55 / 135
第二章
55.仕掛ける先は決まっていた
しおりを挟む
地図を前に唸る。記憶を辿るが、覚えてない国の方が多かった。遠方の国は使者を送って応援だけ、なんてのばっかりだったし。
「どうしたの?」
「ここからここら辺まで、まったく覚えてない。大量の使者に会ったけど、誰がどの国の人か判断つかないぞ」
リリィに言われて滅ぼす順位を付けることにしたが、オレとしてはバルト国だけで満足だった。バルト国に召喚され、勇者としての肩書きと剣を押し付けられた。戦って帰ってきたオレを殺そうと決めたのもバルトだ。
顔を覗かせたカインは興味なさそうだった。戦いに直接関与する話でなければ、狩りの獲物の方が興味を惹くのだろう。気持ちはわかるが、話は聞いてくれ。首を撫でると、自分で位置を調整して撫でて欲しい場所を押し付けるカインに、再び話しかける。
「この国とか、もう読み方もわからん」
「あら、随分と軽い復讐なのね」
赤く染めた爪で地図を指差したリリィが、向かいに腰掛けた。その指が左から右へ移動していく。
「タイバーは魔石の最大輸入国、ヴァンクは魔王が討たれた直後に、魔族狩りを推奨した国よ。隣のドーレクは若いエルフを奴隷として……」
「わかった。それ以上はいいや。胸糞悪い話が続くんだろ? 全部滅ぼしちゃえばいい。ここから、ここまで」
リリィの指が触れた国々を含め、勇者を担ぎ上げ魔王を攻撃させた大陸の地図を手で撫でた。小首を傾げ反応を窺うと、大きな瞳がぱちくりと瞬く。
「任せるわ。私は魔王城を動けないもの」
守護のための結界膜を作り出し、魔族を庇護する彼女の魔力は、ほぼ全てが城に注力されている。外へ出ても戦う魔力は残っていないし、リリィに何かあれば城が危険だった。ここは魔王が守ろうとした魔族の最後の砦なのだ。
「ここは頼む。ところで……リリィは前に人間に恨みがあると言ったけど、何をされたのか聞いてもいいか?」
裏切られ、奪われ、捨てられた――リリィはそう言った。言葉を濁したり言わないことはあるが、彼女が嘘を吐けないのは本当らしい。イヴや双子のフェンリルから聞いた話を総合し、オレはリリィを信用していた。だから気になる。
オレを焚き付けて戦わせようとするが、その理由はなんだ? 復讐を後押しして、リリィは何を得る?
「そうね。話したことはなかったけど、愛した人に裏切られたわ。私を仲間に売り渡して、純潔を奪われ、能力を喰われ、最後に切り刻んで捨てられたの。元通り回復するまでに長く掛かったわ……気が遠くなるほどの間、集めた魔力を細々と繋いで生き延びた」
泣き出しそうな表情だった。悪いことを聞いたと思う。でも聞いてよかった。これで迷いも吹っ切れる。リリィがオレの帰る場所を守ってくれるなら、彼女の代わりに手を汚して復讐しよう。魔族である彼女が長い年月と語るなら、きっと当事者はもう死んでいる。それでも人間を憎み、許せずにいる彼女の復讐は終わらなかった。
「周囲から攻めるのと、バルトを落とすのはどちらが先かな」
明日の天気は晴れるか。天気を尋ねるような軽い口調でリリィに決断を委ねた。じっと顔を見つめた後、リリィが笑う。
「もちろんバルトよ、サクヤが宣戦布告してきたんでしょう?」
仕方のない子ね、そう微笑むリリィのセリフに反論せず、オレは口角を持ち上げて笑った。オレの本命だからな。アーベルラインより、丁寧にじっくりと潰してやろう。
「どうしたの?」
「ここからここら辺まで、まったく覚えてない。大量の使者に会ったけど、誰がどの国の人か判断つかないぞ」
リリィに言われて滅ぼす順位を付けることにしたが、オレとしてはバルト国だけで満足だった。バルト国に召喚され、勇者としての肩書きと剣を押し付けられた。戦って帰ってきたオレを殺そうと決めたのもバルトだ。
顔を覗かせたカインは興味なさそうだった。戦いに直接関与する話でなければ、狩りの獲物の方が興味を惹くのだろう。気持ちはわかるが、話は聞いてくれ。首を撫でると、自分で位置を調整して撫でて欲しい場所を押し付けるカインに、再び話しかける。
「この国とか、もう読み方もわからん」
「あら、随分と軽い復讐なのね」
赤く染めた爪で地図を指差したリリィが、向かいに腰掛けた。その指が左から右へ移動していく。
「タイバーは魔石の最大輸入国、ヴァンクは魔王が討たれた直後に、魔族狩りを推奨した国よ。隣のドーレクは若いエルフを奴隷として……」
「わかった。それ以上はいいや。胸糞悪い話が続くんだろ? 全部滅ぼしちゃえばいい。ここから、ここまで」
リリィの指が触れた国々を含め、勇者を担ぎ上げ魔王を攻撃させた大陸の地図を手で撫でた。小首を傾げ反応を窺うと、大きな瞳がぱちくりと瞬く。
「任せるわ。私は魔王城を動けないもの」
守護のための結界膜を作り出し、魔族を庇護する彼女の魔力は、ほぼ全てが城に注力されている。外へ出ても戦う魔力は残っていないし、リリィに何かあれば城が危険だった。ここは魔王が守ろうとした魔族の最後の砦なのだ。
「ここは頼む。ところで……リリィは前に人間に恨みがあると言ったけど、何をされたのか聞いてもいいか?」
裏切られ、奪われ、捨てられた――リリィはそう言った。言葉を濁したり言わないことはあるが、彼女が嘘を吐けないのは本当らしい。イヴや双子のフェンリルから聞いた話を総合し、オレはリリィを信用していた。だから気になる。
オレを焚き付けて戦わせようとするが、その理由はなんだ? 復讐を後押しして、リリィは何を得る?
「そうね。話したことはなかったけど、愛した人に裏切られたわ。私を仲間に売り渡して、純潔を奪われ、能力を喰われ、最後に切り刻んで捨てられたの。元通り回復するまでに長く掛かったわ……気が遠くなるほどの間、集めた魔力を細々と繋いで生き延びた」
泣き出しそうな表情だった。悪いことを聞いたと思う。でも聞いてよかった。これで迷いも吹っ切れる。リリィがオレの帰る場所を守ってくれるなら、彼女の代わりに手を汚して復讐しよう。魔族である彼女が長い年月と語るなら、きっと当事者はもう死んでいる。それでも人間を憎み、許せずにいる彼女の復讐は終わらなかった。
「周囲から攻めるのと、バルトを落とすのはどちらが先かな」
明日の天気は晴れるか。天気を尋ねるような軽い口調でリリィに決断を委ねた。じっと顔を見つめた後、リリィが笑う。
「もちろんバルトよ、サクヤが宣戦布告してきたんでしょう?」
仕方のない子ね、そう微笑むリリィのセリフに反論せず、オレは口角を持ち上げて笑った。オレの本命だからな。アーベルラインより、丁寧にじっくりと潰してやろう。
10
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる