26 / 135
第一章
26.レンズと尻尾の連携がえげつない
しおりを挟む
魔術師は基本的にエリートに分類される。そのため、自分達の誤爆であっても責められると、理不尽に感じる連中だった。自分達が最強と勘違いし、騎士や兵士を見下す。その騎士達に護衛されてるってのにな。
そもそも魔法陣を描いて、魔力を流す作業は時間がかかる。魔法のように一瞬で発動しないのだ。今回は事前に大量の魔法陣を用意してきたが、普段はせいぜい1枚か2枚持っていればいい方だった。対人になれば、頭でっかちで融通の効かない魔術師なんて、役に立たないんだが……。
勘違いと自己顕示欲が肥大した連中は、飛びかかる右翼の連中に向けて魔術を放った。身を守るためとはいえ、一応それ味方だぞ。
ぐるるぅ? 呆れた様子のエイシェットの呟きに、堪えきれず大笑いする。だって「虫さえ同士討ちはしないのに」って、もう少し喩えがあるだろ。そこへフェンリルである双子の遠吠えが聞こえた。どうやら混ぜてくれと痺れを切らしたらしい。
仲間同士食い合わせる作戦なので、後半になったら乱入を頼むか。風に指向性を持たせて矢のように言葉を届ける。返事はやはり遠吠えだった。大きな獣の声がするってのに、地上はそれどころではない。
護衛は魔術師を守らなくてはならないのに、後ろから右翼の兵ごと撃たれた。まさかの背中を攻撃されたことで、護衛騎士まで敵に回す。どれだけ自滅するんだ、おい。これじゃ大きな魔法陣が作動しないぞ。
楽しそうに旋回するエイシェットに向けた攻撃は止み、身内同士で突き刺したり魔術をぶつけたり。騒ぎが大きくなるにつれ、前方にいた将軍とその周辺のお付きが動き出した。指揮官が動くと沈静化される可能性がある。邪魔するか。
迷ったのは一瞬だけ。その前に魔術師が足元の魔法陣に魔力を流した。巨大な魔法陣が発動の兆しを見せると、何人かの魔術師が同様に魔力を供給する。じわじわと動き出した魔法陣は、頭上のエイシェットから標的を変え右翼へ向けられた。お前ら、誰と戦うために来たんだよ、まったく。
こちらを攻撃してくれないと、弾いた攻撃が左翼に当たっちゃった作戦が使えないだろ。エイシェットの首を叩いて注意を引き、彼女に頼む。
「悪いけど、魔術師と右翼の連中に向けて炎を見舞ってくれよ。軽く頭皮を炙る程度な」
ハゲ量産の計画に、エイシェットは嬉々として乗った。まず右翼へ炎を飛ばし、それから足元の魔術師を襲う。当初の敵を思い出した魔術師が、魔法陣の発動先を変更していく。途中で変更すると歪むんだぞ。他人事ながら呆れた。そもそも頭上のドラゴンを狙う魔法陣を、無理矢理右翼の兵に向けようとした。挙句に発動直前にまた頭上へ戻そうとする。
魔法陣とはそこまで都合の良い存在じゃないんだが……まあ、今回に限っては助かる。まるで魔術師の無茶のせいで、攻撃対象が定まらなかったように見えるはずだった。
魔力を使ってレンズのような膜を張った。このレンズに当たった攻撃を、左翼へ飛ばすための装置だ。透明なので、地上から気付かれる可能性は低いだろう。人間はオレと違い、魔力を感知する能力を磨いてないからな。
「死ね、ドラゴン!」
叫んだ魔術師の言葉通り、エイシェットに向かって雷撃のような強い光が放たれた。イメージとしてはレーザー銃かな。それをレンズに当てて、向きを変える。くるっと一回転したエイシェットが、尻尾でレンズに触れた。直後に、弾いた攻撃が左翼を蹂躙する。レンズなので、角度を調整するだけで広範囲に被害を与えた。
「うわっ、えげつな……」
これは巨神兵だ。最悪じゃん。飛び散る人影を見ながら、エイシェットを労った。
「ありがとうな。お前の尻尾のお陰で本物っぽく見えたぞ」
彼女の銀色の鱗で、尻尾が攻撃を弾いたように見えたのだ。タイミングを合わせて回ったエイシェットの首に抱きついて褒めていると、もう待てないと遠吠えに急かされた。だから、後少し待てっての。
そもそも魔法陣を描いて、魔力を流す作業は時間がかかる。魔法のように一瞬で発動しないのだ。今回は事前に大量の魔法陣を用意してきたが、普段はせいぜい1枚か2枚持っていればいい方だった。対人になれば、頭でっかちで融通の効かない魔術師なんて、役に立たないんだが……。
勘違いと自己顕示欲が肥大した連中は、飛びかかる右翼の連中に向けて魔術を放った。身を守るためとはいえ、一応それ味方だぞ。
ぐるるぅ? 呆れた様子のエイシェットの呟きに、堪えきれず大笑いする。だって「虫さえ同士討ちはしないのに」って、もう少し喩えがあるだろ。そこへフェンリルである双子の遠吠えが聞こえた。どうやら混ぜてくれと痺れを切らしたらしい。
仲間同士食い合わせる作戦なので、後半になったら乱入を頼むか。風に指向性を持たせて矢のように言葉を届ける。返事はやはり遠吠えだった。大きな獣の声がするってのに、地上はそれどころではない。
護衛は魔術師を守らなくてはならないのに、後ろから右翼の兵ごと撃たれた。まさかの背中を攻撃されたことで、護衛騎士まで敵に回す。どれだけ自滅するんだ、おい。これじゃ大きな魔法陣が作動しないぞ。
楽しそうに旋回するエイシェットに向けた攻撃は止み、身内同士で突き刺したり魔術をぶつけたり。騒ぎが大きくなるにつれ、前方にいた将軍とその周辺のお付きが動き出した。指揮官が動くと沈静化される可能性がある。邪魔するか。
迷ったのは一瞬だけ。その前に魔術師が足元の魔法陣に魔力を流した。巨大な魔法陣が発動の兆しを見せると、何人かの魔術師が同様に魔力を供給する。じわじわと動き出した魔法陣は、頭上のエイシェットから標的を変え右翼へ向けられた。お前ら、誰と戦うために来たんだよ、まったく。
こちらを攻撃してくれないと、弾いた攻撃が左翼に当たっちゃった作戦が使えないだろ。エイシェットの首を叩いて注意を引き、彼女に頼む。
「悪いけど、魔術師と右翼の連中に向けて炎を見舞ってくれよ。軽く頭皮を炙る程度な」
ハゲ量産の計画に、エイシェットは嬉々として乗った。まず右翼へ炎を飛ばし、それから足元の魔術師を襲う。当初の敵を思い出した魔術師が、魔法陣の発動先を変更していく。途中で変更すると歪むんだぞ。他人事ながら呆れた。そもそも頭上のドラゴンを狙う魔法陣を、無理矢理右翼の兵に向けようとした。挙句に発動直前にまた頭上へ戻そうとする。
魔法陣とはそこまで都合の良い存在じゃないんだが……まあ、今回に限っては助かる。まるで魔術師の無茶のせいで、攻撃対象が定まらなかったように見えるはずだった。
魔力を使ってレンズのような膜を張った。このレンズに当たった攻撃を、左翼へ飛ばすための装置だ。透明なので、地上から気付かれる可能性は低いだろう。人間はオレと違い、魔力を感知する能力を磨いてないからな。
「死ね、ドラゴン!」
叫んだ魔術師の言葉通り、エイシェットに向かって雷撃のような強い光が放たれた。イメージとしてはレーザー銃かな。それをレンズに当てて、向きを変える。くるっと一回転したエイシェットが、尻尾でレンズに触れた。直後に、弾いた攻撃が左翼を蹂躙する。レンズなので、角度を調整するだけで広範囲に被害を与えた。
「うわっ、えげつな……」
これは巨神兵だ。最悪じゃん。飛び散る人影を見ながら、エイシェットを労った。
「ありがとうな。お前の尻尾のお陰で本物っぽく見えたぞ」
彼女の銀色の鱗で、尻尾が攻撃を弾いたように見えたのだ。タイミングを合わせて回ったエイシェットの首に抱きついて褒めていると、もう待てないと遠吠えに急かされた。だから、後少し待てっての。
10
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる