【完結】虚

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第一章

31.新作の剣のテストを兼ねて

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 木造の粗末な屋根が真っ先に燃え上がる。かやぶきに近い構造だろう。都や大きな街に行けば石積みの建物があるが、山奥に作られた農民の小屋ではこんなもんだ。乾かした藁に似た植物は良く燃える。ぶわっと燃え上がる炎は、勝手に風に煽られて他の家に移った。

 村に魔族の魔力は感知できない。だが魔石の存在は確認できた。つまり、この村はすでに魔石の採取を行った。非道な方法を使う連中が占拠している証拠だ。農民ではなく、冒険者と名乗る荒くれ共や兵士崩れ。護衛に魔術師の一人二人いるかも知れないな。

 飛び出す住人を見つけるたび、上空を旋回するドラゴンが炎で追い回す。強烈な爪と嘴の攻撃だけでも厄介だが、エイシェットは炎のブレスも強かった。動物の世界で、上からの攻撃は数倍の威力を意味する。圧倒的強者であるドラゴンの攻撃に、人々は逃げ惑うしかなかった。

「やっぱ農民じゃねえな」

 村を作ったのは農民だろう。だが、文字通り炙り出された連中の体つきは農民ではない。武器を手に戦う連中の、鍛えた腕は太かった。剣や槍を手に騒ぐ連中をあしらうエイシェットの尻尾が、崩れかけた家を叩く。柱の折れた家が崩壊した。その陰に、いた。

「エイシェット、降りるぞ」

 ぐえぇ?! 驚いた声を上げる彼女の首筋をぽんと叩き、オレは下がった高度に魔力の道を作って駆け下りる。階段状に作り上げた透明の道を一気に降りた先、崩れた家の陰でこそこそと動く人影へ攻撃を加えた。

「風よ、散らして舞い上げろ」

 男が足元に描いていた蝋石の魔法陣を、強風で掻き消す。焦る魔術師の上に飛び降りたオレは、勢いを利用して首を掴んで捻った。ぐきりと嫌な音がして、手応えがぐにゃりと柔らかくなる。動かなくなった男を放り出し、蝋石を粉々に踏み砕いた。

 魔法を使うオレは蝋石を必要としない。それなら敵から奪う理由がないので、砕いて壊すことにしていた。他の魔術師が拾って使ったら危ないからな。粉を風で吹き飛ばし、動かなくなった男を見下ろす。首の神経を圧迫されただけで、まだ呼吸している。生け捕りとして最高の状態だが、フェンリルの兄弟はいないし……勿体ないが放置か。

 ぐるるるぅ。他の連中の目を惹きつけるエイシェットからの危険信号に、オレは収納から剣を引き出す。柄を握った手で鞘を押しやった。これで本体だけが抜ける。銀の刃はほんのり青を帯びていた。リリィ考案の新作だが、どのくらい斬れるか。

「折角だから確かめて報告しないとな」

 口元が笑みに歪む。オレの訓練の過酷さを知るエイシェットは、問題ないと判断して馬車を襲撃し始めた。逃げる連中も焼き殺すつもりらしい。その辺は任せる。彼女も憂さ晴らしになるし、どうせ馬車の中身は魔族から奪った魔石だろう。渡す気はなかった。

「貴様がドラゴンの仲間か!」

「くそっ、貴重な村を」

 口汚く罵る連中に無言で斬りかかる。言葉を交わすと自分が穢れそうだ。ぞっとする。言葉をしゃべる化け物としか認識できない人間を、まず一人。斬れ具合を試すために胴体を横なぎにした。背骨に当たる感触はあったものの、冗談のように振り抜ける。果物の種を切った手応えに似ていた。

 剣を振りかぶった男の胴体が腹から二つになって倒れる。

「こりゃすごい」

 冗談抜きで驚いた。修行でリリィとイヴの風呂に使う薪を割った時より楽だ。手元に引き寄せて刃の状態を確認するが、欠けどころか血も付いていなかった。にやりと口角が持ち上がる。斬れ味が鈍らないのは重畳だ。

 怯えて立ち竦んだ左側の男へ距離を詰め、下がろうとした首を落とす。転がる首、少し時間を置いて血が噴き出した。最上級の切れ味に荒くれ者共の表情が強張る。互いに目配せしたのは、挟み撃ちでも目論んだか。まあ、数十人単位で囲まれても抜けられる程度の地獄は見てきたぞ。

 ぐるりと囲むように広がった5人ばかりの包囲網を、オレは娯楽感覚で受け止めた。
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