102 / 135
第三章
102.信じられる者は誰だ?
しおりを挟む
転がっていく。用意したダイスは数千回目にして、ようやく望んだ目を出した。闇の中で微笑み手を伸ばす。あと少しだ、そうしたら何もかも取り戻せるはず。
私を殺したあの男はすでに滅びた。だが我が身から奪った権能と魔力は健在だ。それを取り戻し、この身を完全復活させたら……何から壊そうか。愛していると言いながら胸を貫き、涙を零したお前は血を啜り肉を貪った。愛するからこそ許したかったが。
この暗闇に打ち捨てられ、届かぬ光に焦がれる。お前はもういないのに、それでも外を求めた。骨に肉や皮膚が蘇るたび、虫に食い荒らされ獣に食まれる。何度も味わう激痛と絶望が色を増して、地上に溢れ出た。生を謳歌する者よ、滅びればよい。
「奪われたすべてを取り返す義務があり、奪い返す権利があるの……だから邪魔をしないで」
お前を殺す気はない。新たなお前は以前のお前ではないから。大人しくしていれば見逃す気だった。なのに目覚める私を封じようとするのか? あの何もない暗闇の中に? 気高き我が身を……!
あの日、私は復活した。魔王という肩書を継承した、お前にそっくりの優しい子を滅ぼして――。
迷っても答えは出ない。だがずっと不思議だった。助けてもらった恩と世話になる負い目から、追及できずに来たが……リリィは「何」だ? 魔術を使うが人間ではない。大量の魔力を有し、黒い霧を浄化する唯一の魔族だが種族は不明だった。
角も牙もない。美しい外見を持ち、魔王が死んでから復活したと言う話しか口にしなかった。嘘がつけないのは種族特性だと言われたが、ならば種族名を口にしないのは? 長寿のエルフの婆さんも知らない種族なんて、存在するのか?
それほど長く眠っていたなら……封印されたという意味か。
――リリィを信じるな
蘇ったのはヴラゴのセリフだった。強く堅実で誠実なあの男が、オレに忠告した。その意味と価値が重くのしかかる。そうだ、あの言葉を聞いてすぐじゃないか。魔王城が襲われて混乱する中、あれほどの強者であるヴラゴが死んだ。
魔王城には結界があったはず。裏の祠から人間が出て……? 女神を封印した祠だと聞いたが、なぜあの場所に魔王城がある? どちらが先だ。城の裏に女神を封じたのか、それとも女神を封じた祠を守るために魔王の城が建てられたのか。
魔族の王が魔王で、圧倒的な強者が引き継いできた。血族であることが多いのは、様々な種族を混ぜながら強さを保った魔王の一族の努力の賜物だ。なら、どうしてそこまでして魔王の地位に固執する?
魔王城から離れることが許されず、王となっても特別な権限や能力が増えるわけでもない。魔王になることはデメリットの方が多い気がした。行動の制限と城の結界を維持する義務、魔族を守ることも王の務めのひとつ。
「くそっ、こんな時に相談する相手もいないなんてな」
「私、いる」
頑張って一緒に考える、だから! 訴えるエイシェットが腹に飛びつき、半泣きで頬をすり寄せた。
「ごめん、そうだな。まだ支離滅裂だが……怖い話を聞いてくれるか?」
鼻を啜る彼女が頷くのを待って、オレは恐ろしい仮定を口にした。
私を殺したあの男はすでに滅びた。だが我が身から奪った権能と魔力は健在だ。それを取り戻し、この身を完全復活させたら……何から壊そうか。愛していると言いながら胸を貫き、涙を零したお前は血を啜り肉を貪った。愛するからこそ許したかったが。
この暗闇に打ち捨てられ、届かぬ光に焦がれる。お前はもういないのに、それでも外を求めた。骨に肉や皮膚が蘇るたび、虫に食い荒らされ獣に食まれる。何度も味わう激痛と絶望が色を増して、地上に溢れ出た。生を謳歌する者よ、滅びればよい。
「奪われたすべてを取り返す義務があり、奪い返す権利があるの……だから邪魔をしないで」
お前を殺す気はない。新たなお前は以前のお前ではないから。大人しくしていれば見逃す気だった。なのに目覚める私を封じようとするのか? あの何もない暗闇の中に? 気高き我が身を……!
あの日、私は復活した。魔王という肩書を継承した、お前にそっくりの優しい子を滅ぼして――。
迷っても答えは出ない。だがずっと不思議だった。助けてもらった恩と世話になる負い目から、追及できずに来たが……リリィは「何」だ? 魔術を使うが人間ではない。大量の魔力を有し、黒い霧を浄化する唯一の魔族だが種族は不明だった。
角も牙もない。美しい外見を持ち、魔王が死んでから復活したと言う話しか口にしなかった。嘘がつけないのは種族特性だと言われたが、ならば種族名を口にしないのは? 長寿のエルフの婆さんも知らない種族なんて、存在するのか?
それほど長く眠っていたなら……封印されたという意味か。
――リリィを信じるな
蘇ったのはヴラゴのセリフだった。強く堅実で誠実なあの男が、オレに忠告した。その意味と価値が重くのしかかる。そうだ、あの言葉を聞いてすぐじゃないか。魔王城が襲われて混乱する中、あれほどの強者であるヴラゴが死んだ。
魔王城には結界があったはず。裏の祠から人間が出て……? 女神を封印した祠だと聞いたが、なぜあの場所に魔王城がある? どちらが先だ。城の裏に女神を封じたのか、それとも女神を封じた祠を守るために魔王の城が建てられたのか。
魔族の王が魔王で、圧倒的な強者が引き継いできた。血族であることが多いのは、様々な種族を混ぜながら強さを保った魔王の一族の努力の賜物だ。なら、どうしてそこまでして魔王の地位に固執する?
魔王城から離れることが許されず、王となっても特別な権限や能力が増えるわけでもない。魔王になることはデメリットの方が多い気がした。行動の制限と城の結界を維持する義務、魔族を守ることも王の務めのひとつ。
「くそっ、こんな時に相談する相手もいないなんてな」
「私、いる」
頑張って一緒に考える、だから! 訴えるエイシェットが腹に飛びつき、半泣きで頬をすり寄せた。
「ごめん、そうだな。まだ支離滅裂だが……怖い話を聞いてくれるか?」
鼻を啜る彼女が頷くのを待って、オレは恐ろしい仮定を口にした。
11
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる