【完結】虚

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第二章

72.人間が私に勝てる筈があるまい

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「てめぇ、嵌めやがったな!」

「下品な言いがかりはやめたまえ」

 ぐおおお!! オレとヴラゴのおっさんは顔を合わせるなり、殴り合いのケンカに突入した。くそ、おっさんのせいでエイシェットに迫られて大変だったんだ。寝てる間に服を脱がせようとするし、胸を顔に押し付けられたり、突然服を脱がれたり。

「ふぅ、人間が私に勝てる筈があるまい」

 ぐったりと地面に懐いたオレに、ヴラゴのおっさんがにやりと笑う。ナイスミドルの顔は腫れて見る影もないが、負けは負けだ。仰向けに転がって呼吸を整える。頭上に現れた影に声を張り上げた。

「エイシェット、ストップ!! ダメだ、攻撃禁止」

 番を害されたとブレスの準備を始めるドラゴンを制止し、痛む体でなんとか起き上がろうと足掻く。苦笑いしたヴラゴが手を貸してくれたので、引っ張って転がしてやった。ざまぁみろだ。

「お前、理解しておらんな。私が倒れたら誰がお前を助ける」

「あ……」

 並んで転がりながら指摘された言葉通り、吸血種は遠巻きに見ているだけだ。天敵のドラゴンが襲う可能性の高い場所に飛び込む勇気は、誰も持ち合わせなかった。生存本能優先は正しい。ヴラゴのおっさんも力尽きたのか、立ち上がろうとしなかった。一緒に転がって空を仰いで……いや、ドラゴンの腹を仰ぎ見る。

「ぞっとする光景だ」

「そうか? 襲ってこなきゃ可愛いぞ」

「ならば大事にしてやれ」

 両親を失った末っ子ドラゴンの生い立ちは、魔族ならほぼ全員が知っている。他のドラゴンもエイシェットを可愛がるため、人間のオレが番候補に選ばれたのは意外らしい。年齢の釣り合う同族がいなかったのが彼女の不幸の始まりか。

 視線を動かすと、吸血種達の後ろでアンデッドとなった人間が必死に働いていた。というか、そろそろおっさんの睡眠時間だろ。痛む体を転がして起き上がり、手を伸ばす。素直に手を取ったヴラゴを引き上げて、見守る吸血種に渡した。

「休むんだろ? 王家の屋敷の地下もなかなか立派だったぞ」

 地下牢じゃなく、ワインや備蓄の保管庫だったからな。落ち着くと思う。

「……よくわからん奴だ」

 食って掛かったくせに、対応が違うってんだろ? 夜行性の奴に昼間ケンカを吹っ掛けて負けた。こりゃ勝てないと諦めて降参し、きちんと相手の実力を認める。当然じゃないか。

 するりと腕を絡めるエイシェットが、首を傾げた。

「私の番を虐める、殺す」

 可愛い声と無邪気な仕草で、恐ろしいことを言うな。ぽんぽんと彼女の銀髪を乱暴に撫でて、溜め息を吐いた。次の国を落とす算段をしよう。いつまでもドーレク国に関わってる時間はない。

「オレは魔族を殺す奥さんは嫌だ」

「わかった。殺さない」

 あっさり前言撤回するドラゴン、苦笑いしながら立ち去る吸血鬼。城に戻れば最強のリリィ、オレの周囲は強者ばかりだ。もっと力を付けないと生き残れないか。いつまでもエイシェットに頼りっきりも情けない。

「次の国を落とす計画をするから、一度魔王城に戻ってるからな」

 ひらひらと手を振って地下に向かうおっさんの背を見つめ、オレはエイシェットの背に乗って魔王城へ向かった。
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