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外伝
外伝2-2.素敵なお庭でまさかの?
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到着した王宮で、庭園に通された。ここは外部の者は滅多に入れない。国王陛下ラインハルト様が、妻シャルロッテ様の為に造られたお庭だった。私的なスペースとされ、今は王子殿下二人の遊び場になっている。
以前は薔薇や果樹も植えられた庭だったが、それらはすべて移植された。子どもは何にでも触るし、注意しても忘れてしまう。遊びに夢中になると、よく失敗を繰り返すもの。危険な物を遠ざけるのは親の役割だった。
子どもの背丈ほどの白い花が満開だ。青や黄色、赤の低い花が花壇の縁を彩った。さすがは王宮の庭師が丹精した庭、とても美しかった。うちはハーブが多いから、花より緑が広がる。もう少しお花を増やそうかしら。
侍女に勧められ、ソファに腰掛ける。籐で編まれたソファは軽い。しかし腰掛けるとしっかりしており、屋外で使うのに向いていた。子どもがぶつかってもケガしなさそうね。これもまた大公家で検討しましょう。
「アンネ、とても素敵ね」
「ええ、この庭なら子どもがいても安全です」
伯爵夫人となった今も、アンネは私の侍女を務める。夫のアルノルト様も、騎士として大公家に勤務していた。そのため伯爵家の屋敷は執事に預けっぱなし、時折帰る別荘のような存在になっているとか。それは私達の本邸も同じだけれど。
「お待たせしてごめんなさいね、着替えに手間取ってしまったの」
ロッテ様の声に立ち上がり、微笑んで一礼する。会釈より少し深い程度。女性同士でカーテシーの披露はない。あれは他国の要人や自分より地位の高い貴族家当主へ向ける、正式な挨拶だった。そのため顔見知りになれば会釈やお辞儀で済ませることも多い。
連れて来たフィーネとエーレンフリートは、ちょこんと頭を下げた。
「王妃様、お久しぶりです」
挨拶をしたのはフィーネだ。姉の声に合わせて頭を下げた弟エレンは、すぐに私のスカートの後ろに隠れてしまった。最近人見知りが始まったばかり。その辺は男の子を育てたロッテ様もご存じだった。
「素敵なご挨拶ありがとう、フィーネ。皆で遊んできてはどう?」
少し先に東屋がある。そこを示せば、アルフォンス王子がフィーネの手を取った。エスコートと呼ぶには気安く、けれど優しく触れる。
「一緒に行こう」
「うん。エレンもおいで」
きちんと弟の手を掴むフィーネは、姉という立場がお気に入りの様子。するとアルフォンス王子がコルネリウス王子を手招きした。4人は侍女を伴って東屋へ向かう。お菓子や冷たい飲み物も届けられたので、ほっとしてソファに腰掛けた。
「このソファ、いいわね」
「ふふっ、隣国から仕入れたの。欲しいなら手配しておくわ」
「お願いしたいですわ、アンネのところにもいいかしら」
「もちろん」
夜会で顔を合わせてから、アンネも一緒に招待してくれるロッテ様は、当たり前だと頷く。その気遣いが嬉しい。私の友人が、大切なアンネを友人として扱ってくれた。この出来事は、私達の間の友情を深めた気がする。最初は恐縮していたアンネも徐々に緊張が解けて、今は私に対するようにロッテ様へ接していた。
「本当に羨ましいわ、フィーネちゃんみたいな女の子が欲しい」
ロッテ様は言葉以上に羨ましいと顔に書いて、そう漏らした。それから視線を向けて、アンネに微笑みかける。
「アンネはもうすぐかしら」
「はい。来月くらいです」
大きく膨らんだお腹は、もう生まれてきそう。先日もお腹を蹴って暴れて、びっくりしたわ。うちの子は二人とも、あんなに暴れなかったもの。
「もしかして、二人いるのかも」
ロッテ様がふふっと笑う。この国では双子は歓迎される。豊かに実るイメージと重なるのだとか。滅多に生まれないからこそ、幸運の象徴とされてきた。
「重いし大きいので、その可能性もあると医師から……っ、う……」
話の途中で、アンネが顔をしかめる。まさか、生まれちゃうの?!
以前は薔薇や果樹も植えられた庭だったが、それらはすべて移植された。子どもは何にでも触るし、注意しても忘れてしまう。遊びに夢中になると、よく失敗を繰り返すもの。危険な物を遠ざけるのは親の役割だった。
子どもの背丈ほどの白い花が満開だ。青や黄色、赤の低い花が花壇の縁を彩った。さすがは王宮の庭師が丹精した庭、とても美しかった。うちはハーブが多いから、花より緑が広がる。もう少しお花を増やそうかしら。
侍女に勧められ、ソファに腰掛ける。籐で編まれたソファは軽い。しかし腰掛けるとしっかりしており、屋外で使うのに向いていた。子どもがぶつかってもケガしなさそうね。これもまた大公家で検討しましょう。
「アンネ、とても素敵ね」
「ええ、この庭なら子どもがいても安全です」
伯爵夫人となった今も、アンネは私の侍女を務める。夫のアルノルト様も、騎士として大公家に勤務していた。そのため伯爵家の屋敷は執事に預けっぱなし、時折帰る別荘のような存在になっているとか。それは私達の本邸も同じだけれど。
「お待たせしてごめんなさいね、着替えに手間取ってしまったの」
ロッテ様の声に立ち上がり、微笑んで一礼する。会釈より少し深い程度。女性同士でカーテシーの披露はない。あれは他国の要人や自分より地位の高い貴族家当主へ向ける、正式な挨拶だった。そのため顔見知りになれば会釈やお辞儀で済ませることも多い。
連れて来たフィーネとエーレンフリートは、ちょこんと頭を下げた。
「王妃様、お久しぶりです」
挨拶をしたのはフィーネだ。姉の声に合わせて頭を下げた弟エレンは、すぐに私のスカートの後ろに隠れてしまった。最近人見知りが始まったばかり。その辺は男の子を育てたロッテ様もご存じだった。
「素敵なご挨拶ありがとう、フィーネ。皆で遊んできてはどう?」
少し先に東屋がある。そこを示せば、アルフォンス王子がフィーネの手を取った。エスコートと呼ぶには気安く、けれど優しく触れる。
「一緒に行こう」
「うん。エレンもおいで」
きちんと弟の手を掴むフィーネは、姉という立場がお気に入りの様子。するとアルフォンス王子がコルネリウス王子を手招きした。4人は侍女を伴って東屋へ向かう。お菓子や冷たい飲み物も届けられたので、ほっとしてソファに腰掛けた。
「このソファ、いいわね」
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「お願いしたいですわ、アンネのところにもいいかしら」
「もちろん」
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「アンネはもうすぐかしら」
「はい。来月くらいです」
大きく膨らんだお腹は、もう生まれてきそう。先日もお腹を蹴って暴れて、びっくりしたわ。うちの子は二人とも、あんなに暴れなかったもの。
「もしかして、二人いるのかも」
ロッテ様がふふっと笑う。この国では双子は歓迎される。豊かに実るイメージと重なるのだとか。滅多に生まれないからこそ、幸運の象徴とされてきた。
「重いし大きいので、その可能性もあると医師から……っ、う……」
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