【完結】虚

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
132 / 135
第三章

132.女神の最期を道連れに

しおりを挟む
 言葉通りに暴れる風が女神を切り裂き、吹き出した血を炎が燃やしていく。水が触れた場所から溶けていくリリィを、大地が飲み込んだ。

 その激しさは予想以上だ。オレに残った魔力を全部やると宣言したため、急速に魔力が吸い出されるのがわかる。女神を飲んだ大地が大きく身を震わせ、立っていられずに座り込んだ。

「嫌だ、サクヤっ、やだぁ!!」

 ずるずると大地に倒れるオレの手を握り、必死で泣き叫ぶエイシェットを見上げた。やっぱ美少女だよな。オレにはもったいない。覆い被さって泣く彼女の銀髪が顔を擽り、表情が自然と和らいだ。

 不思議なほど痛くない。苦しさも感じなかった。こんなんでいいのかな、オレは日本を壊した張本人だってのにさ。激痛も覚悟してたんだぜ? 全身から抜けていく魔力は生命力だ。オレ自身を生かす魔力もすべて手放した。




 世界は今日も穏やかだ。見上げた先の木漏れ日が心地よく、目を細めて二度寝しようとしたオレに、勢いよく美少女が飛びついた。柔らかな銀髪がさらりと揺れる。その毛先を捕まえて口付けると、真っ赤になって照れた。

「昔と別の人みたい」

「ん? 昔の方がいいか?」

「どっちでも好き」

 王子様を気取ってみたら、逆にこっちが赤面させられた。可愛い番の頬にキスをすると頬を膨らませる。子供扱いされていると思ったのか? 逆だよ、もったいなくて手が出せないんだ。

「ここにいたか」

「イヴリース、仕事はどうした?」

「片付けてきたさ、サボったサクヤとは違う」

 肩をすくめて誤魔化す。

「まだ馴染まぬか」

 昔の口調に戻った年若い姿の友人は、初めて出会った頃の彼に近づいている。同一人物と知ってる者は少なく、ほとんどはイヴリースの隠し子だと認識しているらしい。本人が否定しないので、その話で落ち着いていた。

「ぎこちないけど、不自由はないぞ」

「それならよいが、エイシェットが生殖機能に問題が出たかもと泣きながら嘆願するので、心配になってな」

「は?」

 オレが役立たずって意味か? 確かにまだ手を出してないが……視線を向けると心配そうな彼女が首を傾ける。くそ、可愛い。

 この体はイヴリースが再構築した器だ。魔王の体を作り直すのと同じ原理だというが、説明されても理解できなかった。魔力を使い切って召されかけたオレを魔力で包み、無理やり器に放り込んだ荒療治のお陰で、10年近く寝たきりだった。

 まあ、感謝はしてる。お陰でエイシェットの番として約束を守れそうだし。

「目覚めて1年も経つのに、まだ番っていないと泣かれたのだ。確認するのは当然であろう」

 俺が作った器だし? 不具合があるなら治すぞ。親切そうに下世話な話をするんじゃねえ!

 ひらりと手を振って拒否する。

「エイシェット、2人でデートしようか」

「する!!」

 大喜びの彼女と大空へ舞い上がる。見送る魔王の姿が見えなくなった頃、こそっと彼女に囁いた。

「オレをエイシェットの夫にしてくれるか?」

 驚きと興奮で甲高い鳴き声をあげた銀竜は、曲芸飛行しつつ海岸を目指す。どうやら彼女は初デートの地をご希望らしい。ひんやりとした鱗に全身を添わせ、伝わる熱に目を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...