不調にならないわけがない。3回に分けて失ったものはすべて、彼が生まれながらに持っていたものなのに。
私のために差し出してくれた人に、なんてこと……最低だわ。自己嫌悪に襲われた私に、ヴィルは微笑んだ。
「後悔しないでくれ。僕は君に捧げたすべてを、一度も悔やんだことはないよ。そうだろ? 僕は心も体も財産も名も、持っているすべてを君に捧げたんだから」
もう我慢できなかった。頬を伝う涙が止まらなくて、抱き着く。声を上げて泣いたのなんて、記憶にないわ。お母様が亡くなった時も、こんなふうに感情を出せなかった。でも……止まらないわ。
ヴィルを可哀想と思ってはダメ、私はこんなに愛された。前世も今も、彼に愛されているのだもの。同情なんて安い感情で汚したくない。泣きながらも必死で、言葉を繋いだ。
「あい、てる……ヴィ、ルっ、わた、しも」
誰よりあなたを好きで、いつまでも愛し続けるわ。それであなたへの愛を証明し、ヴィルの右目以上の価値を示してみせる。だから、こんな私でも一緒にいてもいい?
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