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第一章
12.反撃の狼煙にするには小さいが
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崖の上から見下ろす。オレが魔族に合流してから5年の月日が流れていた。かつて魔族の管理下にあった森は、いつの間にか増えた人間が入り込んでいる。黒い森と呼んで恐れ、魔物と蔑んで魔族を襲ったくせに。新しく作られた村を見下ろすオレの目は、冷たく鋭い。足元に住むのは害獣だった。
森の中に住まうために、魔族や森に歩み寄るならわかる。だが森の木々を切り倒して荒らし、森に棲む獣型の魔族を狩った。田畑を作るために森を焼き払い、元から住んでいた者を殺す。そんな乱暴な開拓が許されると思ったら大間違いだ。
「襲うか」
同族を集めて村を襲撃すると匂わせるアベルに、首を横に振った。
「今回はオレがやる」
両側に並んだ大きな黒狼は、カインとアベルだった。襲撃された屋敷を捨てたオレ達は、魔王城で暮らしている。元勇者で魔王を殺した当事者であるオレを、魔族は受け入れてくれた。傷だらけでボロボロで引きずりまわされたオレの話は、魔族も知っていたのだ。魔王城に住んで5年、力は蓄えた。
「反撃の狼煙には小さすぎるかな」
くすくす笑うオレに頬ずりする黒狼達の毛は柔らかい。これが戦闘態勢に入ると硬化し、剣すら弾くのは驚きだった。べろりとオレの顔を舐めたカインの首筋を掻いてやりながら、オレは身に着けていた武器を外していく。左腕の手首付近に入れ墨した魔法陣に触れて、すべてを収納した。
「行って来るから、先に帰ってていいぞ」
ひらりと手を振って、崖の下へ飛び降りた。踏み出すのに躊躇いはない。ぞくりと背中を走る感覚は、どんなに魔術を覚えて身体を鍛えてもなくならなかった。本能的な恐怖なのだろう。重い頭を下にして落下するオレは、両手を重ねて地面の方角へ向けた。
「風よ、我が身を守れ」
呪文の形式に決まりはない。ただ発動の条件としてオレが設定しただけ。魔術師は魔法陣を呪文代りに活用し、魔族は息をするように魔法を使う。異世界人のオレは魔力が安定せず、魔術も魔法も扱えなかった。だが魔力は大量に保有している。ならば利用するための法則を作ればいいのだ。
ぶわっと大量の空気が手のひらを押し返し、オレはくるりと回転して地面に降りた。魔力の通り道を用意してやれば、殲滅魔法と呼ばれる強力な攻撃も可能だ。小出しに調整する方法を覚えるのに時間がかかったが、今となってはよい思い出だった。
操れるようになった魔法で着地し、村の方角を確認する。崖から見て南、煙が立ち上る左側へ歩き出した。森の木を魔力で押しのけ、茂みをかき分ける。手を使わずに済むので簡単だし、常に魔力で自分を覆う方法は結界と同じだった。リリィの猛特訓で覚えさせられた技術は、確かに身について役立っている。
「あれでスパルタじゃなけりゃ、いい女なんだけど」
ぼやきながら村を目指す。人の気配に足を止め、様子を確認した。もし魔族の生き残りがいれば、助けなくてはならない。じっくり見極めること数時間、日が暮れた暗がりの中でオレは動き始めた。この村に囚われた魔族は、兎獣人の少女1人と獣タイプが3人……残りは食料にするつもりか、首を刎ねられている。
無残な魔族の死体を目にしたオレは、村の入り口でひとつ息を吐いた。
「処刑方法は斬首に決まりだな」
森の中に住まうために、魔族や森に歩み寄るならわかる。だが森の木々を切り倒して荒らし、森に棲む獣型の魔族を狩った。田畑を作るために森を焼き払い、元から住んでいた者を殺す。そんな乱暴な開拓が許されると思ったら大間違いだ。
「襲うか」
同族を集めて村を襲撃すると匂わせるアベルに、首を横に振った。
「今回はオレがやる」
両側に並んだ大きな黒狼は、カインとアベルだった。襲撃された屋敷を捨てたオレ達は、魔王城で暮らしている。元勇者で魔王を殺した当事者であるオレを、魔族は受け入れてくれた。傷だらけでボロボロで引きずりまわされたオレの話は、魔族も知っていたのだ。魔王城に住んで5年、力は蓄えた。
「反撃の狼煙には小さすぎるかな」
くすくす笑うオレに頬ずりする黒狼達の毛は柔らかい。これが戦闘態勢に入ると硬化し、剣すら弾くのは驚きだった。べろりとオレの顔を舐めたカインの首筋を掻いてやりながら、オレは身に着けていた武器を外していく。左腕の手首付近に入れ墨した魔法陣に触れて、すべてを収納した。
「行って来るから、先に帰ってていいぞ」
ひらりと手を振って、崖の下へ飛び降りた。踏み出すのに躊躇いはない。ぞくりと背中を走る感覚は、どんなに魔術を覚えて身体を鍛えてもなくならなかった。本能的な恐怖なのだろう。重い頭を下にして落下するオレは、両手を重ねて地面の方角へ向けた。
「風よ、我が身を守れ」
呪文の形式に決まりはない。ただ発動の条件としてオレが設定しただけ。魔術師は魔法陣を呪文代りに活用し、魔族は息をするように魔法を使う。異世界人のオレは魔力が安定せず、魔術も魔法も扱えなかった。だが魔力は大量に保有している。ならば利用するための法則を作ればいいのだ。
ぶわっと大量の空気が手のひらを押し返し、オレはくるりと回転して地面に降りた。魔力の通り道を用意してやれば、殲滅魔法と呼ばれる強力な攻撃も可能だ。小出しに調整する方法を覚えるのに時間がかかったが、今となってはよい思い出だった。
操れるようになった魔法で着地し、村の方角を確認する。崖から見て南、煙が立ち上る左側へ歩き出した。森の木を魔力で押しのけ、茂みをかき分ける。手を使わずに済むので簡単だし、常に魔力で自分を覆う方法は結界と同じだった。リリィの猛特訓で覚えさせられた技術は、確かに身について役立っている。
「あれでスパルタじゃなけりゃ、いい女なんだけど」
ぼやきながら村を目指す。人の気配に足を止め、様子を確認した。もし魔族の生き残りがいれば、助けなくてはならない。じっくり見極めること数時間、日が暮れた暗がりの中でオレは動き始めた。この村に囚われた魔族は、兎獣人の少女1人と獣タイプが3人……残りは食料にするつもりか、首を刎ねられている。
無残な魔族の死体を目にしたオレは、村の入り口でひとつ息を吐いた。
「処刑方法は斬首に決まりだな」
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